届け
ステージ裏で観客席をのぞく。
すごい、人がいっぱい。
私達は3組あるうちのラスト。
最初の組はお笑いをするらしい。
おかしな格好のまま緊張してる。
熱気と歓声で観客席のボルテージはMAX。
不思議、この中でも勇磨はすぐに分かる。
ツバサくんと後ろの方でこの騒ぎを遠巻きに見てる。
キョロキョロと辺りを見渡して私を探してる。
そこにはいないんだなー。
ツバサくんが何かを話して2人で笑ってる。
好きだった人と好きな人が一緒にいる不思議。
よし、今日のステージは勇磨への告白だから。
想いを全て伝える。
1組目が終わり2組目のバンド演奏が始まる。
いい感じで観客席が一体化してくる。
私達は円陣を組んだ。
タツキが言う。
「この日が来たな。俺達の全てをぶつけようぜ。
俺はお前達仲間への感謝、ありがとう!!
そして、ミッキー、好きだー!」
は?
みんな、ガクっとする。
「円陣組みにくいな」
「ホント、じゃあミッキー、返事しちゃってよ」
真っ赤になったミッキーが叫ぶ
「私もタツキが好きだー」
ミッキーをバシバシ叩く。
「ミッキーかわいい。
アイドルダンス、成功するね。」
「じゃあ俺も。アヤノ、好きだよ」
「うん、知ってる」
しっとりと、アヤノとトモがちゅっとした。
ふんっ
バカップル。
「お前に言われたくないよ、ちび。
お前達ガキにどんだけ俺とアヤノが振り回されたか。
しかも、俺なんて、ちびを狙ってると思われる屈辱。
だけど、ちびのダンスは心に響く。
勇磨に伝えてやれ。お前の想いを」
うん。
そうする。
「ところで、ちびはなんで髪、切ったの?
今朝は長かったよね?」
ミッキーに聞かれた。
そう、さっきアヤノに切って貰ったんだよ。
「私のこのダンスは、このスタイルがぴったりかなって」
みんなが私の髪をぐちゃぐちゃにする。
「やめてよ、もうっ」
貝殻のヘアピンを付け直す。
さぁ円陣だ!
シークレットステージの幕が上がる。
落とした照明の中、私達は登場した。
曲が始まると同時に照明が着く。
みんなの歓声が上がる。
「誰?誰?」
と声が上がる。
1発目はキレキレダンスで度肝を抜こうぜ!
トモの声が心に響く。
上がる!
ヤバイ!
この感じ。
子どもの頃に感じた、
ステージの爽快感とアドレナリンがぞわぞわ感!
勇磨がこっちを見てる。
気がついたかな。
口を開けてポカンとして見てる。
ツバサくんは手を振って「なぁな」って呼んでくれてる。
ツバサくんは知ってたもんね、私のダンス。
勇磨、好きだよ!
最後はトリプル回転で決めた。
また照明が落ちる。
歓声とともにメンバーの名前を呼ぶ声がする。
誰かが私の名前も呼んでくれた。
タツキがMCで繋ぐ間に着替えを済ませて、
アイドルダンスのスタンバイ。
曲が流れて1人ずつ登場する演出。
ラストの私はかなりラブリーに登場する。
そういえば恥ずかしかったな、ツバサくんに見られたくなくて。
こういうの、1番恥ずかしかった。
でも今は違う。
どんな私も勇磨に見て欲しい。
勇磨に認めて欲しい。
見てね、勇磨。
勇磨は人を掻き分けて前に来ていた。
この曲はね、かわいいアイドルダンスなんだよ。
スネたり甘えたり、純粋に好きって気持ちを伝える。
私も伝える。
中2病で陰気野郎。
コミュ力なしの国語力もない。
そんな勇磨をぶち壊したかった。
初めは大っ嫌いだったのに、結局、
近づいてケンカして友達になった。
勇磨が好き。
いっつも、くっついていたいくらい大好きなんだ。
他の人なんて見ないでね、私だけ見てほしい。
勇磨はただ私を見つめてた。
最高の笑顔で踊り切った。
最後は掛け声までかけてくれる人もいて、
私達にファンが付いた。
これは私のファンクラブができるのも近いかもね。
「やったね」
女子チームでハイタッチした。
男子チームのストリート系は、
みんな息を呑んで見ていた。
「すごい」
そんな声も聞こえて口笛を吹いてくれる人もいた。
またタツキのMC
「ラストの曲はうちの大事なスターのソロから始まる。
彼女は硬い殻にこもっていて、
中々抜け出せず、俺達にも割れなかった。
でも別のスターが割ってくれた。
俺達の大事な生まれたてのひよこの
想いをうけとめてくれ。」
最後の叫びを聞いて私は中央に立った。
そのまま座って頭を抱えた。
静かに曲が流れる。
ツバサくんを好きだった私。
髪の長い子が好き。
帽子の似合う子、思いやりのある子、
甘いものが好きな子、趣味の合う子、
彼色に染まりたくて自分を見失っていた。
自分を消してでも欲しかった。
でもそんな恋は相手には伝わらない。
上手くいかなくて自暴自棄になったり平気なフリをした。
でもそんな時に勇磨に
「どんなナナも俺は嫌いにならない」
って言ってもらった。
好きなように思うように生きようって勇気を貰ったんだ。
私のソロにみんなが集まる。
曲調が少し変わり早くなる。
気がつかなかった、勇磨への思いも勇磨の思いも。
海辺で拾ってくれた貝殻。
「もっといいのが見つかって良かったな」
ツバサくんへの思いが変わり、
勇磨の存在が大きくなった。
怖かった。戸惑った。
ふざけてるのかと思って傷つけた。
見ないフリした事もある。
夢中になる物を見つけて勇磨をうるさく思う事もあった。
でも、背中を向けられるとツラくて。
誤解だって言いたいのに、
壁を作られて乗り越えられず諦めた。
このままじゃ失うと気付いて、
初めて好きだって認めた。
また曲調が変わり明るくなる。
私の心が羽ばたく。
「勇磨が好き。勇磨だけ大好き」
言えた。
いつからかなんて分からない。
たぶん、きっと、
初めて会った時から好きだったかもしれない。
これからもずっと好きだよ。
勇磨がいてくれると自由になれる。
勇磨が信じてくれるだけで強くなれる。
私も勇磨にとってそうでありたい。
力になりたい。
髪を切った。
私は好きな私になる。
自由になる。
大丈夫。
どんな私も好きだって言ってくれる。
最後はまた私のソロだ。
羽ばたく鳥のようにステージを舞う。
シフォンのスカートがふわふわと
天使の羽根のようだ。
殻に閉じこもっていた私は、
勇磨のおかげでみんなのおかげで
羽ばたける。
曲の終わりにみんなが集まり私に手を伸ばす。
私は更に上に手を伸ばす。
そしてエンド。
しばらく静寂が生まれた。
私達の荒い呼吸の音だけが響く。
みんな、息を呑んで私達を見つめた。
ピーと誰かが口笛を吹いた。
その音に弾かれるように、
体育館が割れるほどの歓声が響いた。
「ナナ!」
って叫んでる。
勇磨だ。
押し寄せる観客を掻き分けて、
ステージに上がってきた。
「きゃー」
別の歓声も上がる。
「ナナ」
そう言って私に近付く。
私のほっぺを両手で挟んで潰す。
「髪、切った?似合うね」
潰されたほっぺのまま、頷く。
うん。
「俺、もう、やだ」
そう言って横を向く。
急に不安になる。
「なんで」
勇磨は私の肩を抱いて観客席を指差す。
「見てみろよ、あいつら。
ナナのファンになったって。
俺、どんだけハラハラしてるか分かる?
ツバサとトモだけで、もう粉々だよ。
それなのにあと何人倒せばいいのか。
全然、安心できない」
横でトモが爆笑する。
「ちびは幸せだな。
過大評価してくれる彼がいてさ。」
ちょっと、どういう意味だよ、それ
「ごめん、ごめん、ヤキモチ妬かせちゃったお詫びにさ、
勇磨、いい事教えてやるよ。」
そう言って勇磨の耳元で何か囁いた。
勇磨とトモがニヤっとする。
舞台の中央にひっぱられた。
「ナナ、いーか、他の奴なんて見るなよ。
俺だけ見て。」
そう言ってキスをした。
わーという歓声と悲鳴。
そして私への罵声。
勇磨へのブーイングも追加された。
「私、ファンクラブできちゃうかも」
勇磨は冷めた目で
「調子に乗るな!そんなもん、はじから潰してやる」
そう言ってもう一回キスをして会場を見渡す。
「いいか!ナナに手を出したら殺すからな」
私も会場全体に叫んだ。
悲鳴と歓声がわく。
「勇磨に手を出したらぶっ殺す」
勇磨がぎゅっと抱きしめてくれた。
客席からアンコールがかかる。
タツキが叫ぶ。
「よしっアンコールいくぜー」
アンコール曲は初めて見に行った日に踊ってた曲。
私を仲間に認めてくれた時の曲。
ステージ横にはけた勇磨がトモに礼を言った。
「サンキュートモ。色々と悪かったな」
トモがニヤッとする。
「えーお礼言っちゃっていいの?
アンコール曲、見てからにすれば?」
その言葉に私も気がつく。
今までの中で1番トモとの絡みが多い。
これは恋人同士の設定だから。
腰に手を回しくるくる回ったり、
顔を近づけキスする様な振りもある。
トモに持ち上げられたり、
抱きしめられる振りもあった。
ダンスだから。
触らせるなって言っても、ダンスだから。
割り切って踊った。
勇磨は中盤から睨みはじめ、
とうとう止めに入ろうとして、
ツバサくんに押さえつけられてた。
本当、ガキだな。
でも、そこが好き。
勇磨、大好きだからね。
今まで秘密にしててごめんね。
心配かけて、嘘ついて、ごめん。
心を勇磨でいっぱいにして、
アンコール曲を踊り切った。
シークレットステージは大成功だ。




