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元村人A、繰り返しの日々から抜け出します。  作者: 艇駆 いいじ
第3章 王都ラクシュ騒乱編
59/121

第52話:元村人A、終わらせます。

 馬車で10分ほど走り続ける。緊迫した空気が走り、俺は全力で馬を走らせていた。


「アラン! もう追いつかれるぞ!」


 レイの声がする。その時、先ほどまでとは比べ物にならないほどの地響きがして、馬車が大きく揺れる。


「キャーーー!」


 ニーナの高い叫び声が聞こえ、次の瞬間バランスを崩した馬車は転倒する。


「うぉぉぉ!!」



 全員馬車から投げ出され、視界が一回転する。



 地面の上を転がっている感覚があり、土が顔に付く。砂の味がする。


「皆! 怪我は!?」


「大丈夫そう……」


 俺が体を起こして皆に聞くと、目が回っているのか皆ゆっくりと立ち上がっているが、外傷は無さそうだ。



「それよりアラン! こっち来てるぞ!」



「大丈夫。目的地には着いている」


 騒ぐアンジェラをなだめる。


「そんなこと言ったってよ! ここどこだよ!」




「ここは……!」




 セシアがハッと気づく。




 その時、ゴーレムが俺たちに追いつく。アリシアを潰すために拳を大きく振り上げる。




「ここまでか……!」



 とアリシアはつぶやく。拳がアリシアに向けて振り下ろされた。




 ズドォォォォォォォン!




 と、音がして、アリシアはペチャンコになって任務は完了しているのだろうか。




 あちら側では・・・・・・




「兄貴〜! あっちに送りましたぜ!」


 レミスが俺の後ろにスッと現れる。


「ナイス。助かったぜ」




 そう。ここはマジナ村周辺の、「不思議な世界」に通じる場所だ。




 ゴーストキング、レミスによってアトラスとかいうあの巨大ゴーレムは彼が管理しているこの世界とは別の世界の空間である「不思議な世界」に引きずり込まれたのだ。




「おいなんだこのワカメみたいな頭した男は?」


「……お前もあっちに送ってやろうか?」


「あぁん!? おいアラン! なんでこいつオレにだけ強気なんだよ!?」


「うるさいから勘弁してくれよ……」


 アンジェラとレミスが睨みつけあいながら口喧嘩を始めた。幻覚でバチバチと雷が見える。


「とにかくレミスやめろ。仲間なんだから喧嘩するんじゃない」


「うぅ……。兄貴がそういうなら辞めますけど」


 レミスは不服そうにアンジェラを睨みつけながら言うことを聞く。


「ふん! なんか文句あんの……痛っ!」


 アンジェラがまた喧嘩をふっかけようとすると、セシアが頭にチョップを入れる。


「なにすんだよぉ!」


「……アンジェラ、ハウス」


「オレは犬じゃなぁい!」


「なぁ」


 アリシアが口を開いた。神妙そうな面持ちで。


「どうした? そんな顔して。」



「何か聞こえないか?」



 俺たちはその言葉を聞いて耳を澄ましてみた。確かに聞こえる。なにかが遠くで唸るような声が。


 次の瞬間だった。地面の少し上の空中に、裂け目が出来た。ちょうどアトラスを吸い込んだ辺りだ。




「ま、まさか!」




 アリシアが叫ぶ。そのまさかだった。裂け目から指が一本、二本と出てきて、とうとう手が出てきて、地面をつかんだ。



「あの空間から出てくるなんて! ありえない!」


 レミスが恐怖に顔を歪める。


 見るに、ブラックホールのように空間に吸い込まれているのを必死に地面にしがみついて離れないようにしているようだ。


「どうすればいいのかしら」


 ルリアが顎に手をやり、考える。


「今なら皆で押せば戻るんじゃないでしょうか!」


「それはないわニーナちゃん。でもグッドアイデア」


 ルリアはサムズアップをして鼻血を流す。



「出血してる場合か!」



 アンジェラがツッコむ。



「アラン、何か策はあるか?」



 レイウスがポンと俺の肩を掴む。




「『英雄の剣レイ・ジェルド』だ。」




 考えた結果、この状況を打開できるのはこれしかない。『英雄の剣レイ・ジェルド』でゴーレムにダメージを与えれば、魔力が不足して復活できないはずだ。



「アリシア。頼めるか」


「……やってみよう。下がってくれ」


 アリシアはそう言い剣を抜き、ゴーレムに一歩、一歩と向かっていく。


「皆! 下がれ!」



 俺たちが下がると、アリシアの剣が黄金色に輝き、光を放ち始める。風を纏い、アリシアの黒髪を揺らす。




「戦場を駆ける歴戦の英雄達よ。歴史を作り出した鉄の刃よ。猛者達を牽引けんいんし、運命を変える御旗みはたよ」



 アリシアは一歩一歩進みながら詠唱だろうか、何か言葉を発している。



 俺たちは見ていた。アリシアの後ろには屈強そうな男たちが共に歩いているのを。




「あれが『英雄の剣レイ・ジェルド』の意志……!」




 レイウスは目を大きく開いて男たちを見る。あれは俺だけに見える幻影ではないようだ。




「勇者として、覇者として、この世を為政する唯我たる王者よ。今こそ、我が一太刀に全ての力を授け、眼前の敵を討ち払え!」




 アリシアは剣を振り上げる。その瞬間、アトラスは拳を上げ、アリシアを押しつぶそうとする。




「『英雄の剣レイ・ジェルド』!!!」




 アリシアが剣を振り下ろすと、たちまち剣が光を強め、風圧で俺たちは一歩下がるほどだった。


 地面は剣を振り下ろした方に大きく裂け、ゴーレムを襲う。


「グォォォォォォォ……」


 ようやく次元の裂け目から顔を出したゴーレムはその一閃に真っ二つにされ、腕は力なく落ち、吸い込まれていった。


「……及第点といったところか」


 アリシアは剣を柄にしまった。



「……勝った」



 俺たちは喜び、飛び跳ね、ハイタッチをした。とうとうあの憎き巨大ゴーレムを倒したのだ。


「アリシア! ありがとう!」


 皆が喜んでいる中、俺はアリシアに駆け寄った。


「礼を言われるようなことはしていない。私に出来ることをやったまでだ」


 アリシアなりに喜んでいるのか、普段の硬い表情よりかは柔らかく笑った。


「アリシア様。見事でした」


 レイウスも駆け寄ってきた。


「うむ。少し疲れたから帰りは寝るがな」



「アラン。これで終わったんだな?」



 レイウスに聞かれる。



「……まだ終わってない」



 まだ、やってないことがある。



 あいつは……リリーは絶対に戻ってくる。

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