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番外編1:元村人A、遊びます。

章の区切りの所で番外編を入れていきます。で、番外編の世界で起きたことは本編には全く影響しません。そういう世界線でキャラクター同士の掛け合いを書いていきたいと思います。

 メアリ救出から一夜明け、昼過ぎまでぐっすりと眠ったアランとリリーは次の日の出発まで退屈な時間を持て余していた。



「ねえー、何かゲームとかないの!?」



 部屋の掃除をしている俺に、あまりの退屈さに痺れを切らしたリリーが話しかけてくる。


 先のオークとの死闘の結果、肩に負った怪我を治すために薬草を使い、包帯で修復している。一晩もすれば綺麗に治るだろう。



「ゲームかあ。じゃあ廊下の雑巾がけとかどうだ?」



「なにどさくさに紛れて手伝わせようとしてるのよ」



 バレたか。



「あなた私をなんだと思ってるわけ?」


「そうだ、物置に昔遊んでた玩具おもちゃならあるかもしれないな」




 旅館の土地の隅にぽつんとたたずむ物置小屋。メアリと俺が小さい頃に遊んでいた思い出の品が今は見る陰もなく仕舞われている。




「ちょっと見に行ってみるか」


 俺は思い腰を上げてのそのそと物置を見に行った。



「この箱に入ってるの?」



 俺が持ってきたのは一辺が五十センチくらいの箱だ。長く仕舞われていたからか、ホコリ臭くなっており、すこし汚れている。



「確かこの中に……。あった」


 箱を開けると、大小様々な玩具たちが久しぶりに顔を覗かせていた。


「これは何?」


 リリーは箱の中の玩具の一つを取り出してまじまじと見始めた。



「それは親父が和ノ国に行った時のお土産のけん玉だな」



「どうやって使うの? あ、わかった」




 独り合点したリリーはけん玉の持ち手の部分を持ち、玉を頭の上でグルグルと振り回し始めた。




「お前そうじゃな……痛っ!」


 玉が俺の顔面にぶつかる。しかもリリーはその回転を止めることなく楽しそうに何度も振り回す。



「違う! それはモーニングスターじゃない!」



「食らえ!」



「今食らえって言ったよな!? わざとやってんだろ!? 痛い痛い!」


 そう言うとようやくけん玉を振り回すのをやめた。




「あなた、メアリちゃんにこんな物を使ってたの……?」




「そんなわけないだろ!  DVみたいに言うんじゃない!」


 俺はボコボコになった顔面で必死に訴えた。


  数分後。


「ねえ、じゃあこれは?」



 次にリリーが取り出したのは将棋だった。



「それは将棋だ。ボードゲームだな」


「どういうルールなの?」


「駒をこうやって置いて……」


 俺は昔の記憶を辿りながら、なんとか駒を将棋盤に並べた。


「こうやって駒を動かして、王を取った方が勝ちのゲームだ」


 パチン、と音をたてて歩を一マス前に進める。


「この駒に書いてある文字にはどういう意味があるの?」


「この歩は兵士、王はそのまま王様、飛車は馬車みたいな感じか」



「なんで兵士が王様を倒せるの?」



「え?」


「だってうちのおじい様は若い時はとてつもない力でモンスター達を次々になぎ倒していたそうよ」


 リリーのおじい様というのは、この国、クレイア国王のことである。


「兵士だってこれだけしかいないんだから精鋭せいえいかもしれないだろ?」


「いいえ。どんな兵士よりおじい様の方が強いわ」



 それを言われたらおしまいだ。どうやらリリーには将棋のルールを理解するのはあまりにも知能のレベルが低すぎたようだ。



「今失礼なこと考えたでしょ」



「考えてないです」


「で? これはただのヘルメットとハンマーにしか見えないけど?」


 次に取り出したのはピコピコハンマーとヘルメットだ。



「それは叩いて被ってジャンケンポンだな」



「ジャンケンポン? スキルの名前?」


「違う。和ノ国の遊びで、手を使って勝敗を決めるんだ」


 リリーに手をどうすれば何になるかを説明し、実際に何戦かやってみた。


「五勝三敗。どうやら勝ち越しみたいだな」



「おかしいわ。ハサミ使いにスキル『切れ味効率』が付いてたら私の勝ちじゃない」



「頼む。話が進まないからなんとか納得してくれ」



 あまりにもリリーが駄々をこねるので懇願こんがんした。


「紙が石を包んだらなんで勝ちになるの? ハサミは石を切るために刃を削ってまで戦っているのに。」



「実は石は紙に包まれたあと握りつぶされて粉々になるんだよ。」



「あ、そういうことか!」


 こいつちょろいな。


 とりあえず後付けで設定を足すことでなんとかリリーを納得させるしかない。粉々になって犠牲になった石には黙祷もくとうを捧げる。


「叩いて被ってジャンケンポンはこれを応用したルールなんだ」



「応用スキルね?」



「だからスキルの話じゃないって……。ジャンケンに勝った奴は素早く相手の頭をこのピコピコハンマーで叩く。負けた方は素早くヘルメットで頭を守る。そういうゲームだ」



「その道具で殺し合うってわけね!」



「殺し合いはしないかな。じゃあこのおもちゃは仕舞おうね」



 そういうと俺は光の速さでヘルメットとピコピコハンマーを仕舞う。


「えー! なんで! やってみたい!」




 俺はすでに嫌な予感が脳裏のうりに走っていた。ここまでの展開からしてリリーはとんでもないことをしてくるに違いない。




「ジャンケンポン!」


「勝った! アラン! くらいなさい!」


「待て! それはピコピコハンマーじゃなくてお前の剣だ!」


 ザクッ



 とか、どうせそういうことになるに違いない。自分が傷つくくらいならこんな玩具元の古臭い物置に仕舞っておいた方がいい。



「ねー! せっかくだからやりましょ!」


「……危なくしない?」


「うん!」


「……じゃあ一回だけな」


 俺は渋々ピコピコハンマーとヘルメットを机に置き、机を挟んで向かい合いになった。



「叩いて被ってジャンケンポン!」



 俺がチョキでリリーがグー。俺が負けになるからヘルメットを被らなければ!


 素早くヘルメットを取り、頭に被る。


「間に合った!」


「えい!」



 リリーはピコピコハンマーを俺の顔面に叩きつけた。



「違う! ヘルメットの上に振り下ろすんだよ!」


「ええ!? そうなの!?」



 お前絶対わざとやってるだろ! と怒りたくなったがここまでのパターンからして多分天然でやっているのだろう。


 恐ろしい。この女は「ゲームに真剣マジな女」なのにゲームが下手なのである。



「はい! もうおしまい!」


「えぇ〜! あ!」


 リリーが何かを思いついたようだ。良からぬ顔をしている。




「アランもしかして私に負けたのが悔しくて辞めるんじゃないの?」




 そう来たか。煽って怒らせてもう一回やらせようとしてるのか。その手には乗らないぞ。



「そうだよ。さあ掃除するかな」


 俺は立ち上がり部屋から出ようとする。


「じゃああなたは私の下僕げぼくね」


 襖にかけようとした手がピタリと止まった。



「下僕?」



「そうよ。だって私に負けを認めてるんだもの!」


 リリーは腹を抱えゲラゲラと笑い始める。


 駄目だ……堪えろ……。


 しかし敗北者と揶揄やゆされた彼のように、俺の腕はプルプルと動き、今にも息が上がりそうになっているのが自分でもわかる。


「ちょっとお茶入れてきてよ! 下・僕さん?」


「クソッ! もう一回だ!」


「やった!」


 リリーが目を輝かせて所定の位置につく。仕方ない。俺が本当の意味で負けてしまったのだ。



 だが、また負けると思うなよ……?



「ジャンケンポン!」



 俺がパーでリリーがチョキ。また負けた。しかしヘルメットを被るスピードは俺の方が速い。


「間に合った!」


「えい! 『連戟レンゲキ』!」


 リリーは今度はヘルメットにピコピコハンマーを振り下ろした。しかしスキル『連戟』は二回目の攻撃の威力が上げる。




 二発目の攻撃はヘルメットの上から俺を叩き潰すのはあまりにも造作もないことだった。




「痛ってええええええ!!」


「あら、大丈夫?」


「なんでピコピコハンマーでヘルメット被ってる男が潰されるんだよ!」


「私が強すぎるからね。」


 リリーは自慢げに胸をどんと叩いた。


 こうなったらここから一発も喰らわず終わらせるしかない。


「叩いて被ってジャンケンポン!」


 俺がチョキで、リリーがパー。勝った!


 しかし俺がピコピコハンマーを取ろうとした瞬間、既にリリーの頭はヘルメットで固くガードされていた。


「残念ね。私の方がスピードでははるかに勝っているわ。」



「くっ……、『連戟』さえなければ!」



「スキルを使っちゃダメなルールなんてないわよね?」




「じゃあ、俺もスキルを使っちゃいけない理由なんてないよな?」




 リリーはハッと驚いた表情をした。




「貰った! 『エクスチェンジ』!」




 エクスチェンジは一定範囲内の同じ価値のものをランダムで交換するスキルだ。上手く行けばヘルメットと何かを交換出来るはずだ。



 交換された後の戦況を見ると、リリーは頭にけん玉を掲げている。ヘルメットとけん玉が交換されたのだ。



「貰った! 喰らえ!」


「喰らうか!」




 リリーはけん玉を投げつける。それは俺の顔をスレスレで通り過ぎ、後ろの柱に突き刺さり、柱を貫通した。




「バカ! それは大黒柱だ!」



「なんですって!」


 こうしてユミル村の名物旅館は倒壊し、数時間後、中から二人が救出されたのだった。

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