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フランケンシュタインの花嫁  作者: 天柘結び
3/3

始まり 2話

体調不良や家庭の事情などの諸事情により、投稿が二週間ほど空きました。本当にすみませんでした。

走った。イディアは、僕は走る。

森の中、井戸を出てから走り続けた。

僕はお父さんと出かけることを楽しみにしてたのに、お父さんにとっては別にそうじゃなかった。

そうじゃなかったら、一緒に出かけてくれたはずなのに。


「わっ……!」


そんなことを考えながら走っていたイディアは足元に張った根に気が付かず、盛大に転んだ。

転んだ勢いのまま、少し先にあった斜面をイディアは転がり落ちた。


イディアは驚き目を思い切り瞑ったため見えなかったが、ザクリ、と言う何かを裂いた音が聞こえた。



 顔から滑るように砂利道に着地したイディアはそれでも起き上がろうとする。が、立ち上がれない。

 顔についた泥を拭おうと、服の袖を、顔に押し付ける。


「いっ……たぁ」


 拭った瞬間、一際強い痛みが襲う。

 よく見ると裾は血でベッタリとしている。

 痛いのは、顎。

 触ってみると手に滲んだ汗が染みて、ペタリと指が張り付き、もっと痛い。


「っは……ふっ、うぇ、ぐっう……」


 傷みを自覚すると、涙が溢れてくる。

 痛くて痛くて堪らない。

 涙が止まらない。


 でも、痛いなんて言えない。


「う、うぁ…げほ」


 止まらない涙に呼吸が苦しくなって、顎から垂れる血を拭っても止まらない恐怖に鼓動も速くなる。

 息を、吸わなきゃと顔を上げる。


「っ、あ……」


 目の前に広がったのは、少しだけひらけた場所に静かな湖畔。

 太陽を反射し、キラキラと輝いている。


 イディアは立ち上がり湖畔の淵へと近づく。


 湖に映った自分の顎は真っ赤で、右側の口の端から斜めにパックリと裂けている。

 そして右側のサイドの髪が一房程、バッサリと短くなっていた。

 イディアは短くなった髪の毛を見て、いつも父が褒めてくれた髪の毛がなくなったと思うと、イディアの中の様々な思いがとうとう決壊した。


「う、うわぁぁぁぁん! おとうさ、ごめんなざぁーい!!」


 髪が短くなったことへのショックと勝手に出てきてしまったことなのか、少しだけ酷いことを言ってしまったからなのか、はたまたその両方なのかわからないまま、イディアは泣く。


「痛いぃ!! おとうさん、いだいよぉぉ!!」


 もう決壊してしまった以上、イディアは止まれなかった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 静かな湖畔に、イディアの泣き声は響き渡った。




 一方、研究所ではアーロウがイディアを探しに出ようとしていた。


「クソ………あいつがイディアに干渉し始めている今、イディアを一人にするのはまずい。急がなくては………」


 カランカラン。


「!?」


 玄関から聞こえたチャイムの音に反応したアーロウは、このチャイムを鳴らしたのは戻ってきたイディアだと自分に言い聞かせながら玄関へと急ぐ。


バンッ。


「イディ、あ!! ……っ! お前は!」


 玄関の先にいたのは、一抹の期待を裏切られたアーロウを嘲笑うような微笑みを浮かべる、顔に縫い目のある少女だった。

 そして少女は言った。


「お久しぶりです。お父様」




「ぐ……ずぁ……帰ろ。お家に、お父さんのところに」


 イディアは服の裾を傷口に当てながらふらふらと立ち上がる。

 目は腫れ、痛々しいが涙も引き歩き出す。


「お父さんに、謝らなきゃ。それに僕、まだお父さんに“お誕生日おめでとう”って言われてない……」


 だがイディアは気が付いていなかった。

 全力疾走で研究所から離れたため自分が今、森のどこにいるのか全く把握できていなかったことに。

 あまり研究所から出してもらえなかったが故に、森の地理さえも全くわからないということに。


「とりあえずこの傾斜を、登ろう」


 今イディアが登って行こうとしている傾斜は、イディアが先ほど転がり落ちた場所からかなりズレていたのだ。




 アーロウは苦い顔をしながら自分を父と呼んだ少女を見ていた。


「お父様、挨拶はきちんと返すのは礼儀ですよ。それに、遥々やってきたレディを外に放置するのはどうかと思います」


「余計な知識ばかり、身につけて……」


「私の教本は、お父様の本ですよ?」


「……ッチ。余計なことはするなよ」


「かしこまりました。ありがとうございます」


 少女の言い分に苦い顔をしながら、アーロウは少女を研究所へと入れた。

 アーロウは自身におとなしくついてくる少女を研究スペースの窓を背にした椅子へと通す。


「……紅茶は入れてやる。くれぐれも、そこにあるものに手を触れるな。そこの椅子から動くな」


「わかっております。私は別にお父様が淹れてくださったものなら何でも構いませんわ。外の雑草を煮出したものでも、化学薬品を熱した物でも。それこそ、猛毒であろうとも」


「……言ってろ」


 紅茶を入れに行ったアーロウはこっそりと懐に忍ばせた紙に何かを殴り書き、窓の外に放り投げた。

 自身の祖父母と仲が良く、自分たちの事も気にかけてくれた魔法使いの作った紙を。

 紙は空気に溶けるように消えていった。

 




 カァー、カァー。


「エッグ……ウグゥ……いたいよぉ……つかれた……おとうさん……」


 夕日を浴び、大きく影を作る鳥が鳴く声を背景にイディアはどうにか研究所まで帰ってくる。

 イディアは斜面を登った後、しばらく進みましたが、道中の獣道の多さに方向を間違えたことに気がつき引き返すも、むしろ森を右往左往しながら歩き回ったためさらに迷う事となった。

 歩き回ることを幾度となく繰り返し、日が傾き始めた頃になりようやく見たことのある道まで戻れた。

 イディアの顎からは先程より血が滲み、汗がしみるたびに激痛が走る。

 あまり外を出歩かないイディアの体は長時間の運動による体力の消耗や日差し、出血による貧血や長時間飲まず食わずで走り回ったことによる水分不足とで、フラフラだった。


「お父さん、怒ってるかなぁ……」


 研究所を目前にしたイディアは自分が父の言いつけを破り、不可抗力とはいえ飛び出してきてしまったことを思い出し少しだけ研究所の玄関へと向かう足がゆっくりになる。


「窓から、様子を見よう……お父さん研究スペースにいるかな……?」


 イディアは基本的に研究スペースにいる父の姿を思い描き、しずしずと研究所スペースがある窓に寄る。


「そーっと……」


 中を覗くと、父の姿が見える。そして父の前、いつも自分が座っている椅子に一人の少女が窓に背を向けて座っていた。

 イディアはあの少女が今日の夢に出てきた少女だとするりと理解した。

 それと同時にあの少女の元へ行かなくてはと朦朧とする頭で思ってしまった。


「っ……あ」


 イディアに気が付いたアーロウと目が合う。

 そして目の前の少女が首をこちらに向けようとするのがイディアには見えた。


 ダァン!!!!


 音に驚いた少女はアーロウの方へと首を戻すと同時にイディアは正気に戻る。


「いい加減にしろ!!ここにはお前の花嫁はいないと私は言っているんだ!!」


「……」


 黙った少女と酷く怒り、そして焦った様子の父。

 父は少女へ一方的に捲し立てている。

 そんな父の様子にただならぬものを感じたイディアは窓から一歩だけ離れる。


 コツン。


 研究室の周囲に少しだけ転がっていた小石を蹴飛ばしたイディアの方に少女は振り向こうと体を動かしていた。


「(あ……お父さんの怒鳴り声の方が絶対に大きいはずなのに、なんで)」


 ふわり。


 一瞬の風が吹き抜けた後、イディアの視界は黒く染まった。


「ありゃりゃりゃ〜、急転回〜」





「……あら?」


「どうか、したのか?」


「……消えました。あの子がいた様な気がして」


「そうか」


 あの時、窓の外でイディアがコイツに吸い込まれる様に見つめていたのには肝が冷えたが、一瞬見えた黒、魔女がイディアを取り込んだのが見えた。


「お父様、その勝ち誇った顔やめて下さる?正直に言うと、私その顔嫌いなんです。あいつらに似ていて……」


 少女は先ほどまでの微笑みを消し、無表情でアーロウを見据える。

 だが、瞳だけは爛々と嫌悪を浮かべていた。


「そんな顔をした覚えはないんだが。そう見えたなら、それはすまない」


「……ねぇ、お父様。約束は忘れていませんよね。もしも忘れているのならば」


 そう言って立ち上がり、瞬き一つせずこちらへ歩いて来るコレは、紛れもなく本物の怪物だった。


読んでくださりありがとうございました。

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