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第56話:元村人A、色々知ります。

「そのエンシェントドラゴンっていうのは?」


「ん? お前知らないのか」


「……というかセネギア大陸のことも、なにも」


「しゃーないな」


 カインはやれやれといった顔をしながら教えてくれた。


ーーー


 セネギア大陸には三つの種族が暮らす三つの国がある。



 ひとつはエルフたちが暮らすライクリシア王国。



 「自然とともに生きる」をモットーにしており、山や森など雄大な自然が残され、そこで人々が暮らしている。


 なんといっても一番有名なのは「世界樹」だろう。


 高さは数百メートル、厚さもかなりのもので樹齢は数千年だという。


 大賢者によって植えられたというその木を見て古代の人々はそれが天を支えていると考えていたそうで、大事に大事に見守られ、人々の生活の、平和のシンボルとなり続けてきた。


 世界樹があるうちは平和が保たれるとされており、人々の中にはネビリオ大陸のメジャー宗教、ラミア教と結びつけた宗派を信仰する人もいるらしい。



 ふたつめは獣人族が暮らすバルトロギア王国。



 人間に動物の要素が加えられた種族で、肩から上がライオンで下が人間みたいな感じらしい。


 戦闘に長けていて、高い身体能力と培われてきた戦闘テクニックによりモンスター狩りを行う種属。


 土地は乾燥しており、乾燥しているので灌漑農業と貿易で食料をまかなっている。元々は狩猟民族だったという。


 大きなフラドミア火山があり、その火山の噴火はエンシェントドラゴンの復活を意味するという。



 三つ目は人間が暮らす和ノ国。



 俺の旅館が採用していたスタイルのオリジナルの国。


 昔はニンジャと呼ばれる暗殺者やサムライという剣士に似た職業の人がいたらしい。今もいるのだろうか。


 ラブレターがわりに歌を送るというのも面白い文化だ。


 セネギア大陸はこの三つの種族たちによって構成されている。


 そして、エンシェントドラゴンについて。


 このドラゴンは先ほど述べたフラドミア火山の地下に眠っているという。


 しかし千年周期で眠りから目覚め、火山の噴火とともに地上に現れ、英雄たちに討伐されてまた火山の地下へ潜るという。


 とても強いため完全に討伐することは不可能で、地上に現れたところを討伐し、また眠らせることしかできないそうだ。



ーーー


「なるほど、カインさんはエンシェントドラゴンが目覚めるから呼ばれたんじゃないかって話か?」


「いや、それにはちと早すぎるはずだ。ま、なんかの顔合わせとかかもしれんしな」


 カインはガハハと笑い始めた。とりあえずその顔合わせだけっていうのはないだろう。


「あと三日くらい乗ったらエルフのライクリシア王国に到着だ。集合場所はそこから二日馬車に乗ったバルトロギア王国だがな」


 カインは手を目の上に当て、進行方向の水平線の先を見る。流石に島は見えないだろ、とつっこもうと思ったが面倒なので放っておいた。



「ふたりともー! トランプやりましょー!」



 リリーたちが客室の入り口からこちらに手を振る。久しぶりにたっぷりと暇できる時間があるので、とりあえず今は何も考えず楽しもう。


 俺たちはリリーたちの方へ笑顔で向かった。



「ふっ、右だぜ」


「くっ……ブラフかしら?」


 皆で始めたババ抜きもいよいよ最終局面。なんとなく予想はできたがカインが一位通過、二位はビギナーズラックでニーナ、三位がポーカーフェイスのセシア、情報戦に強いポーラが順当に勝ち進み四位となり、残りは俺とリリーだった。


「さあ早く引け!?」


「左……いや、目を見てる感じは右……!」


 ここでリリーに残りのカードを引かれて仕舞えば俺の負けが確定する。手に汗握る瞬間だ。


 なお、負けたら顔に落書きされるという恐ろしい罰ゲーム付きだ。ふざけるな。こんな大きく綺麗な客船に、おでこに「肉」とか書いてある男が乗ってたらおかしいだろ。


「こっち、いや、こっち……?」


「さあさあ、早くしないと日が暮れちゃうぜ?」


「わ、わかってるわよ!」


「10、9、8、7……」


「か、カウントダウン禁止!!」


 リリーを焦らせて思考を停止させる。貰った……



「え、ええい!」



 焦ってか、俺の手札からカードを一枚むしりとった。


 リリーは瞑った目をだんだんと開き、恐る恐る自分が手に取ったカードを見た。




 彼女の眼前にはババが写っているはずだろう。




「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「あ! リリーが外した!」


 リリーが叫びながら倒れるのを見て、ポーラが声を上げた。これでもう一度俺に反撃するチャンスが回ってきたというわけだ。




「流石だな。まさか『エクスチェンジ』を使ってカードの位置を入れ替えるなんて」




 カインが感心しながらつぶやく。


「『エクスチェンジ』を使って……?」


 それを聞いてリリーが倒れた状態で言う。


「……バレちゃった?」


 リリーは倒れていた状態から猛烈な勢いで起き上がり、鬼のような形相で俺の胸ぐらをつかんだ。


「あなたスキルを使ったのね?」



「まあ……一応?」



「『エクスチェンジ』を使って二枚のカードの位置を交換して私にババを引かせたのね?」



「……結果的には?」



「つまり、イカサマよね?」




「……そうとも言う?」




 ダメだ。苦しい。ふたつの意味で。リリーの胸ぐらを掴む力はどんどん強くなり今にも殴られそうだ。何か、何か言い訳を……!


「ポーラ、ペンを貸してちょうだい」


「かしこまりました! 姉貴!」




「ひぃぃぃぃぃぃ!! すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!」






 結局イカサマがバレておでこに卍と書かれてしまった。なんか荒くれ者みたいでやだなこれ。



「罰として今日一日はそのままだからね!」


 リリーに怒られてトランプは解散になった。ポーラが苦笑いしながらノリノリだったのが腹立つな。


 ……まあ全部自業自得なんだけど。


 部屋から出ると、廊下にニーナが座り込んでいた。」


「ニーナ、どうした?」


「あ、ご主人……。少し気分が悪くて……」


「気分が悪い? 船酔(ふなよ)いか?」


「……船酔い?」


 あーそうか。ニーナは「船酔い」という単語を知らないのか。なんせ船に乗ったのが初めてなんだから。


「乗り物に乗ってると気分が悪くなる人がたまにいるんだよ。そういうのを『酔ってる』って言って、ニーナは船に酔ってるから『船酔い』だ」


「なるほど……」


「そういう時は外で新鮮な空気を吸うのが一番なんだ。ほら、行くぞ」


 ニーナの手を取り、デッキへと歩いた。



「どうだ? 多少は楽になったか?」


「はい、だいぶ楽になってきました」


 ニーナは水平線を見つめる。その少女らしい横顔を俺は見て、なんだか心が痛くなった。


「……ニーナは旅に着いてきてよかったのか?」


 正確に同い年なのかはわからないが、幼気(いたいけ)な少女の姿は、妹のメアリと重なるものがあった。


 だからこそ、命がけの戦いの旅で、その無垢(むく)な笑顔が壊されてしまうのではないか、俺はそれに巻き込んでいるのではないかと心苦しく思ったからだ。


「はい。よかったですよ」


 ニーナは俺の問いに即答した。予想外の結果に俺は意表を突かれる。


「命がけなんだぞ。きついことだって……」


「私はご主人に買われた身ですから」


「そんなことどうだってよかったんだ。お前まで危険な目にあう必要はない。それに……」


「ご主人」


 俺がニーナを納得させようとなんとか喋り続けようとすると、ニーナが制した。


「私はご主人に買われました。でも旅に着いていくのは自分のためです。私は困っている人を助けるヒーローになりたいんです」


 俺の目を見つめ、話し続ける。


「ご主人に助けてもらった時、凄く嬉しかったんですよ。だから、私のこの命は昔の私と同じ思いの人を助けるために使いたいんです。強くなりたいんです」


「覚悟はできてます。だからご主人たちが傷ついた時は私が治します。お返しです」


 ニーナは笑顔で言った。少し前までのオドオドとした矮小(わいしょう)な小動物のようではなく、強い意志を持っている印象だ。


「そうか。じゃあよろしく頼む」


 俺はニーナのことを見くびっていたらしい。この前の騒動の時に彼女の中でも何かあったのだろう。彼女はルリアとの修行で格段にたくましくなっていた。


 考えを改めなければいけないのは俺の方、か。


 思わず笑みがこぼれた。

おまけ


ニーナ「その顔で言われると……。ププ、こっちが笑いそうで……」

アラン卍アルベルト「さっきまでの雰囲気は!?」

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