表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/60

ツバサ


駅前のカフェでツバサくんを見つけた。

ツバサくんの通う北高は制服が学ランだ。

中学のときのブレザーもかっこ良かったけど、学ランも男らしい。

野球部のツバサくんはスポーツ刈り。

眉が濃くて凛々しいのと黒目が大きい瞳のせいで全体的に目の印象が強い。

でも笑うと目が細くなり途端に赤ちゃんみたいになるところがすごく好き。

そう思って見てたら、ツバサくんも気が付いて手を挙げた。

私はちょっと赤くなる。


「ごめん、遅れちゃった。」


そういう私に目を細めて笑う。


うーその笑顔。


「なぁな、顔が赤いね。熱とかある?」


心配してくれた。


「大丈夫、ちょっと暑かっただけ」


私に椅子に座るよう手招きしてメニューを見せる仕草。

ページをめくりながら、どれにしようかと女子みたいにはしゃぐ姿。


ヤバイ、今日もかわいい。


いいよ、いいよ。


好きなの食べよう。


ツバサくんが悩んだ片方を私が頼みシェアしようと決めた。

来るまでの間、学校の話を聞いてみた。


「うん、部活はまだ仮入部なんだけど、

野球部にしようと思ってる。

同じクラスの子がマネージャーやるって言っててさ、

高校ってマネージャーがユニフォームとか洗ってくれるんだって、楽だよね。」


そう言って笑う。


いーなぁマネージャーか。


私もツバサくんのお世話したいな。


やっぱり同じ学校、目指せば良かったな。


考えないでもなかった。


でもチカと学校見学に行って、

あの長い坂道を歩いてたら、

なんか、ここだ!って思っちゃったんだよね。


でもこうして今、会えるんだからいいのかな。


「なぁなは、学校どう?」


ツバサくんは私をなぁなって呼ぶ。

ツバサくん以外、そう呼ばないから、

私も呼ばれるとすごく嬉しくなる。


「学校、楽しいよ。

だけど、隣の席の人がね。

陰気で中2病で性格悪いんだよね。」


そういうとツバサくんは驚いて


「中2病?それどういう病気なの?」


まじめに聞く。


ふふ、おかしい。


そういう真面目なところ好きだなぁ。


私が初めてツバサくんに会った時も真面目だなって思った。


中学1年生の春、放課後、偶然に通りかかった教室で男の子が女の子に告白してた。


私、告白シーンなんて初めて見たから気になっちゃって、ついのぞき見してたの。


真っ赤になって、しどろもどろの男の子が、やっとの事で「好きです」って言った時には私までガッツポーズしちゃったんだよね。


だけど女の子はケラケラ笑って「あり得ない」のたった一言を返した。


私、びっくりしちゃって。


告白されて、「ありえない」って、どんな返しなの?


せめて、「ありがとう」だろがっ。


私がそう思ったのと同時に、前のドアが開いて坊主頭の男の子が入ってきた。


Tシャツとハーフパンツを履いている。


「なんで、そんな事言うんだよ。

せめてありがとうって言えよ!」


そう言って女の子を責め立てる。

でも彼女は鼻で笑って


「何?関係ないでしょ。うざっ」


と凄む。

それでも立ち向かおうとする、

その男の子を引っ張り私は走った。


体育館脇に連れて来た。


「え?、何?」


そう言う男の子をじっと見た。


小さいな。


やっぱり、さっきも思ったけど背が小さいし体も小さい。


「ねぇ、君さ、どこから入ったの?

勝手に入っちゃっダメだよ。

後ね、君がさっき、言ってた事だけど、

お姉さんも正解だと思う。

正しい事でも言えない大人が多いからさ君は凄いよ。

でもね、正解だからこそキレる大人もいるから気をつけてね。

じゃあ気をつけて帰りなね」


そう言って坊主頭を撫でて帰した。

帰り際に振り返って男の子は言った。


「ねぇ、お姉さんの名前は?」


にっこり笑って答えた。


「七海だよ」


男の子も片手を挙げてニコッと笑う。

その仕草がちょっと大人っぽいなって思った。


「なぁなか。またね」


そう言って走って行った。


なぁな、って。


勝手に変な呼び方して。


でも、またね、か。


全く、どこから侵入したのか、最近の子は。


完全に小学生かと思った。


だから翌日、彼が制服を着て私のクラスに来た時には血の気が引いた。


「なぁな、おはよう」


そう言ってニコニコする彼に何も言えず黙って、

ただ頭を下げた。

佐藤翼と自己紹介してから、またニコニコ笑う。


なんで笑ってるんだろう。


小学生に、間違えるなんて、この歳の男子にしたら屈辱だよね。


絶対に傷ついたはずなのに。


「あの、ごめんなさい。私」


それしか出ない。

でもツバサくんはニコニコして


「ううん、逆に嬉しかったよ。

俺のこと正解って言ってくれたじゃん。

いつもウザイウザイ言われるからさ」


ふと思った。


「昨日の男の子の友達だったの?

なら余計にごめんなさい」


またニコニコ笑う。


ちょっといい加減イライラしてきた。


なんなんだろう、この余裕。


私が怒りっぽいのか。


「ううん、たまたま通りかかって、

告白シーン初めて見たからさ、気になっちゃって」


あ、同じ。

私もつい笑っちゃった。


「あ、なぁな、やっと笑ってくれたね。

俺さ、背も低いし、まだ声変わりもしてないし、

体も小さいからさ、制服もぶかぶかなの。

だから小学生に間違えられるのしょっちゅうだし、

野球部でも先輩にからかわれてる。

だから慣れてるし気にしてない。」


野球部なのか。


だから坊主か。


坊主が余計にチビに見せてるとは言えないな。


「なぁな、部活は?」


そう聞かれ


「運動苦手だから、茶道部に入った」


ちょっと言い訳風に答えた。


「ふーん。茶道部か。甘いお菓子あるね。」


またニコニコする。


「好きなの、お菓子?」


そう聞くと今度は周囲を気にして小声になる。


「うん、甘いもの大好き」


そこは恥ずかしいのか。


かわいいな。


やっぱり小さい子を相手にしてる気がしちゃう。


「駅前にさ、シュークリームの店、できたの知ってる?」


目をキラキラさせて言うツバサくん。


「うん、まぁ」


知ってるけど興味はなかった。


私、甘いの得意じゃないし。


「行きたいけど、男、1人じゃ変に思われるよね」


と上目遣いで私を見る。


ああ、連れてって、って事かな。


「いいよ、一緒に行こうよ」


ガッツポーズして喜ぶ。


本当に子どもだな。


ひとりっ子の私には分からないけど、

弟ってこんな感じなのかなって思った。

それから私達は、色んなスイーツを攻めた。


私の苦手は克服できなかったけど、ツバサくんがニコニコして、食べる姿は本当に楽しくて嬉しかった。


小さかったツバサくんはあっという間に私の背に並び、

筋肉もついてちょっとたくましくなった。


声変わりした時もからかった。


弟の成長を見てる感じで私も感慨深い。


「大きくなったじゃーん」


と私に背中を叩かれると、


「そうかな」


と私と背くらべをして確認する。

そんな事が続いてて、私はいつしかツバサくんを目で追っていた。


2年生になり、野球部でピッチャーを任されるようになった。


ハラハラして心配で目が離せなかった。


友達とふざけてる姿は、目を細めて見守った。


ツバサくんは高い所も好きで、

海辺の公園にある観覧車に何回か乗った。


私は高い所も苦手で、これは本当に苦手で、

でも、好きな振りをして乗った。


彼を喜ばせてあげたいから。


ツバサくんとは、ことごとく趣味が合わず、

ホラー映画も苦手なのに何回も付き合った。


私、ツバサくんの喜ぶ顔が見たいんだよね。


子どものようで弟のようで。


でもいつからか、違うカタチになった。


急にドキドキして男の子を意識したんだ。


いつだったんだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ