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第86話:エンシェントドラゴン、復活します。

「ありゃ相当デカイな……」


 カインは遠くを見ながらつぶやく。


 噴煙の影響で空は既に黒い煙に覆われている。しかしエンシェントドラゴンの姿はその煙に隠されることがないほど存在感を放っていた。


 真っ赤な肌、全長は二キロメートルほどあるだろう。巨大な建物を並べたような大きな翼を広げて上空を我が物顔で浮遊している。


 目は黄色く、何キロも離れているというのにこちらを鋭い眼差しで睨み据えている。


 噴火には時間がかかるため、マグマが吹き出すのにはしばらく時間がある。せいぜい数時間といったところか。


「全門準備は出来ているか!!」


 カインが横を見ると隣の騎空艦では全身を赤い甲冑で包んだシンゲンが大声を上げて部下に指示を出していた。


 シンゲンの部下たちは一列に並んでおり、何やら車輪のついた高さ一メートルほどの大砲を並べ、一台につきひとりが付いていた。


 一台一台が黒く重厚で、筒の部分は半径二、三十センチメートルほどである。


「放て!」


 シンゲンの号令とともに砲台についた部隊が一斉に砲尾部に手をかざす。すると大砲全体が青く光り、口径に青い光の結晶が生成される。


 すると激しい音ともに口径からビームが放たれる。それらは全て一直線にエンシェントドラゴンの体を捉え、ぶつかる瞬間、大きな爆発音を立てた。


「魔力を弾丸にして撃ち込む魔道具、『魔力大砲』か……」


 カインはその存在を知っていた。過去にラクシュで似たようなものを見たことがあったからだ。


「しかし、俺が見たことあるのはこんなのじゃなかった。威力が格段に高い」




 魔力大砲は使用者の魔力を糧に発動する。こんな威力で魔力大砲を使えば並の人間なら魔力がつき、下手をすれば命にも関わるほどだろう。



 だというのに手をかざしたシンゲンの部下たちは涼しい顔でエンシェントドラゴンを見据えている。


「和ノ国の先進技術だ。流された魔力の変換効率を従来の何十倍にも引き上げた。使用者が流す魔力の十倍以上の火力は出ているだろう」


 状況を見ている限り、シンゲンの発言が嘘であるとは到底思えない。この技術が世界中に流布すればモンスター討伐の戦術の取り方が根本的に変わるはずだ、とカインは考えた。


「さて、カイン殿。どうやら雑談をしている場合ではなさそうですぞ」


 シンゲンに言われ再びエンシェントドラゴンの方を見て、目を疑う。



 エンシェントドラゴンは機能を少し落としているどころか何もなかったかのように悠々と空を飛んでいる。



 先ほどの魔力大砲の砲撃による爆発は凄まじいものだった。一発一発でおそらく二階建ての建物くらいなら粉微塵にすることが出来るだろうし、モンスターで言うならばレベル20くらいなら一撃で倒すことが出来るだろう。



 そんな砲撃がいくつ集まってもエンシェントドラゴンには通じなかった。倒せるとは思っていなかったが、ここまで無反応であることにカインは驚きを隠せない。



「文明の利器じゃ通用しないってのか……!」



「だったら、あえて原始的に行こうじゃねーか」



 圧倒されるカインの肩をポンと叩いて颯爽と歩いてきたのはバルトロギアのヴィットリオとビビであった。



「師匠、こちらが槍です」



「うむ。ご苦労」


 ビビは自分の身長よりも長い鉄製の槍をヴィットリオに手渡す。


「じゃ、アレやるぞ!」


「かしこまりました」


 ヴィットリオは槍の真ん中を持ち、地面と平行に肩の上に持ち上げる。ビビは左手を前に出し、手のひらをエンシェントドラゴンに向ける。右手は左手首を掴んでいる。




「『雷撃槍(らいげきそう)』!」




 ヴィットリオは上にあげた槍を助走もなしにオーバースローで投擲する。彼の剛腕によって勢いよく放たれた槍は、風を切り、徐々に雷を宿す。


 風の抵抗を受けても全くスピードが落ちない槍は数百メートル先のエンシェントドラゴンの肩の部分に直撃する。


 すると、槍が纏った雷が勢いを増し、エンシェントドラゴンの体は見る見るうちに電撃に包まれていく。胴体の半分ほどが雷による一撃を受けている。槍が刺さった部分は血が溢れて滴っている。




「『剣の牢獄(ニヴルヘイム)』」




 ビビがスキルを発動させると、エンシェントドラゴンを覆い尽くすような大きさの魔法陣がその巨大の真上に出現する。



 次の瞬間、魔法陣からまるで雨のように大剣が何本も、何本もエンシェントドラゴンの体に降り注ぐ。



「なんだあれは!?」




「ビビのスキルだ。対象の上から幾多の剣を落とす。しかもそれら一本一本に身体能力の減少魔法がかけられている」




「あれを浴び続けていれば次第に動けなくなって文字通りあの魔法陣が牢獄になるってわけか……」


 目の前の自分より格段に若い少女の所業にカインは目を疑う。間違いなく彼女は天才だ。



「それでは私も加勢することにしようか!」



 次に前線にやってきたのはデルグレッソであった。エルフである彼はいつもの布の服で、いつも通りのロングボウを持ち、歩いてきた。


「奴の動きが鈍っている間がチャンスであろう」


 デルグレッソは深呼吸をすると、弓矢を一本つがえ、弓を顎の辺り前で引く。


 息を止め、数秒間、目でしっかりとエンシェントドラゴンを見据え、狙いを定める。




「『貫通(ペネトレイト)』」




 デルグレッソは静かに呟き、矢を放つ。あれはあいつの十八番だ。


 放たれた弓矢は特に目立った変化はしない。しかし、どんどんと距離を伸ばし、とうとうエンシェントドラゴンの胸に刺さる。




 『貫通(ペネトレイト)』は派手な魔法や一撃に威力のあるスキルではないが、その代わりに「確実に刺さった部分を貫通する」という力を持っている。




 一見して大した技ではないが、戦闘では確実に相手を仕留められるため、彼らしい飾らない、実用的なスキルと言えるだろう。


「……流石はエンシェントドラゴン。貫通させることすら叶わないとは」


 弓を放ったデルグレッソは悔しそうに言う。


「いえいえ、デルグレッソ殿。ロングボウであそこまでの距離を伸ばせるのはあなたの腕の何よりの証明でしょう」



 ロングボウでは数百メートルほどしか距離を伸ばすことが出来ない。威力はその分殺されるし、的にも当たりづらいが、彼の放った弓矢は威力を殺さず、遠くのエンシェントドラゴンに到達している。



 エンシェントドラゴンは依然としてビビのスキルによって剣の豪雨を受け続けている。向こうからこちらに何か仕掛けてくる様子は全くない。


「……それにしても呆気なすぎる。あれだけの耐久力を持っているというのに、何もしてこないとは」


 ヴィットリオは退屈そうに目を見張ってエンシェントドラゴンの方を見る。


「過去の目覚めの際とは違い、技術やスキルの向上によるものではないですかな?」


 先ほどまで真剣な表情を崩さなかったシンゲンだが、やや表情を緩め、話す。


「……まあこういう形での予想外であればむしろ嬉しいものでしょう」


 デルグレッソもどちらかと言えば楽観的な考え方であるようだ。




「……皆! 伏せろ!!」




 三人が話をしていると突然、カインが大声を上げる。


 三人は慌てて何が起こったのか、カインの方を見る。そして、驚く。カインのその表情は突然の出来事を報告するため焦っているようなものではなく、ほぼ絶望に近かった。


 カインは前に走り出し、すぐさまスキルを発動した。



「『業火の双剣』!!」



 スキルによってカインの両手に真っ赤な片手剣が現れる。カインはそれをしっかりと握り、二本を中央でクロスさせるように切り裂いた。


「うおおおおおおおおお!!」


 わずか一秒にも満たないこの間、三人は何が起こっているのかを理解する。が、動き出すことは叶わなかった。


 世界は光に包まれた。

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