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風(ゲイル)


 俺の名は“ゲイル”。

 狼型の魔獣だ。


 話すと長くなるから詳しくは言わないが、色々あって勇者の仲間をやっている。

 現在の勇者のパーティは俺を入れて7名だ。

 勇者ファイ、戦士アントン、魔法使いルーナ、神官エリー、武闘家キッド、盗賊セレナ。

 その内の5人は人間で、1人は半獣人。

 そして俺は完全な魔獣だ。

 あと、俺は一応「剣士」だ。

 剣を(さや)(おさ)め、左半身に携帯している。


 他6人は二足歩行で歩いているのに対し、俺だけ四足歩行である。



 さて、そんなことはどうでもいい。


 俺らは今、世界を救うための旅をしている真っ最中だ。

 次の目的地は今いる国にはなく、別の国にあるらしい。

 その国へ行くには船に乗ることが必要らしい。

 なので、船に乗るために船着場へ向かっている最中だ。




「大丈夫かな、ゲイル・・・。」

「なにがだ?」

「俺、ちゃんと世界を救えるかなぁ・・・。」

「不安を抱くな、勇気を出せ。」


 ファイは不安を感じていたようだ。

 いつものことで、慣れてはいるがな。


 そんな心配性の勇者の相談に乗るのは、いつも俺の役目だ。

 結構な旅を続けてきたが、まだ勇者としての自覚がないらしい。

 一人前になる日はいつになるだろうか。



 先程みたいに人間と会話が可能だ。

 俺は動物ではなく“魔獣”だからな。

 まあ、魔獣の中ではかなり動物に近いが。






 さて、着いたか。

 船着場に。


 船が止まっており、いつでも行けそうな感じだった。

 船の持ち主だと思われる男は、こちらに気付きこちらを見ている。

 遠慮なく俺らは近付き、男に話しかけた。


 勇者一行だと証明してみたら、すぐに乗船を許可してくれた。

 話の分かる人で良かった。


「少し時間がいる。 出航は一時間後でいいか?」

「はい、ありがとうございます。」


 一時間後か。

 それまでは俺たちもこの町で準備をしていたほうがいいな。


「あー、それと・・・。 そこにいる狼は乗船できない。」

「・・・はい?」


 ・・・なんだと?


「ど、どうしてですか・・・?」

「あんた達が行こうとしてる国は、魔獣の入国を禁止しているんだぜ?」


 ・・・そういうことか。

 思わぬハプニングが起きたな・・・。


「で、でも、彼も仲間なのですが・・・。」

「俺に言ってもどうしようもねえ。 残念だが、待っててもらうしかねえぞ?」


 船主は優しく対応してくれていた。

 仲間たちは俺をなんとしても連れていこうとしていた。



「あ、あの・・・、私は・・・?」


 すると、セレナが船主に聞いた。

 彼女は一行で唯一の半獣人だ。

 たしかに魔獣ではないが、獣ではあるから微妙だな・・・。


「うーん、たぶん大丈夫じゃないかな?」


 船主は曖昧(あいまい)な返事をした。

 おそらく船主もそこまで詳しくないのだろう。






 さて、一時間が経った。

 船の準備は終わっているようだ。


「ねえゲイル、本当にいいの・・・?」

「仕方ねえだろ。 入国が拒否されているんだから。」


 俺は一時間の間に決断した。

 というか、答えは一つしかなかった。

 入国ができないのなら、俺はここで一旦パーティを外れるしかない。


「でも、ゲイルさんがいなくて私たち大丈夫でしょうか・・・。」

「そうだよな。 旦那がいつも俺たちを支えてくれたようなものだったから・・・。」


 仲間たちは俺がパーティから抜けることを心配しているようだった。

 実際今まで俺は、色々な場面で仲間たちを微力(びりょく)ながら助けていた。

 全員まだ若い。

 未熟な一面が結構あった。


 だが、俺は今まで彼らを見てきた。


「心配するな。 お前たちは俺が居なくても大丈夫なくらいに立派になっている。 やれるさ。」


 もう全員、立派な勇者たちだ。

 肝心の勇者はまだ少々頼りないがな。


「ゲイル・・・。」

「行って来い、勇者。」


 だが、彼は勇者だ。

 俺には分かっている。




 俺以外の皆は船に乗り、出発した。

 俺は船着き場の端で彼らを見送った。

 ずっとこちらに向かって手を振っているのが見える。


 「・・・本当にこれで良かったのか。」

 一瞬でもそういう考えが頭に浮かんでいた。

 だが、「こうするしかなかった」と自分自身を説得して、そういうことはあまり考えないようにした。



 俺は船があまり見えなくなると、船着き場から離れて町へ戻った。


 久しぶりだな・・・。

 こうして独りで歩くのは。


 周りの人が俺に注目していた。

 すぐに視線を他へ()らしていたが、バレバレだった。

 魔獣自体は無害なら町にもいたりするが、やはり魔獣は魔獣だしな。

 人を簡単に殺せる力を持った種族だ。


 ・・・とりあえず、腹ごしらえでもするか。




「申し訳ございません。 動物や魔獣単独でのご飲食は禁止されておりますので・・・。」

「な、なんだと・・・!?」


 今になって衝撃の事実が発覚した。

 今まではアイツらがいたから俺は食べていけたのか・・・。


「だが、どうしてだ・・・?」

「・・・大きな声では言えませんが、魔獣単独でご来店する行為を快く思わない方などもいるのです。」

「・・・なるほどな。」


 いわゆる生物差別ってヤツか。

 魔獣が人間の真似事をすることに激しく憎悪を抱く奴とかいるもんなぁ・・・。


「それに、あなたのような四足歩行の魔獣は、食事が汚いことがありますし・・・。」

「人と違って前足()が使えねえもんな。」

「それ自体は仕方ないことなので禁止理由には入ってないのですが、やはり快く思わない方が・・・。」

「まあ、そうだよな・・・。」


 生き方や文化の違いを受け入れることはとても難しいことだ。

 仕方ない。


「すまなかった、邪魔したな。」

「いえ、こちらこそ。 人とのご来店を心よりお待ちしております。」

「ああ、また来る。」


 俺は飲食店を出た。


 どうやら、狩りをするしかないようだな。

 仕方ない。






 町から出て、近くの森の中で狩りを(おこな)っていた。

 ・・・しかし、まだ一体も捕獲していない。

 なかなか現れないのだ。

 一体これはどうしたものか・・・。


 すると、茂みがガサガサと音を立てていた。

 ついに獲物が現れたと思い、身構える。

 ちなみに、動物くらいは剣を使わなくても狩ることができる。


 茂みの中からなにかが出てきた。

 ・・・しかし、それは食べられないものだった。


「うわっ、魔獣!!?」


 人間の男だった。

 見た目からして、警備隊か?



 『国家警備隊』。

 名前の通り、国の警備を担当する団体だ。

 人命救助や魔獣退治、国全体の警備を仕事としている。

 腕章(わんしょう)には国のマークが描かれており、どこの国の警備隊か一発でわかる。

 目の前にいる警備隊員の腕章には「ハートマークがついたハト」のマークが描いてあった。

 この国のマークだ。



 その警備隊が何の用だ・・・?


「おい、魔獣だ! 力を貸してくれ!!」


 男の言葉に引き寄せられ、3人の男女も茂みの中から出てきた。

 どうやら、俺を倒そうとしているようだ。


「待て、俺はちゃんと"無害証明書"を持っている。」

「・・・本当か?」


 "無害証明書"とは「善良な人々に危害を加えない」という事を証明するものだ。

 厳しい審査を受けた果てに貰えるため、信用度の高いアイテムだ。


「・・・なら、見せてみろ。」

「分かった。 悪いが、俺の腰にある鞄を開けてくれないか?」


 証明書は(かばん)に入っている。

 しかし、この鞄を開けるのは一人では結構面倒くさい。

 一番楽なのは他人に取ってもらうことだ。

 だが、さすがに中のモノを触らせるわけにはいかないので、鞄を開けてもらうことだけにした。


「・・・断る。 俺らはまだ疑っている。」

「ちっ、そうかい。」


 断られたので、一人で開けることにした。


 テキトーに落ちている木の棒を口にくわえ、鞄を開けようとした。

 とても苦戦したがなんとか鞄を開けられ、中のモノを地面に落とした。

 その中の一つである証明書を口にくわえて、目の前の警備隊員に見せた。


「・・・確かに"無害証明書"だな。」


 分かってくれたようだ。

 後ろの3人も後ろからのぞき込んでいた。


「失礼した。 最近この辺りに危険な魔獣が出ているという報告を受けていたので、もしかしたらと・・・。」

「そうだったのか。」

「もし見つけたのなら報告をしてくれ。 それじゃ。」


 警備隊は証明書を俺に返すと、そのままその場を去ろうとした。

 俺は瞬時に行く手を(ふさ)いだ。


「待て。 地面に落としたモノを拾うのを手伝ってくれ。」


 先程証明書を出すために、複数のモノを落としてしまった。

 一人でも拾えるが、時間がかかる。

 手伝ってもらうのが一番早い。


「悪いが、魔獣を探さなければならない。 危険だからな。」


 そう言って、俺の横を通って森の中に入っていった。


 ・・・まあ、仕方ないか。

 彼らには彼らのやるべきことがある。

 邪魔するわけにはいかないか・・・。


 俺はため息をついて、モノを拾い始めた。




 ・・・くそ、入らねえ。

 体を横に倒したり、口でくわえて鞄に向かって投げたりなど、色々なことをしたが、なかなか入らない。

 勇者一行に入る前もこんなだった。


 また、こういう事をする日が来ようとはな・・・。



 相変わらず鞄にモノが入らない。

 あと何時間こうしていることだろうか。

 食事もまだなのに・・・。


 その時だった。

 俺の鞄に違和感を感じた。

 なにかが入ってきた。

 俺はすぐに鞄の方を見た。

 すると、そこには先程の警備隊の一人である女性がいた。


「お前、なにをしている。」

「ど、どうも・・・。」


 女性隊員は苦笑(にがわら)いをしながら、(てのひら)を見せてきた。

 よく見ると、もう片方の手には俺の私物を持っていた。

 そして俺の私物を鞄へ入れた。


「魔獣退治に行ったんじゃ・・・?」

「そうだが・・・、迷惑をかけてしまったし、これくらいは手伝おうと思ってな。」

「いいのか?」

「ああ。 隊長に許可貰ったし。」


 女性隊員は次々と落ちている俺のモノを拾っては鞄に入れてくれた。

 数分後、全部拾うことができた。


「助かった、礼を言う。」

「いや、迷惑をかけたのはこちらだし・・・。」

「あんたらは仕事をしただけだろ。 なにも悪くねえ。」


 俺は腰を上げて、四足歩行でしっかりと立ち上がった。

 鞄の中にモノが全部戻ったことを感じた。


「では、私は隊長たちの元へ戻る。」


 片膝をついていた女性隊員も立ち上がった。

 そしてお辞儀をした。


 彼女が森の中へ行く前に、俺は言葉を発した。


「俺も少しだけついていっていいか?」

「・・・はい?」


 女性隊員はこちらを振り向き、不思議そうな顔をしていた。

 俺は彼女に近付き、目の前で座った。


「俺は元々狩りをするために森に入った。 ついでに魔獣探しを手伝う。」

「それは、嬉しいが・・・、危険だから気持ちだけ受け取っておく。」

「んじゃ、手伝わねえから同行だけさせてくれ。」


 そう言って、俺は森の中へ入った。

 後ろから音がして、彼女もついて来ていることがわかった。


 彼女はなんとか俺を止めようとしたが、俺は一切引かなかった。






 あれから数十分が経った。

 正直、右も左も分からない状態になっていた。


「おかしいな。 隊長たち、そんなに遠くへ行ってしまったのか・・・?」


 女性隊員はすっかり俺を止めることを諦めて、一緒に行動している。

 俺はというと、さっきから獲物を探していたが、なにも見つかってない。


「さっきから動物を見ねえな。 町へ入る前には確かに見たハズなんだが・・・。」

「確かにそうだな・・・。」


 動物を見かけない・・・。

 危険な魔獣・・・。

 ・・・まさか。



 ふと俺は耳を傾けた。

 なにか変な音が聞こえたように思えたからだ。


 しばらく歩みを止めず、聞くことに集中した。

 そして、なにか声のようなモノを聞き取った。


「どうやら"危険な魔獣"がいるという噂は本当のようだな・・・。」

「え?」


 俺は一度止まった。

 そして方向を変えた。


「こっちだ、ついて来い。」


 俺は音の方向へ走り出した。

 後ろから女性隊員がついて来ているかは分からなかったが、俺は一切足を止めなかった。

 聞こえた声が、どことなく"叫び声"に聞こえたからだ。



 しばらくして茂みに飛び込んだと思えば、簡単に抜け、少し広い場所に出た。

 俺は走るのをやめ、前方を警戒した。

 数秒後、茂みの中から女性隊員が出てきた。

 どうやらちゃんとついて来ていたようだ。


「こ、これって・・・。」


 女性隊員も俺と同様に、前方にある"モノ"に注目していた。

 今にも腰が抜けそうになっている。

 俺は気にせず、前にある"モノ"に目線を向けたまま喋った。


「ああ、おそらくコイツが探していた"危険な魔獣"だろう。」



 前方にいる"危険な魔獣"は4、5メートルはあるであろう巨体で、クモとカマキリとトカゲを合体させたような風貌(ふうぼう)をしていた。

 言葉だけでは伝わりにくいだろうな。

 魔獣とはそういうモノだ。


 よく見ると、周りには先程の3人が倒れていた。


「隊長、みんな!!?」

「動くな。 下手に動くと奴を刺激するかもしれん。」

「なら、どうすれば・・・。」


 俺は魔獣の外見を見た。

 弱点っぽいところを探したが、特に見つからなかった。

 ・・・いや、一つだけあった。


 俺は隣にいる女性隊員に小さめの声で喋りかけた。


「頼みがある。」

「なんだ?」

「しばらく(おとり)になってくれ。」


 その言葉を聞いて女性隊員は体をビクつかせた。


「え!?」

「約束する。 必ずコイツを倒してやるから。」


 女性隊員はかなり困惑していた。


「あんたは一体・・・。」

「話は後だ。 頼む、やってくれ。」


 女性隊員はなにか言いたそうだったが、むちゃくちゃなジェスチャーをしただけで終わった。

 そして肩の力を抜いて、一言だけ言った。


「死んだら、化けて出るからな・・・。」


 その言葉を言い終わったと同時に、左斜めの方向に一直線で走り出した。

 当然魔獣は視線を俺から女性隊員の方へ向けた。



 そのチャンスを逃さなかった。



 俺は高く跳び上がり、頭を下に向けた。

 そして左半身に携帯している鞘から剣を抜き落とした。

 落ちた剣は、剣身(ブレイド)が地面に刺さった。


 俺は着地し、剣を目掛けて走り出した。

 剣の目の前で低く跳び上がり、剣の(ヒルト)をくわえ地面から剣を抜いた。

 着地と同時に瞬時にくわえ直し、今度はかなり高く上を目指して跳んだ。

 大体4メートル近く、魔獣の額くらいの位置だ。

 まあ、後頭部しか見えないから分からないが。


 魔獣は女性隊員に夢中でコチラに気付いていない。


 俺は魔力を放出した。

 剣は稲妻を(まと)い、輝いている。

 そして首目掛けて、勢いよく突撃した。

 俺の種族の技である、風の力を利用して高速で移動する技を使ってだ。



 そして、俺の剣の刃が魔獣の首を斬り裂いたのだった。






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