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第73話:元村人A、動き出します。

「で? どうするつもりなのよ?」


 シンゲンとの話を終えて、俺、リリー、セシア、ニーナ、メイの五人で城の中の一室で会議を始める。


 部屋の真ん中にテーブルがいくつか並んでいる会議室で、壁には黒板が設置されている。


 現在黒板の手前にある机に肘をついてリリーが皆の前で議長をしているところだ。


「アランねえ、勢いはたしかに大事よ? でも勢いだけで返事するのは良くないと思わない?」


「す、すみませんでした……」


 なぜかテーブルがあり、椅子も用意されているというのに俺だけ正座をさせられている。


「リリ姉! やりすぎです! ご主人が可哀想!」


「ニーナ、こういうのは反省させた方がいいのよ! 正義感はあるだけじゃダメなのよ!」


 ぐうの音も出ない……。解決策がないのに返事をしてしまったのはまずかった。しかし一度言ってしまったことは取り消したくない。シンゲンもそれなりに覚悟しているはずだからだ。


「はあ。で? 実は何か考えがあるんでしょ?」


 リリーはどうやら見透かしているようで、訊いてくる。


「ああ。なんとなくわな」


「聞かせてちょうだい」


「街中でビラを配る」


「「……」」


 俺が発言した瞬間、急に会議室が静まり返った。静寂が空間をしばらく支配する。皆の視線が痛い。


「ご、ご主人それはちょっと……」


「……あんた正気?」


「しょうがないだろ! これしか思いつかなかったんだから!」


 俺は呆れ顔のリリーと苦笑いのニーナを交互に指差して必死に反論する。


「でも現実的に、たしかにこの短期間で出来ることなんてそれくらいよねー」


 リリーはため息をつき机の表面にもたれかかる。


「でもそれじゃ根本的な解決にならないでござるよ……」


 メイも頭を抱えてうんうん唸っている。ニーナはすっかり思考が停止してしまったようで耳から白い煙が上がっている。あかん、あれ脳が温められてる。爆発するやつだ。


「ま、まずはやるべきことを整理したらいいんじゃないか?」


「それもそうね」


 言葉を繋ぐように俺は提案をする。もしかしたら考えがまとまれば解決策がでてくるかもしれない。リリーの許可も降りたことだししばらくお茶を濁そう。


「えーと、エルフは人間を嫌っていて、人間は獣人を嫌ってるんでしたよね」


 ニーナが黒板に三角形の図形を描いた。三つの点は人間とエルフと獣人を表している。


 エルフが獣人と同盟を組んだら人間と組むことはできない。人間のヘイトは両方に向いているからだ。


 人間と獣人が、また人間とエルフも組むこともできない。


 図に矢印を書き加えて、一番簡単な解決方法を模索する。


「つまり人間の反獣人感情とエルフの反人間感情を取り除くことが出来ればいいのか」


「……どうやって?」


「……わかりません」


「問題はそこよね」


 いい感じにまとまってきたと思ったのに! 俺は髪をくしゃくしゃとかき乱した。思わず叫びたくなるような気持ちを抑える。


 もはや万事休すだ。メイは考えすぎて先ほどから地蔵のようにピクリとも動かない。ニーナはとうとう頭からも湯気が出てきてしまっている。


 この状況を逆転できるのはひとりだけ……


 俺はすかさずくるりと方向を変えて振り返る。


「助けてくれセシアさん!」


 とうとう追い詰められて俺はセシアに泣きつく。このお通夜のような空気感は俺には耐えられない。なんとかセシアのローブにすがりついた。


「……新聞」


「「「新聞???」」」


 セシアの一言に俺とリリーとニーナは声を揃えて訊き返した。


「新聞というのは国の時事に関する記事載せた紙のことでござる! 毎日発行されているでござる」


 それは便利そうだな。新聞に書いてあることを読んで、日々の情報を知るというわけか。


「で、その新聞が何だって?」


「……セーニャが言っただけだからわからない」


 セシアは足元の黒猫を指差す。不思議ちゃんセシアによると飼い猫のセーニャが新聞だと教えてくれたらしい。


 こういう時こそ俺が頑張らなければ。セーニャが何を意味しているのかを俺は必死に考える。


 セーニャの気持ちになれ。俺は黒猫が点になるほどまでじっと見つめる。当のセーニャはというと眠いのか欠伸をして昼寝に入ろうとしている。だがそんなことは気にせず目の前の猫を見続ける。


 セーニャは丸くなり、耳をピンと立てた。


 耳……? そういうことか!


 その瞬間俺は全てを合点した。……勝手にだが。


「わかったぞ!」


「どういうことなの?」


「新聞で発信してもらうんだよ! 差別意識を無くすような記事とかエンシェントドラゴン討伐についてとか!」


 要するに、プロパガンダだ。ライクリシア王国では反人間的な教育をしているらしいから情報による宣伝は有効的じゃないだろうか。


「でもそんな記事が受け入れられるかしら?」


「探せば元々そういう記事を書いているところもあるはずだ。読んでる人にだけでも伝われば儲けものだ!」


「うーん、たしかにビラよりはいいかもね」


「やってみる価値はあるってことでござるか」


 リリーもメイも安直に喜んだりはしないものの何となく考えてはコクコクと頷いている。これが今一番良い手であるはずだからだ。


「でも新聞って誰が書いてるの?」


「この辺りの新聞は会社が東京(あずまきょう)に固まってるはずでござる。そこに行けば話を聞けるでござる」


「私、城の人に行って新聞もらってきますね!」


 ニーナが席から立ち上がりせかせかと部屋から走って出て行く。善は急げを体現しているようだ。


 セシアの発言を境に少しずつ俺たちの考えはまとまり始めた。



「これです! イロハニ新聞!」


 ニーナが机の上で大きくひと束の新聞を広げる。俺たちはそれを囲むように見ている。


「この新聞がエルフや獣人よりの新聞ってわけ?」


「はい。聞いてみた感じだと。危険な思想を広めてるわけでもないから安心だと言われました!」


 新聞の記事の傍にある字に目を向ける。イロハニ新聞社は東京(あずまきょう)駅の周辺にあるらしく、電車を使えばすぐだ。


「……行ってみよう」


 手がかりだけでも掴めるかもしれない。シンゲンとの約束を果たすためには一瞬たりとも無駄には出来ない。

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