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第83話:元村人A、ようやく会います。

 ……体が動く。俺はしばらく気を失っていたようだ。先ほどまでの強い眩暈も感じず、思考もまだぼんやりとだが出来るようにはなってきている。


「ノーゼルダム……」


 ニーナの声だ。彼女の口から発されたその言葉に俺はいち早く反応した。



 体を起こすと、ニーナが半身だけを起こしており、その近くにローブの男が立っている。先ほどまで余裕綽々だった神父は地べたにうつぶせに倒れ、おまけに背中に大剣が突き刺さっている。



 何が起きているのかは全く理解できないが、とにかくニーナが危ない。急いで向こうに行きたいが体に力がうまく入らない。


 俺の中で確信めいたものがあった。あれは話に聞いていたノーゼルダムだ。間違いない。


 くそっ……! 早く体を動かさなきゃニーナが……



「なあに心配するな少年(・・)。この小娘を殺したりはしない」



 少年と言ったということは俺が気を取り戻しているのに気づいている。いざとなった時のために気づかれないように声を出さずにいたがお見通しってわけか。


 ノーゼルダム、カインを不意打ちしたと聞いていたがこれほどの実力者とは。




「……かつて1人の少年が強い信仰を持っていた」




 何やらノーゼルダムは独りでに語り始めた。俺はその言葉に耳をすます。


--


 かつて1人の少年が強い信仰を持っていた。


 彼は誰よりも信心深く、熱心に神学に励んでいた。


 そしてある時気がついた。経典には、豚は主神を騙したとされている。だというのにエルフたちは美味しそうに豚肉を食べ、家畜として育てている。


 少年は人々に豚肉を食べるなと言って回った。しかし返ってきたのは賛同の声ではなく冷ややかな目と暴力だけだった。



 少年は、力を欲した。



 そして、1人の魔術師と出会った。


 力を得た少年は人々に自分の考え方を流布させた。敵を作り出してそれを広めることで国民の意識を固めた。


 いつしか石を投げていた彼の周りの大人たちは少年を称賛するようになっていた。



 こうして信心深い国が出来上がった。



 少年は、大人になっていた。



--




 ノーゼルダムは一通り語り終えると静かに黙った。彼の言う少年とは足元で息絶えている神父ラクトのことだろう。




 ラクトはエルフの国がさらに信心深くなるようにするため、ノーゼルダムに力を貰ったのだ。奇しくもそれはかつてラクシュを陥落させようとしたダムスと同じように。



「哀れだと……思わないか?」



 ラクトがしたことはどう考えても悪いことだ。しかし全く同情できないというわけでは無かった。彼は踊らされていただけなのだ。ノーゼルダムの手のひらで。


「思わない!」


俺は大声で否定した。


「フッ、まあいい……」


「……俺たちをどうするつもりだ?」


「……何もしないさ。ただ正直驚いているよ」


 ノーゼルダムは笑いながら言う。言葉とは裏腹に全く動じているようには見えない。


「私が和ノ国、そしてライクリシア王国に放っておいた勢力を君たちが崩壊させたときた。お陰で計画はおじゃんというわけだね」


「お前の目的はなんだ?」


「……質問が多いな。ならば単刀直入に言おう」


 ノーゼルダムはゆったりとした口調でそう言い、フウとため息に似た息を吐いた。


「エンシェントドラゴン討伐の妨害は君たちによって阻止されたわけだ。個人的に君たちに興味が湧いてきた。エンシェントドラゴンを討伐した先で待つ、と伝えにきたんだ」


「エンシェントドラゴン討伐の先……?」


「ああ。仮に……君たちが無事にエンシェントドラゴンを討伐できたなら。私は君たちと戦おう。魔王のお抱えの魔術師としてではなくひとりの魔術師として、ね」



 彼の体から放たれるオーラは先ほどまでの神殿や神父のものとは桁違いだ。はっきり言って今まで見てきたカインなどの強者たちから感じるそれ以上。額の毛穴という毛穴から汗が吹き出る。こんな奴と戦うってのか?



 そしてもうひとつ、彼は「魔王のお抱えの」と言っていた。人を使役して悪事を働く彼の動機はいまいち理解できないところがあったが、その言葉で納得だ。ノーゼルダムは魔王の部下としてか、エンシェントドラゴン討伐の妨害を行なっていたのだ。




 つまり、魔王討伐を目標にしている俺たちにとってはノーゼルダムとの対峙は通らなくてはいけない道。




「彼は……ラクト君は呪詛(じゅそ)の悪魔の力を使って説教室を通して民衆を洗脳していたそうだ。彼が死んだことでその契約は解除され、人々も皆戻っている頃だろう」


 また悪魔……。ノーゼルダムの使える『悪魔』というもののレパートリーの広さとその禍々しさに驚く。


「さて、それでは、失礼するよ」


 ノーゼルダムはそう呟いたあとこちらに数歩近寄り、手のひらを俺の額あたりに近づけた。猛烈な睡魔に襲われ俺はなすすべなく気を失った。



「アラン! アラン!」


 体を揺さぶられる。リリーの声だ。


 体を起こすとリリー、ニーナ、セシアの三人が屈んで倒れている俺を見ていた。


「はー、よかった。死んではなさそうね」


「……死んでると思いながら体揺すってたのか?」


 いつも通りツッコミをしてから重要なことに気づく。


「ノーゼルダムは!?」


「……ニーナから聞いたわ。私が目覚めた頃には誰もいなかった」


「誰も怪我してないか!?」


「ええ。全員無事よ」


 ひとまずは助かった。が、ノーゼルダムが俺たちを無傷で放置した意図は理解できない。やつなら百パーセントここで俺たちを始末できたはずだ。


 ……遊ばれてるのか。


「君たちー! 怪我はないか!?」


 重い扉が開かれて外から松明を持った警官と思しきエルフたちが入ってくる。助けが来たようだ。


「とりあえず今は考えてもしょうがない、帰ろう」


 俺たちはエルフたちの先導で地上へ戻ったのだった。

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