プロローグ
「雷轟」
静かにその一言だけを口にして害獣に槍を突きつける。
害獣は槍から発せられた...いや正確には俺の身体から発せられた雷によって全身の筋肉が痙攣するどころか全身が雷によって焼かれ、肉の焼けるいい匂いがする。
「ふぅ。もう3年か......」
3年前に起こった事は今でも鮮明に思い出せる。
人生を激変させたあの出来事。
そして右手の甲から腕にかけて真っ黒な刺青のようなもので雷を纏った竜...に見える模様を見て「あぁ、懐かしいなぁ」
そう言ってしまうのも無理はないだろう。
何故ならあまりに濃すぎた。
この3年間は生まれてから13歳までよりも何倍も。
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「おし!アーク!お前も今日から狩りだ!」
そう言われたのは誕生日の1日後だ。
6歳くらいからだろうか。親の手伝いとして畑をいじり、野菜を育てる。
それを何度も繰り返して生計を立てていた。
それが狩りになる。
「よし!」
とても嬉しいっ!
今まで農業に関する道具しか持った事はなく、武器など危険な刃物類には近づけもしなかった。
いや、くわとかも結構危険だけどね。
前、冬から春に変わる時に畑を掘り返していたら畑の土の中で寝ていた土竜の首にくわの先が直撃して殺したことがあった。
だから意外と農具も危険なのだが......
あ、ちなみに土竜は美味しくいただきました。美味しかったです。ちょっと匂いが臭かったけど......
その事は置いておいて......
とにかく武器みたいなのは男の浪漫みたいなものだ。近所の同年代の友達と木で剣を作って戦う遊びをしたり、一度は経験があると思う。
「アークの得物はこれだな」
そう父さんから渡されたものは子供用に少し持つ部分が短くなった槍だ。それでも俺の身長以上の大きさはある。
この村では狩りをする時は基本槍を使っている。
多分安全マージンを取るためだろう。
英雄と呼ばれる人たちはみな剣で成り上がっているから剣がかっこよくて主流みたいな感じがあるが、実際農民からしたら槍の方が扱いやすい。
初心者でもただ、矛先を相手に向けて突き刺すだけ。
だが剣は刃をしっかり立てて振り下ろさないといけない。それに質のいい剣じゃないとしっかり切れない。
ほぼ鈍器と変わらないものになる。
だから槍。理に適っている。
「まずは1人で森に行ってくるといい。兎でも取ってこればアークの晩ご飯に兎肉が付くぞ?」
そう言われて俺は槍を力一杯握り締めて家から飛び出す。
肉は大事なのだ。特にこの育ち盛りの時は。
最後に肉を食べたのは昨日だが、それはスープに入っていた肉片。しっかりと食べたのはもう1週間ほど前だろう。
近くの森ならそう大きな害獣は出てこない。魔獣など出ないだろう。
「結構草生い茂ってるな......」
獣道的なものはあるがそれも倒木の下を通っていたり長い草に隠れるように出来ている。実質放置された場所に入っているようなものだ。
森に入ってから15分ほど経った頃だろう。
「全く何もいないんだが?」
虫のさざめきや小鳥の囀りなどは聞こえてくるが兎の姿形も見えない。
「やっぱそう簡単に見つかるわけないか...」
足もボロボロだ。歩き疲れたとかではなく外傷として草とかで足を切ったりしてボロボロなのだ。
歩いていると突如木々の先から光が差しているのが見える。
どうやら先が開けた空間になっているようだ。
「.......え?」
その先にある開けた空間には、確実に今の俺が出会うべきではない生物がそこにいた。
「ドラゴン.....?」
そこにはドラゴンが木々を上から踏みつけるようにして寝そべっている。
いやよく見るとドラゴンの外装はボロボロだ。
鱗なども所々剥がれ落ち、血が流れている。頭部に生えていたと思われる角は片方半ばから折れている。翼も飛膜に穴が開き今にも死にそうだ。
「これは......」
チャンスだ。こんな得物が弱った状態でこちらに気づかずに寝ている。
こっそりこっそりと、足音を立てず、息を殺して近寄る。近づいてわかった事は殆ど生きていない仮死状態だという事。
だから俺は思いっきり槍をドラゴンの頭部。脳に突き刺し完全に絶命させる。
その瞬間、そのドラゴンから光の球の様なものが出て俺の手の甲から腕に掛けてこのドラゴンが飛んでいるようなマークが現れる。
「なんだ...これ...」
それは全体は黒色だが、俺には点滅しているようにも見えた。