表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/121

第81話:元村人A、地下で戦います。

「はぁー。やっと片付いた」


 地べたに倒れる男たちを余所目に、リリーは剣を腰の柄にしまい、作業が終わった後の労働者のようにため息をつく。


「グハッ……お前らは一体……」


「勇者様とその愉快な仲間たちよ。峰打ちにしてるから安心なさい」


 改めて辺りを見回してみる。ここは小部屋になっており、椅子のようなものが用意されているが他には特に物は置かれていない。


 壁は石造りで、ボコボコと大小様々な石が組み合わされており、独房のような造りという印象を受けた。


「さあ、いきましょ。多分何かあるとしたら奥の方よ」


 リリーは部屋の扉を指差す。足元にいる男たちには悪いが先に進ませてもらうことにした。



 部屋から出た先は暗く長い廊下になっており、均等の間隔で壁に設置された松明でかろうじて足元が見える程度だ。先ほどの部屋の壁と同じ石造りで、まるで水のない下水道を進んでいるようだ。


 というのも、中はジメジメとしていて足音がよく響く。それだけこの廊下が広く長いことを意味しているのだろう。まるで洞窟の中でも進んでいるかのようだ。違う点としては松明が設置されており、空間が人工的ということだろう。


「この廊下は何のために作られたんですかね……」


「避難用の通路にしか見えないわよね。でも見張りが居たってことは使われているのよ。絶対に」


 リリーの言う通りだ。もっと言えば、この通路は教会にも通じている可能性がある。


 しばらく歩いていると俺たちの前に現れたのは鉄の大きな扉だった。高さは二メートルを超えていて、何者も通すまいとして敢然と立っている。


「……開けるぞ」


 俺はその重たい扉に手を触れる。金属でできているので冷たい。そこにグッと力を入れて扉を開いた。


 開ききった後その先の空間を見て思わず息を飲んだ。


 扉は見張りたちがいた部屋とは比べものにならないほどの大きさで、王都ラクシュのホールと同じか、それより狭いくらいの広さだ。幅は百メートルほどあるだろう。


 部屋は全体的に暗く、壁に松明が設置されているだけなので先を見ることがやっとだ。


 部屋の内装を見て、なんといっても一番最初に目につくのは中心に設置されている祭壇だろう。少し高くなっており、上には像が飾られており、禍々しい雰囲気を放っている。


 教会という言葉とは正反対な、邪悪さや禍々しさを感じる。どう見てもこの空間は異質だ。そして、この空間こそが、関わっている人間の異常さを物語っていると言ってもおかしくないだろう。


「ほう。お客さんとは珍しい」


 俺たちが眼前の景色に呆気に取られていると目の前の祭壇から人影が現れ、設置されている階段をコツンコツンと鳴らして降りてくる。


「誰だ!」


「フフフ。侵入してきてるのは君たちなんだがね」


 声色は低く、男は足を止めずにこっちに向かってくる。


「私はこの教会で神父をしているラクト・メルゾーレフ。君たちの名を聞こうか」


「私は勇者のリリアーヌよ。あなたが反人間感情を広めてる張本人ね!」


 リリーは剣を引き抜き、身構える。ラクトはフッと笑う。


「ほう。どこまで知っているのかは知らないが……どうやら『やってない』と言って引き下がってくれるわけではなさそうな目だね」


「ええ。そうね。それにこの施設を見てみればあなた達が良からぬことをしてるのは一目瞭然よ!」


「フッ……それもそうか」


 男が歩いてかなり近づいたので一度足を止める。ようやく薄暗い部屋の中でラクトの姿が見えるようになった。


 ラクトは二、三十代の男で体型はかなり筋骨隆々。髪は紺色で短め、黒の祭服を着ている。


「この施設は何だ!?」


「ここはルネティエ教会の地下施設だ。元々は昔ラミア教が弾圧されたときに信者が地下に偶像を作り、祈りに来ていたところだったんだがね」


 なるほど。だから道は避難用の通路のようになっていたのか。そして何故入口が隠されていたのかもこれで納得がいく。


「どうやって反人間感情を国民に植えつけたの!?」


「……それは知らないのか。てっきり知っているのかと思ったが」


 どうやら何かやっていることは隠すつもりは既にないらしい。


「さて、私からはその手段を明かすつもりはないがどうする?」


 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な態度でいる神父のその言葉を聞いてリリーは体勢を低くした。


「そんなの無理やりにでも聞き出すに決まってるじゃない!」


 リリーが剣を強く握りダッシュを決めた瞬間だった。


「『逆転(リバース)』」


 神父が一言呟くと黒い瘴気(しょうき)が神父を中心に爆発するかのように広がり、空気が一気に変わった。先ほどまででさえ禍々しかったこの空間の空気がさらに重く、苦しくなった。


「な、何をしたの!?」


「さあね。じきにわかる」


 神父のその言葉を聞いた瞬間、俺の視界が揺らぐ。立ちくらみのように足に力が入らなくなり、俺は地べたに倒れた。


「アラン!? どうしたの!?」


「わか……らない」


 目眩がする。思考もまとまらない。何が起きている。脳に血が回っていないのかと思うくらい何も考えられない。


「ほう。随分と早いな」


 神父は依然として棒立ちしている。


「アランに何を……!」


 次にリリーが倒れた。俺の時と同じように突然、何の前触れもなくだ。


「な、何よこれ……」


「次は君か。威勢は良かったのだがね……おっと」


 セシアが『バーン』を発動させ、火球を放つが神父はひらりとジャンプでそれを躱す。不意打ちの攻撃も当たらないのか。


 そして今度はセシアも膝から崩れ落ち、同様に地べたに倒れてしまった。


 既に三人が、こんなにも短時間に、突然倒れてしまった。


「お前は……いったい何を……」


 朦朧(もうろう)とする意識の中、奴の発動したスキルのトリックを探す。どういう原理で……奴は何をしたんだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ