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第67話:元村人A、少し休みます。

 一週間が経過した。


 現在オルデガノスに泊まって七度目の朝を迎えている。もちろん宿屋暮らしで、毎日例のエクスペリエンスキャロットを狩りまくっている。


 どうやら倒しても倒しても湧いてくるそうで毎日倒してもまだまだ先は見えない。おかげで俺たちはニンジン狩り放題というわけだ。


 話は変わる。ニーナの元に突如飛んできたユニコーンはニーナによって「馬場さん」と名付けられた。どうやら彼女にしか懐かないらしく俺が触ろうとしたら顔面をボコボコに蹴られた。(ひずめ)って硬いんだぞ。


 しかも馬場さんは普段は馬サイズなのにニーナが言えば子犬サイズに縮小されるというなんとも便利な力を持っていた。セシアの飼い猫セーニャとは仲が良いみたいだ。


 そして俺たちは……。


「もう嫌ーーーーー!!」


 宿屋の一室。リリーが辛抱ならぬとばかりに机をドンと両手の拳で叩いて叫ぶ。


「おいおい。何騒いでるんだよ。さ、ニンジン狩りに行くぞ」


「アランがおかしくなってる! ニンジンに毒されてるわ!」


「ハハハ、そんなことないだろ。今日もニンジン日和のいい天気だ!」


「ああ! 爽やかな笑顔を浮かべてる! あの目つき悪いアランが!」


「さあ、今日も素敵なニンジン生活を始めるぞ!」


 俺はリリーの手を引っ張り農場へ連れて行こうとする。


「嫌! もうニンジンは嫌! アランも目を覚ましなさい!」


「目ならもう冷めてるさ! さあ行こう!」


「いい加減目を覚まさんかい!」


 リリーは引っ張られていない右手で勢いよく俺の顔面にパンチを入れた。衝撃でゴロゴロと転がり部屋の壁に頭を打ち付ける。


「ハッ! 俺は一体何を……」


「ハア、ハア、やっと正気に戻った……」


 リリーは肩で息をする。


「アラン! たしかにこの一週間のニンジン狩りで私たちのレベルは5上がった。でも周りをよく見てみなさい!」


 リリーに言われて部屋を見渡してみる。


「うふふ……パンケーキさん? 逃がさないんだから……」


「ああ! ニーナが虚ろな目をして壁に向かって意味不明なことを言っている!」


 ニーナは部屋の隅に座り込んで指で壁に何かを書きながら笑っている。あかん。精神的にやられてるやつだ。


「……むしゃむしゃ」


「ああ! セシアが無表情で大量のニンジンをひたすら食べ続けている!」


「……それはもともとじゃないかしら?」


 ……たしかに。


「とにかく! 私たちのパーティは体力的に限界なのよ! 毎日毎日ニンジンを狩るだけで!」


「……あそこが一番効率がいいんだ」


「でも毎日同じ作業はダメよ! 実害が出てるじゃない!」


 リリーの言うことにぐうの音も出ない。たしかにレベルが上がってもエンシェントドラゴンの討伐をする前に精神に問題が出ていては意味がない。


「よし! 今日と明日はオフにしよう!」


「やったー! オフよ!」


 リリーが喜んでピョンピョンと飛び跳ねる。パーティの問題を解決したかったというよりお前が休みたかっただけじゃないだろうな。


「じゃあこれに行けるってわけね……」


 リリーは何か紙をポケットから取り出し折りたたまれていたのを丁寧に開いた。


「なんだそれは?」


 俺がリリーの後ろから見てみると、それは一枚のビラだった。


 『プリン試食会! 先着で30名様までなのでふるってご参加ください!』


「……お前それまだ持ってたのか」


「別にいいじゃない! 行きたかったんだから!」


「いや構わないけどさ……。お前そういうとこあるよな」


「何よそういうとこって!」


 リリーがジト目で怒る。意外と執念深いというか……と言おうとしたが、めんどくさそうなのでやめた。


「セシアは今日明日どうするんだ?」


「……和ノ国に行く」


「へー、意外だな。セシアも観光か」


「……そんなところ」


「あー!」


 セシアと話しているとリリーが突然大声で叫ぶ。


「なんだ!?」


「この試食会の会場、和ノ国の東京(あずまきょう)ってところよ!」


「じゃあリリーも和ノ国か」


 和ノ国。確かに実家の旅館がモチーフにしてるくらいだから一度行ってみたいような気がしていた。


「俺も和ノ国に行こうかな。ニーナはどうする?」


「私はパンケーキです」


「え?」


 忘れていた。ニーナは未だに虚ろな目をしながら壁に語りかけている。


 俺たちはなんとかニーナを元に戻そうとそこから30分ほど試行錯誤するのだった……



「よし! 皆で和ノ国行くぞ!」


「ごめんなさい……貴重なオフの日の30分も私に割いてもらって……」


 ニーナは申し訳なさそうだ。


「気にすんなって。でも今から馬車で移動しても明日までに間に合わないか?」


「え? 電車を使えばいいじゃない?」


 リリーの口から聞いたこともないようなワードが飛び出してくる。


「電車?」


「知らないの? すごく早い鉄の乗り物よ。ここから乗れば午後には着くんじゃないの?」


 なにそれ聞いたことない。ライクリシアからバルトロギアまで一日以上かかったんだぞ? なんでそういうハードルを軽々超えていくわけ?


「ここからだと最強線に乗って、川下(かわのげ)線に乗り換えるのが早いわね」


「の、乗り換え?」


東京(あずまきょう)は電車がいっぱい通ってるから線路を変えないといけないのよ」


 田舎者だからかてんやわんやだ。いや、田舎者だからじゃない。「馬車で移動するのが普通」という俺の今までの価値観が覆ったから驚いているのだ。


 技術が進んでいるとは聞いていたがここまでとは……現地に行ってみてトンチンカンなことしないか今から不安だ。


「楽しみね! 和ノ国にはニンジャとかサムライっていうのがいるらしいわよ!」


「なんだそれは?」


「こっちで言うところの戦士とアサシンよ! 一度見てみたかったのよね〜!」


 もう着いていけない。おじさんの気持ちがよくわかった。


「馬場さん、電車の中では暴れちゃダメですよ」


 ニーナは子犬サイズになった馬場さんを撫でてニコニコしている。かなり和ノ国が楽しみなようだ。


 ……まあ色々わからないけどせっかくの観光だし楽しむか。


 支度を済ませ、俺たちは部屋から出た。

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