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第85話:代表の皆さん、結集します。

 バルトロギア王国に到着して二日目。今朝は外の騒がしい声で目が覚めた。カーテンを開けると眩しい太陽の光が差し込んでくる。朝だ。


 それにしても外が騒がしい。昨日の比ではない。何かトラブルでもあったのだろうか。


 昨日から作業を手伝っている俺はベッドから体を起こして部屋から出て急いで階段を降りる。


 宿の扉を開く。そこで目の前に広がった景色に俺は息を呑んだ。


 人の行列だ。馬に乗って鎧を纏った戦士たちがゾロゾロと隊列を組んで進んでいる。圧巻。道を挟んだ先の建物では人々が窓を開けてその様子を目を丸くして見ている。


 何より珍しいのは纏っているその鎧だ。俺たちが慣れしたんだ鉄で出来たものではなく、青銅で作られており、全身を保護するタイプの形状ではない。あれはまさにそう……


「サムライ!?」


 俺は思わず声をあげる。彼らが着ているのは鎧ではなく甲冑というものだ。頭には兜を被っており、よく鍛えられた馬に乗っている。


 腰には皆一様に刀を携えており、他にも槍の部隊、弓の部隊に分かれており、重たそうなその装備を揺らし歩を進めている。


「アラン殿! 数日ぶりでござる!」


 列の中からひとりの少女が走ってくる。青色の髪を揺らして……前と同じようにスクール水着で。


「なんだメイか」


「なんだとはなんでござるか! アラン殿はひどいでござる!」


 彼女はやかましい語尾で話しかけてくる。最後に会ったのが数日前なので当然といえば当然だが全く変わっていない。


「悪い悪い。来てくれてありがとな」


「当たり前でござる! アラン殿たちのお陰で念願が叶ったでござるから、むしろ礼を言いたいくらいでござるよ」


 メイはニコニコと笑って言う。その表情を見ているとシンゲンとの約束を果たせたという実感が改めて湧いてくる。


「アラン殿!」


 行列もそろそろ終わりかという頃、最後に周りに護衛を引き連れて現れたのはシンゲンだった。


「シンゲンさんか。元気そうだな」


「ああ。アラン殿。私からも礼を言いたい」


 シンゲンが頭を下げる。その姿は威厳に満ち溢れており、簡単な動作だが感謝されていることがよく伝わってくる。



「私の念願が叶った。エンシェントドラゴンの討伐がバルトロギア王国のみで行われ、失敗していたならば和ノ国はもちろん、ライクリシア王国にも影響が出ていたでしょう」



 予想できた結果ではあるが、それほど意味のあることだったのだ。やることをやっていただけだが、結果的にすごいことをしていたんだなという自覚が芽生えた。いろんな奴に頭を下げられて不思議な気持ちだ。


「さて、私はそろそろ失礼することになるでしょう。後がつかえていますからな」


 シンゲンが振り返った先にはまた行列が出来ていた。今度は皆一様に軽装である。武器は軽そうな片手剣や弓が多く、彼らは立ち止まっている俺たちとは違う特徴を持っている。



「エルフたちだ……!」



 ライクリシア王国の戦士たちもバルトロギア王国にやってきたのだ。そして彼らを先導しているのはかつてカインとともに行動していたデルグレッソであった。


 エルフの軍勢はしばらく前進し、俺たちが立ち止まっているところでピタリと止まった。シンゲンとデルグレッソは鋭い眼光でお互いを見据える。



 あれ、エルフと人間は表面上は仲良くなったとはいえ、もしかしてこのふたりは因縁の相手だったりしないよな?



 一抹の不安が頭をよぎる。俺はゴクリと唾を呑む。


「シンゲン殿。お初にお目にかかる」


「こちらこそデルグレッソ殿。話は聞いております」


「長年一度お会いしてみたいと思っておりましたが、国民の反発もありお会いできなかった無礼をお許しいただきたい」


「こちらこそ非礼をお許しいただきたい。この度のエンシェントドラゴン討伐ではよろしくおねがい申し上げる」




 シンゲンとデルグレッソは握手を交わし、ニッコリと笑った。その様子を見て観衆の男たちが喜びの声を上げた。大陸戦争が明けて、初めて人間とエルフが握手をした瞬間に、彼らは湧いたのだ。




「よ、楽しそうじゃねえか」


 人々が騒いでいると次にやってきたのはカイン。そして龍のような顔をした獣人だった。


「カインさん! 久しぶりだな」


「まったくだ。しばらく見ない間に色々してくれたみたいだな」


「まあ、色々な。それで、隣の人は?」


「ああ、紹介しよう」


「師匠おおおおおおおおおお!!!」


 カインが横に立っている獣人の名前を言おうとした瞬間、とんでもない大声が聞こえる。


 砂埃をあげてやってきたのは昨日俺の起床を見届けていた猫耳少女、ビビだ。


「ビビよ。急いでいるからといって粗相は感心しないな」


「申し訳ございません! お師匠様を見失ってしまいつい……」


 ビビは彼女の見た目の猫のようにゴロゴロと喉を鳴らして龍のような身体の男に近づく。


「ん……? ビビの師匠ということは……」



「俺はヴィットリオ。バルトロギア王国ギルドの一位ランカーだ」



 目の前の男がバルトロギア王国のギルド一位ランカー。ということはこの場所には……



 ユマ大陸一位ランカーのカイン。



 和ノ国の城主シンゲン。



 ライクリシア王国一位ランカーのデルグレッソ。



 バルトロギア王国の一位ランカーのヴィットリオ。



 そんな錚々(そうそう)たるメンツが集まっているということになる。


「肩身が狭いんですけど……」


 豪華メンバーに肩を並べる形で立っている俺はというと……ただの手品師である。心なしか自分がものすごく小さくなった気分だ。


 こうして歴史的な、セネギア大陸三国プラスユマ大陸連合の結集の瞬間を迎え、その日の夜は宴となった。


 軍の士気を高め、次の日もまたしっかりと準備に勤しんだ。気づけばエンシェントドラゴン討伐の当日を迎えていた。



「全軍! 準備はいいかー!!」


「「「おおーーーー!!!」」」


 各部隊の隊長が士気を上げるため声を上げている。フラドミア火山から少し離れ位置。空にはたくさんの戦艦が浮いていた。


 騎空艦(きくうかん)。魔力を動力として空に浮かぶ戦艦だ。大きさはひとつ二百メートルほどであり、その上に各部隊が載っている。


 合計で何千という兵士が集まっており、皆エンシェントドラゴンの復活のその瞬間を今か今かと待っている。


「我々が祖国を守るのだ! セネギア大陸の未来を作り出す英雄になる覚悟はあるか!」


「「「おおーーーーー!!!!」」」



 男たちが剣を挙げた瞬間だった。轟音が鳴り響く。火山から爆発のように煙が噴きあがり、中から巨大な黒い影が姿を現す。



「来たぞーーーー!!!」


 噴煙の中から姿を現したのは真っ赤な肌をしたエンシェントドラゴンだった。

2019/06/05

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