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第68話:元村人A、観光します。

「目が回ってきた……チカチカする……目が……」


「まだ来たばっかりよ? 田舎者ね」


「……そういう問題じゃないだろ」


 というのも、スクランブル交差点なる俺の周りにはたくさんの人が行き交う道、車と呼ばれる鉄の四人用の乗り物、ビルと呼ばれる巨大な建物が一度に集結しているのである。


 圧倒的な情報の数や量といった視覚の暴力。それはひとりのか弱い人間である俺を完膚(かんぷ)なきまでに叩きのめすには十分すぎるものだった。


 今まで生きてきた環境と全く違う。地面はアスファルトで塗り固められているしあんな高い建物は王城以外に見たことはない。それにこの人の数。どうして朝からこんな大人数が出歩いているんだ。祭りか?


「和ノ国はセネギア大陸戦争から一念発起して高い技術を手に入れたのよ。それによってこういうビルやたくさんの人口を手にしたの」


 高い技術を持っているとは聞いていたがここまでとは。しかしライクリシアやバルトロギアはここまでではなかったぞ。どういう違いがあるんだ。



「それにしても皆同じ服を着てるな……」



 黒い髪は短く整えられ、黒いせびろみたいなのを着て、首に柄のついたものを巻いている。


「スーツというらしいわ。仕事に行く人は同じ格好をすることが求められているのよ」


「異文化ヨクワカラナイ」


 和ノ国は礼儀作法を重んじる国だということも教わったので、スーツという格好は相手に礼儀を示すものだと考えれば非常に理にかなっている。その国の文化は重んじようと思うタイプなので、いい側面に目を向けよう。


「プリンの試食会は明日なの。皆は今日どこ行くの?」


「俺は和ノ国のこと全然知らないしなー」


「私もちょっと……」


 俺とニーナはお手上げだ。和ノ国に来たはいいがこのビルと人ごみの中どこを見て回ればいいのか皆目(かいもく)見当がつかない。


「セシアは?」


「……まだいい」


「そっか! あ! そういえば!」


 リリーはダッシュで何やらカラフルな屋根の、ガラス張りのお店に入って、数分もしないうちに帰ってきた。


「ただいま! これ買ってきたわよ!」


 何やらリリーはイラストが描かれた本を自慢げに掲げて出てきた。本の表紙には「和ノ国観光」と描かれている。


「それは?」



「観光ガイドってやつよ! ここに東京(あずまきょう)のどこが有名なのか書いてあるわ!」



「……なんでもあるな」


 正直和ノ国の便利さに畏怖(いふ)のようなものさえ感じ始めている。サービスは行き届いてるし、物はなんでもある。


「どれどれ……ここから電車に乗ってカミノに行くと動物園があるらしいわ!」


「動物園って何ですか?」


 リリーの提案にニーナは不思議そうに首をかしげる。


「動物が檻に入れられて展示されている場所よ!」


「えー! かわいそう!」


「でも飼われてる動物はご飯がちゃんと出るから幸せかもよ?」


「うーん、私は家族と一緒に外で暮らすほうが幸せだと思うんですけど……」


 ふたりは腕を組んでうーんと頭を悩ませる。……それは動物次第じゃないのか?


「まあ、とりあえず行ってみましょ!」


 考えてもよくわからなかったのかリリーは仕切り直すとばかりにカミノに向かうために駅の方へ向かった。




「電車で5分。とんでもない世界だな……」



 馬車なら10分から20分は必要な距離をその半分以下の時間で走ってしまう。電車というのはすごいものだ。


「さ、ここからは歩いて1分くらいよ。いきましょ」


「お主ら、ちょっといいでござるか」


 俺たちが歩き出そうとすると少女の声がする。


 横には水色のロングの少女が立っていた。少し背が低い。


 なによりも特出しているのはその服装である。紺色のピチピチの布のようなものを着ている。


「な、何かしら?」


「動物園とやらに行きたいのだが、迷子になってしまったのでござる」


「え? あそこよ?」


 リリーが指差した方向には明らかに動物園の看板らしきものがある。誰がみても見落とさないレベルの明らかさだ。


「おお、あれでござるか。助かったでござる」


「そんなことより、その喋り方、あなたもしかしてニンジャ!?」


 リリーが興奮気味に少女に訊く。




「如何にも。拙者はコウガ メイ。メイって呼んでほしいでござる」




 メイと名乗る少女は両手の人差し指、中指を立てて左手は縦に、右手は横に胸の前で組み、十字を作り、答えた。


「あのう、その服、寒くないですか?」


 ニーナが訊く。そのピチピチの服は胴の部分がうまく隠されているが、華奢(きゃしゃ)なその脚や腕が完全に露出している。どう考えても周りとは違う服装だ。


「これでござるか? これはスクール水着でござる」


「ス、スクール水着?」


「学校のプールに入る時に着る服でござる。動きやすいから愛用してるでござる」


 いやだからといって街中で着るのはおかしすぎるだろ。


「自己紹介が遅れたわね。私はリリー」


「アランだ」


「ニーナです!」


「……セシア」


「四人ともよろしくお願いするでござる。……知り合ったついでにもうひとつよいでござるか」


「どうしたの?」


 メイは申し訳なさそうに言う。


「……実は動物をみたいでござるが、どうすれば入れるかとかまるでわからないでござる」


「ええー!?」


 ……この子は一体動物園に何しに来たんだ?


「拙者恥ずかしながら田舎者でござる。電車もよくわからなくてここまでダッシュで来たというか……」


 方向音痴なのかと思っていたが田舎者か。同じ田舎者としてなんだか親近感が湧いてきたな。


「わかったわ! 動物園の中では一緒に歩きましょ!」


「い、いいんでござるか!?」


 リリーの提案にメイは目を輝かせる。


「もちろんよ。さ、行きましょ!」


 リリーとメイは走って動物園の門の方へ向かっていった。


「おい走るなー!」


 こういう時に子供っぽいのは変わらないんだな。



「見て! あれがキリンよ!」


「首が長いでござる!」


「あれがペンギン!」


「かわいいでござる!」


「あれがパンダよ!」


「白黒でござる!」


 リリーとメイはかなり楽しんでいる。子供のように動物を指差しては喜ぶ。メイは普段動物を見ないからまだわかるが、リリーはモンスターとかよく見てるんだからそんなに興奮する意味がわからない。


「疲れた……。底なしの体力だなあいつら」


「アハハ、楽しんでますね」


 俺、セシア、ニーナはベンチで少し休む。楽しんではいるのだがあのふたりの体力についていけなくなってしまった。


「セシアも楽しんでるか?」


「……ペンギン」


 一単語じゃわかりません。まあなんとなく可愛いと言ってるのはわかる。



「……来る」



「え?」


 刹那、セシアがなにかをつぶやき、表情を強張らせたように感じた。


 立ち上がり周りを見渡すと、何箇所か空間が陽炎(かげろう)のように歪んで見える。


 するとそこから黒い影が現れ、それはたちまち黒いローブをまとった人へと姿を変えた。


「囲まれてます……!」


 俺たちは三百六十度、ベンチを中心に黒いローブ姿に囲まれてしまった。

メイ

挿絵(By みてみん)

挿絵はカスタムキャストを使用しました。

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