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第6話:元村人A、女装します。

 朝食を済ませて俺達は今晩のモンスターと戦う作戦をたてることにした。



「話を聞く限りその魔物は相当強いわよ。何年間も生娘を攫っているんだもの。知能があるのかもしれないわ」


「知能があるモンスター……。となるとこちらに警戒して向こうが何か仕掛けてくる可能性があるかもしれないな」



 モンスターは先天的に知能があったり、生きていくうちに知能を得るものもいる。本で読んだのを思い出した。


「用心に越したことはないけど、私はそうは思わないかな。そいつは何年も人攫いを続けて、成功させているから、今さら人間が反抗してくるとは思わないでしょう」



「向こうが何をしてくるかというよりいかに相手の意表をつくかを考えた方がいいってことか」



「そういうこと。倒すには上手く作戦をたてて隙を作ることが必須だと思うわ」


「なるほど……隙をつく作戦か……」


「メアリちゃんはどうやって生贄にされるの?」


「……多分タルに入れて運ばれる。何年か前にタルで運ばれているのを見たことがある」


「上手くメアリちゃんを隠しつつ攻撃に繋げたいわね……」


 タルを上手く使って隙をつく作戦か。しばらくすると一つのアイデアを閃いた。




「そうだ、メアリと入れ替わりに俺がタルに入って一撃を入れる。最悪防がれたとしてもそこで作った隙でリリーがモンスターを倒せる」




「なるほど……。囮になるってことね」


「そいつが周りに仲間を連れてくる可能性もあるから、リリーが身軽に動けた方がいい。先に大将を倒すんだ」


「いいかもしれない。一瞬の隙を作り出して、かつメアリちゃんに危険が及ばない」




 俺達は話し合いを続けた。確実に倒さなければ村に危険が及ぶことも考えられる。慎重に、かつ一撃で勝利するしかない。




 そして、話がまとまる頃には日が暮れかけていた。




「そろそろ日が暮れるわね。行きましょう」


「……ああ。手はず通り行けばいいが」


 俺達は外が暗くなるのを見計らって部屋を出てメアリがいる山へ向かった。




 夜の山の中に一つタルが置いてある。周りには松明が置かれ、夜の暗い山を照らしている。



 そんなタルの中に入っているのは女装したアランであった。



 ……これ女装する必要あったか?


 リリーとの話し合いで忠実に女を再現した方がいいという意見が出たので、アランは渋々ウィッグと女物の服に胸に茶碗を着させられてーー茶碗に関しては着るという表現はおかしいかもしれないがーーいた。


 絶対ないだろ。


 そんなことを考えていると何やらたくさんの足音が聞こえてきた。


 来たか……!


 アランの思った通り、タルの外ではモンスター達がぞくぞくと歩みを進めていた。



 確実に一撃で仕留める。ダメでもリリーがいる。



 少しすると足音が止んだ。恐らくすでにタルを遠巻きに集まってきているのだろう。


 足音がしたってことは近づいてきたモンスターは人型。ならタルの前に立った時に顔面を剣で突き刺す。


 一匹のモンスターの足音が近づいてきた。タルを確認しようとしているのだろう……恐らく大将格たいしょうかくだ。



 ザクッ、ザクッとモンスターの足音が近づく度に自分の心臓が激しく拍動するのがわかる。一歩、また一歩と近づいてくる。




「今だ!!」




 俺はタルを突き破り喉元を刺すべく剣を突き出した。




 が、目の前のモンスターは喉に突き立てられた剣を掴んで押さえていた。




「オーク……!」


 大将のモンスターはオークであった。体長は一九〇センチくらい。左手で俺の剣を抑え、右手には粗末な槍を持っている。タルから出るタイミングは完璧だったがそれを後から対応できるほどの力。相手のモンスターは格上だったのだ。



「オマエ……違ウ……」


  オークは低く唸るような声で、だが確かに言葉を発した。知能のあるモンスター。オークは元々知能はないのでこいつは後天的こうてんてきに知能を身につけたのだ。



「アラン! 避けて!」


  前方から叫び声がし、リリーがオークに飛びかかった。俺は即座に伏せる。


  オークはその声に反応し、一瞬のうちに俺の剣を離し、リリーの方に振り返り、槍でリリーの攻撃を防いだ。


 リリーは追撃で右に左にと剣を降るが、相手がそれを防ぐスピードの方が一段階早く見えた。



「くっ、なんで当たらないのよ!」



 オークは防戦一方、というよりは守りに徹している。槍の長いリーチを活かし、リリーを近づけまいとしている。



「『連戟レンゲキ』!!」



 リリーがスキルを発動し、一歩踏み出して斬りかかる。当然、一撃目は防がれる。


「やるわね。でも次はどうかしら?」


 スキルの効果により威力、スピード共に強くなった二撃目はオークの槍を弾き、手から離すまではいかなかったが、オークを動揺させ、大きな隙を作った。



「喰らいなさい!」



 リリーがオークの首をねようとすると、アランが叫んだ。




「駄目だリリー! それ以上近づくと!」




 刹那せつな、オークが攻撃を受けた体勢のまま素早く切り返し、槍でリリーの腹部を貫こうと一突きした。


 一閃。そう表現するのに申し分ないだろう。とても目視するのは簡単ではない。


 俺の声でいち早く気づいたリリーは攻撃の手を止め、急いで剣で槍を弾き軌道をずらす。まさに間一髪、致命傷は免れた。


「助かっ……」




 呟こうとした瞬間だった。リリーはオークの二発目の突きに気づいたものの、あまりの速さに避けきることが出来ず、左肩を槍が突き刺した。




 リリーの血が宙に浮かび、反対にリリーは地面に吸い込まれて行く。その光景は俺の目にスローモーションで焼き付いた。




 実際はほんの一瞬に過ぎないが、凄く長い時間に感じた。俺はその姿をただ呆然と見ることしか出来なかった。ドサッ、と音がしてリリーが地面に倒れ、時が再び動き出した。



「……驚いたわ、緩急かんきゅうをつけてくるなんてね」



 一度目の槍を遅く、二度目の槍を早くすることでスピードを見誤らせたのだ。


「うおおおおお!!」


 俺は無我夢中むがむちゅうでオークに向かって走り、切りかかった。が腕を掴まれ、地面に叩きつけられた。



 身体中に痛みが走る。すかさずオークは俺の腹に蹴りを入れてくる。




 遊ばれてやがる。




 口の中は砂と血の、鉄のような苦い味が広がる。腹を蹴られる度に鋭い痛みを感じ、とうとう俺は吐血した。視界がぼやけているので、体力が少ないことを俺は自覚した。


 恐らくこのまま蹴られ続ければ、もしくはこいつが遊びに飽きて槍で軽く一突きでもすれば俺は死ぬだろう。俺が死んだ後はリリーが始末され、村が、妹が狙われる。




 ただ、俺だって死ぬために突っ込んで行ったわけじゃない。




 一か八かだ。


「この槍さえなければ!!」


 そう言ってオークの槍を掴もうとして腹に蹴りを喰らった。視界がくらむ。



 だがこれで準備万端だ。



 その姿を見てリリーはニヤリと笑った。




「わかったわよ。あなたのやりたいことが」




 リリーが立ち上がった。オークは地面に這いつくばった俺を蹴るのをやめて、リリーの方を向いた。


 周りにモンスター達がいる中で、山は一瞬、静寂せいじゃくに包まれた。

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