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第71話:元村人A、案内されます。

「ねえ……アランなんかおかしいわよ?」


「……そうか?」


「ええ。だいぶ」


 表情に出ていたか。さっきセシアの父のトマスと話し部屋の外に出てからリリーたちと合流するまで、長い廊下を歩いている間俺はしばらく色々と思考していた。


 いや、もはや呆然としていたと言っても差し支えない。あまりの衝撃に思考はまとまらず、何かぼんやりと考えていたとしか言いようがない。


「違う。セシアは人形だ」


 トマスの言葉が何度も頭でこだまする。……何も反論することができなかった。今まで羽毛ほどのちっぽけなプライドを抱えてきたと自負している俺だが、これは屈辱的だった。


 俺がしたのは大人に言い聞かされた子供が駄々をこねたのとなんら変わりがない。そこにはなんの意味もなく、なんの解決にもなっていない。


 そしてトマスに言われたことを俺はみんなに言えないままでいた。頭の整理がつかない。どう切り出したらいいのかわからなかった。


「ご主人、またぼーっとしてますよ?」


 ニーナに言われてハッとする。俺は椅子に座って項垂れていたらしい。


「ああ、大丈夫だ」


「大丈夫に見えませんよ。何かあったんですか?」


「いや、ちょっと疲れてな……」


 ふとセシアの方に目を向ける。彼女はいつもの無表情でこちらを見つめている。視線が合うことはなく、そういう点も含めて本当にいつも通りだ。


「……私は人間じゃない」


 一週間前、バルトロギアに向かっていた日の夜にセシアが言っていたことの意味がようやくわかったような気がする。彼女は知っていたのだ。自分自身について。


 そして自分の運命を受け入れた上で生きてきたのだ。今まで。


 でもそんなのは悲しすぎる。


「まあ実際かなり疲れたわよねー。斬っても斬っても減らないんだもの」


 リリーは近くにあったソファにボフっと音を立てて座り、言う。お疲れのようだ。


「気になってたんですが、メイさんが戦闘の時クナイを投げてたのは何というスキルなんですか?」


 ニーナが不思議そうにメイに訊いた。


「あれは忍術スキルでござる!」


「忍術?」


「ニンジャのみが代々使えるスキルでござる!」


 メイはえっへん、とばかりに得意げな顔で胸をどんと叩いた。


「それにしてもメイが忍者っていうのは全然信じられないわね」


「酷いでござる! れっきとしたコウガ一族でござるよ!」


「いや格好がね……」


 たしかにスクール水着で熱弁するメイを見ても説得力は全く感じられない。


「ぬぬぬ……ここは都会だからでござる! 拙者の里に行けばリリー殿もわかるでござる!」


「里?」


「そうでござる! ニンジャの里でござる!」


 ニンジャの里か。それは見たことがないから気になる。聞いた話によると俺の実家の旅館はニンジャやサムライの里のものを再現しているらしいのでルーツとも言えるだろう。


「えー! 面白そう! 行ってみたい!」


「リリ姉! ご主人が疲れてるんですよ!」


「そ、それもそうね……」


 ニーナが注意するとリリーは叱られた犬のようにしゅんとした。


「いいんじゃないか? せっかくの観光なんだし」


「だ、大丈夫なんですか!?」


「ああ。……つーかニーナも行きたそうじゃん」


 ニーナは平静を装っているが、目の奥はキラキラと輝いている。尻尾でもあったらブンブン振り回しているんだろうな。


 どうにも思考がまとまりそうにない。一度外の空気を吸って、風景でも見て落ち着こう。なに、セシアのことは今に始まったことじゃないだろ。


「セシアはどう?」


「……行く」


「じゃあ決まりね! 里までここからどれくらい?」


 リリーが嬉しそうな顔で拳を上げた。


「拙者は電車の乗り方はわからないので行きは歩きでしたが、電車に乗れば30分で着くでござる!」


 電車で30分のところを徒歩で……!? それ二時間くらい歩いたんじゃないのか?


 そんな俺の疑問を他所に、少し休憩をとった後に俺たちは屋敷を出て電車に乗るのだった。



「ここが私たちの里でござる!」


 駅を降りて最初に目にしたのは、ライクリシアの飲食店街で見たような藁の屋根と木造の柱が特徴的な建物たちがずらっと並んでいる景色だ。


「……アランの家みたいなのがいっぱいね」


「どういう意味だお前」


 リリーが不気味そうな顔をしている。クローン人間を見た人の顔だ。こいつ旅館が和ノ国由来のものだっていうのを信じてなかったんじゃないだろうな。


「どうでござるか! 里にきた感想は!」


「なんか……」


 自信たっぷりに里を紹介するメイ。しかし周りのニンジャたちは皆顔を覆うような格好で、全身が真っ黒な服だ。メイのようにスクール水着で歩いている人はひとりもいない。


「なんでござるかその目は!」


「スクール水着はニンジャの正装で、都会だと浮いてるって話じゃなかったのか?」


「そんなこと一言も言った覚えはないでござる!」


「たしかにそうだけども!」


 メイはぷんぷん! と言わんばかりに小動物が威嚇するように吠えてくる。じゃあなんでお前はスクール水着で街を歩いてるんだよ……と俺は困る。


 最初に聞いた時は軽装のほうが動きやすいと言っていたが、あのニンジャの皆さんの服も動きやすそうだけどな。


「さあ! そんなことよりこっちに来るでござる!」


 メイは表情を切り替えて何やら笑顔である方角を指差し、ダッシュでそっちへと向かった。


 メイが指している方向には、巨大な城が建っていた。



「ここがショーグン様がいるお屋敷でござる!」


「「急に走るな!」」


 俺とリリー肩で息をして全力で怒る。


 上を見上げると黒い瓦でできた屋根を被った真っ白な城が建っていた。高さは百メートル後半から二百メートルくらい。


 城の周りは十メートルくらいの大きく高い門とそれより少し低い城壁に囲まれており、壁の外側はお堀というらしく、水が張っている。


「さ! 入るでござるよ!」


 メイが門を潜ろうとすると、門番の男ふたりに止められた。


 彼らは門の右と左を陣取っており、長い槍を交差することで行き止まりを示した。


「メイ! 彼女らは誰だ!?」


 こちらから見て左側の男が低い声をあげる。


「勇者様でござるよ! 拙者が迷子になっていたのを助けてもらったでござる!」


「「ゆ、勇者様!?」」


 メイが勇者様と言ったので門番のふたりは目を大きく開いて驚きの表情を浮かべた。こういう時だけ勇者様って言って解決しようとしてるな。


「……勇者様とその仲間の皆様ですな。メイがお世話になりました」


 右の男が(ひざまず)いて言う。


「メイは見ての通りバカですが、大事なクノイチでござる。お礼を申し上げる」


 左の男も同様に跪く。


「バカとはなんでござるか!」


「いやバカだろ」


 拳を振り上げて怒るメイに素早くツッコむ。


「勇者様がた。ぜひ一度ショーグン様にお会いしていただきたい」


「ショーグン……」


 この国、和ノ国を取り仕切る国王のような存在。俺は生唾をのみこんだ。

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