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第58話:元村人A、上陸します。

「すげー!!」


 船が港に着き、皆が歩いて船から降りる。


 港はほとんどが木で作られており、他にも沢山の船が停まっていた。漁業や貿易が盛んなのだろうか、たくさんの人が忙しく歩き回り、なにやら荷物のようなものを下ろして運んでいる。


 いや、正確には人ではない。エルフだ。髪の色は薄い黄緑色に近い。男も女も髪を長く伸ばしている人がほとんどで、肌は白い。


 女はワンピースのような服、男は鎧を着ているのがほとんどだ。だが武装している連中は剣を持っているように見えず、後ろに筒のようなものを背負っているから弓兵だと思われる。


 近くの人々から遠くへと目線を動かす。人々が生活を営むその土地は、鬱蒼(うっそう)とした木々が何本も生い茂り、ツリーハウスがいくつかある。


 何もかもがネビリオ大陸とは違う。人間ではない種族が暮らしているのだから、文化も、それからライフスタイルまでも。


「カイン。待っていたよ」


 俺が上にばかり目をやって新しいものにキョロキョロを見ていると、目の前にはエルフのおじさんが立っていた。


 緑色の髪で、長いあごひげが生えている。鉄でできた鎧を着ている。老人に見えなくもないが、腰が曲がっていないのでおじさんなのだろう。


「おー、デルグレッソ。わざわざ来てくれたのか」


 カインはエルフのおじさんと握手をする。どうやら知り合いのようだ。


「お前ら、俺はデルグレッソとこれから話があるからどっか観光しててくれ。二時間後に落ち合おう」


 カインはそういうと俺たちの返事も聞かずに笑いながら歩いて行ってしまった。適当だな。


「じゃあ旦那! 私もここでオサラバっす!」


 ポーラもここからは単独行動ということで皆に別れを言って走ってどこかに行ってしまった。


「……あいつ無賃乗船じゃないのか?」


「バカなこと言ってないで、私たちも観光するわよ!」


 リリーは伸びをして凝り固まった体をほぐし、大きく深呼吸をする。


「はー、空気が美味しい! あ! あっちから美味しそうな匂いが……」


「リリ姉! まずは換金しないとダメです!」


 リリーがダッシュで近くにある飲食店に走って行こうとするのをニーナが全力で服を引っ張って引き止める。


「……どっちが年上なんだか」


 やれやれ、俺はお手上げだ。


「う、うるさいのよ! 換金ね!? いきましょ!」


 リリーは恥じらいからズンズンと歩いていく。俺は呆れ顔、ニーナは苦笑い、セシアは無表情でそれを見ていた。



 どうやら俺たちは「ギル」というものを甘く見過ぎていたらしく、この大陸でもお金の単位はギルであるらしい。


 ではなぜ換金が必要なのか? 俺たちが暮らしていたネビリオ大陸のギルは基本的に円形の貨幣だった。


 しかしセネギア大陸では長方形なのだ。チップのような形をしていて、サイズはネビリオ大陸と同じで手のひらに乗るくらい。


 なんでそんなめんどくさいことを……と思って聞いてみたところ、昔の戦争でこの形の貨幣を使っていた国が勝ったからで、それ以上の理由はないそうだ。


「お腹すいたし、どこか入りましょ! なんかがっつり食べたい気がするわね!」


 ラクシュの商店街のように、飲食店がずらりと道を挟んで並んでいる。リリーはスキップで前をずんずんと進んでいく。


「テンション上がってんなあ」


「船の中で退屈だったんじゃないですかね」


 ニーナはアハハと笑う。ちょっと前までしけてた(・・・・)みたいだし、リリーらしいといえばリリーらしいのだが。



「4名様ですね? 奥の席にお座りくださーい!」


 カウンターのエルフの女性が俺たちを席へ通す。お店の雰囲気は落ち着いていて、ラクシュのものに近かった。高い天井や壁や家具がシックな色合いに統一されており、床は対照的に真っ赤なカーペットが敷かれている。


「外はラクシュと似てる建物と和ノ国風の建物が入り混じってて、変な感じだったわね」


「そうですね。和ノ国風の建物は古いのが多かったです」


 たしかに飲食店街のお店はほとんどがこういった館のような椅子に座って食べるスタイルなのだが、何軒か畳の座敷に座るお店が並んでいた。


「新しくまとまって建ったってことじゃないのか?」


「それにしては位置がバラバラすぎるというか……うーん」


「注文はお決まりですか?」


 俺たちが頭を悩ませてうなっていると、ウェイトレスが注文を取りに来た。


「今日はがっつりいきたいからカツにしようかしら! えーと、あれ?」


 リリーはメニューをまじまじと見つめてあることに気がついた。


「このお店ってトンカツないのね?」


 俺も手元のメニューを手にとって見てみる。たしかにトンカツがない。それどころか他の豚肉が使われた料理がない。


「申し訳ございません、この国では豚は食べられないのです……」


「え? そうなの!?」


「はい、ライクリシア王国の国教はラミア教のジーダル派ですので……」


 そういえばラクシュにいた時にレイウスから聞いたな。ラミア教のひとつにしてもたくさんの派閥にわかれていること。


「おい! この店に人間なんて入れるな!」


 後ろから大きな声がする。振り向くとかっぷくのいいエルフのおじさんがウェイトレスに向かって大きく叫んで椅子にもたれかかっていた。


「なんですって?」


 リリーがイラっとしたとばかりに立ち上がりおじさんの方に歩こうとする。


「やめとけって!」


 俺はリリーの腕を掴んで必死に止めるが、どんどん力が強くなって今にも走り出しそうだ。


「なによアラン! 馬鹿にされてるのよ!?」


「周りをよく見ろ!」


 俺が言うとリリーは改めて他の席の人たちを見回す。


 皆がなんだか不満げで、どうやら俺たちは歓迎されていないことがわかる。


「来て早々に揉め事なんか起こすべきじゃないだろ、出るぞ」


 俺は文句ありげなリリーを引っ張って、皆一緒に外へ出た。


「なんで引き下がるのよ! おかしいわ!」


 リリーは悔しさからか怒りから強く地団駄(じだんだ)を踏んだ。少々プライドが高い彼女だから怒っているのではない。流石に俺もちょっとイラっときた。


「まて、俺たちはただの旅人だ、あんなにアウェーなのは何か理由があるに違いない」


「理由?」


「例えば歴史だとか、最近の状勢だとか、とにかく人間が好かれていないのはたしかだ」


 その時、近くで怒号が聞こえ、ドサっと人が倒れる音がする。


 驚いて視線を移すと、先ほどまでウェイトレスをしていた女性が地べたに倒れている。


「人間なんて入れおって! もういい! 消えろ!」


「ご、ごめんなさい! だからクビだけは!!」


 ウェイトレスがなんとか立ち上がろうとして手を伸ばしたが、シェフと見られる男によって扉を大きな音を立てて閉められてしまった。


「はうううう……」


 ウェイトレスは……元ウェイトレスは再び地べたに力なくへなへなと座り込んでしまった。


「ねえ……なんか可哀想だからそっとしておいてあげましょ?」


「お前はバカか。完全に俺たちのせいでクビになってるだろ」


 リリーが厄介ごとから逃げようとしているのでとりあえず話を聞いてみることにした。

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