1話 旅立ち
その後、そのドラゴンの死体はどうする事も出来なかった。
捌ける物なんて持っていないし、そもそもどこを捌いて良いかもわからない。
だから綺麗な傷のついていない鱗を槍で剥がし、腕の先に付いている爪を槍でどうにかして取り、もう片方の角を根本に槍を差し込んで無理やり抜き取る。
幸いな事に死んだ事でドラゴンの全身に力が通ってないのか子供の俺の力でも抜けた。
それを家まで持ち帰って俺の宝物を隠している場所に麻縄で作った袋に入れて保管する。ドラゴンの素材だ。絶対に使う場面が出てくるはず。と稚拙な頭で考えた。
そして父さんには何も取れなかったと言っておく。
肉は正直惜しいけどしょうがない。
そして気づいたことがある。多分今まで感じたことのない力が俺の身体を巡っている。何故わかるかと言うと、まぁ感覚だがそんな感じがすると言うだけ。
その力の源はドラゴンのマーク。
この日はその後普通にご飯を食べて寝た。ちなみにしっかりとその日の分の農作業は終わらした。
次の狩りの日。俺は槍を持ち森へ行く。今日も1人だ。父さんからは「一緒に行こうか?」と言われたが最初は自分で1匹狩ってみたいと言って1人で行っている。
何故そんな理由まで付けて1人で来たのかは今の力を試すためだ。
この2日で絶対に力があるのは確信している。
「目覚めよ」
俺は右手の甲を外に向けるように構えそう口に出す。
その瞬間に紋章から雷が放たれる。周りの木々を焦がしながらバチバチと音を鳴らして放電する。
俺は自分で放っているからか全く効く感じはしない。
「雷......」
という事はあのドラゴンは雷を使うドラゴンだったのだろう。
「雷ってどんなことが出来るんだろう...」
本当ならあのドラゴンと戦った上であのドラゴンがどんな風に雷を使うのか学ぶ所だったのだが、それも出来ないし。
「でも取り敢えずこの出てる雷を収縮させる事は出来るだろ...」
バチバチと至る所に放電している雷を操って一点に集中させようとするが出来ない。
最初のまま、変わらずに全方向に放電している。
「これは前途多難だなぁ...」
それから1年が過ぎ、ようやく雷を操れるようになった。そのおかげか色々な形に出来る様にもなった。
例えば、最初にやろうとしていた収縮を使って雷を一旦集中させ、1本の線のようにする。通称、光線。
これは一旦集中させたお陰か本当なら周りに飛ぶはずだった威力がそこだけに集中してとてつもない貫通力を誇っている。
ちなみに実験で俺が知っている最も硬いあのドラゴンの鱗に向けて打ったら貫通するほどの威力を持っている。
そして次は雷装。読んで字の通り、この技は自分の身体に雷を装備する感じだ。雷で鎧などを作って装備する。
そうすれば敵に触れただけで感電させることができるし不意打ちにも有効だと思う。
取り敢えず形となった物はこの2つだ。
狩りの合間を縫ってやっていたことだからあまり時間は取れないし、そもそも誰も教えてくれる人がいないので独学になっているところが問題だろう。
ちなみに村の中では俺は変人という風にされている。
まだ子供なのに友達も作らずに時間が有れば森に入る。
俺と同年代の子供達も俺を不審がって近づいてきすらこない。
まぁ、そんな事はもうどうでもいい。正直この力をもっと上手く使えるようになりたいし、もっと強くなれると思うから。
それから2年後。
「雷轟」
雷を自由に操れるようにまでなった。
空から雷を降らすことも出来るし、雷に関することならなんでも出来る。
そして、この2年の間に気づいたことだが、雷を身体に通すと瞬間的に筋力や俊敏性など身体能力が爆発的に増加する事がわかった。
これを俺は纏雷と呼ぶ事にした。これも文字通り、雷を纏う。
ただし、雷装と違うのはあれは放電している雷を外装としてくっ付けているだけだが、この纏雷は自らの身体に雷を流して強化を行う。
そして、今日は俺にとっても父さんや母さんにとっても重要な日だ。
「じゃあ母さん、父さん。行ってくるよ。」
「うん。いってらっしゃい。たまには顔を見せるのよ?」
「この村にも名前が聞こえるくらい立派な冒険者になるんだぞ!その力が有れば余裕だろ?」
と父さんはぐっ!と親指を立てた笑う。
(そうか。父さんにバレてたのか...)
「任せとけ!最強の冒険者になって母さんと父さんを養ってやる!」
「待ってるわ。」
「俺たちより先に死ぬんじゃねぇぞ」
俺は16年間住んでいた家を背にして村を出る。
俺の冒険はここから始まる。
あ、終わりじゃないよ?
完!みたいな雰囲気出てるけど始まったばっかだよ!