序(始まり)
初投稿になります。拙い文章ですが、どうぞご容赦いただきたく思います。
「あぎゃぁー!! んぎゃぁぁ! んぎぃあぁーー!!」
一面に広がるのは白い壁。他にも机や椅子、辺り一面に錯乱し、ところどころに水に浸って黒いインクが滲む紙。割れたガラス容器からはいまだに水が溢れ出ている。溢れ出た水は多大な化学製品使用の代償なのか、生臭さはないが汚水に近いにおいが充満している。
そんな中一人の男性が抱きかかえている赤ん坊が小さな体でも精一杯存在を主張する程の産声を上げている。
「あぁ……泣くな、泣かないでくれ……」
泣く赤ん坊を抱き、あやす黒髪の男性はぎこちない手であやしながら右往左往している。
赤ん坊のまだ開ききれない瞳から人にはあり得ない色彩がちらつく。
それはこの赤ん坊が人間によって造られた人間なのだと暗に明示していた。
「んあぁー! あぁーー!! あやぁ!」
それでも赤ん坊は母体から生まれた赤ん坊と変わらず産声を上げ、心臓の音を刻み、この世に生を受けた。
たとえ母となる存在は居らず、自身が同じ父のもとに生まれた怪物の下へ宛がわれる運命にあったとしても。
そのために、今自分を抱いている男が自分を造ったということも知らず。
「えぃぁ……、んにゅ……うぇぁ……ぅぁ、んぅ……」
しゃくる音が少しずつ小さくなり、泣き止んだ赤ん坊は父に抱かれたまま眠りにつく。
自身を抱く父親の体温なのか、それとも父の心臓の鼓動の音に安心したのか、いっそのことその両方からなのかもしれない。だが、赤ん坊はとても安らかな寝息をたて愛らしい顔を惜しげもなくさらし眠っている。
まるでさっきまで大きな声で泣いていたことがなかったかのように、静かに。
「……ちゃんと呼吸をしているな」
眠りについた赤ん坊の静かさに不安になったがちゃんと息をしていることに安堵の表情を浮かべた黒髪の男性、アーロウは生まれたばかりの赤ん坊の顔を見ながら静かに嗚咽を零す。
「アレと……怪物と近い年齢になるまで、ガラス容器の中で育つ方が、ずっと幸せだったのかもしれない……。だが、私はっ……。すまない、本当にすまない……」
赤ん坊の背をなでながら、アーロウはその赤ん坊に謝り続けていた。
「あァ、楽しミ。オ父さンは私の” “をクレルッて言ってたワ。人間は十か月デ出来上がったハズ」
暗い洞窟の中で、片言と一人でしゃべる少女がとある男の生誕を待っていた。それは
「あそコニアった、オ父サンノ……ワタしを怪物ニした人の、本に書いてアッタモの」
少女は話すことを止めない。
誰かが聞いているわけでもなく、自分に言い聞かせているわけでもない。
「あァ、ワたシ……待ってイルからネ。ハハ……んひゃはははははハハハハハ」
少女の歓喜の声は暗い洞窟の中で、子供特有の甲高い笑い声となり響きわたる。
少女の顔には額から右目に掛けて、大きな縫い目が走っていた。
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