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元村人A、繰り返しの日々から抜け出します。  作者: 艇駆 いいじ
第3章 王都ラクシュ騒乱編
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第49話:ニーナさんたち、信念を持ちます。

 第四ホールにて。救護班の補助を行なっているが、未だに怪我人の列は伸びていく一方で、とどまることを知らない。


 ルリアは時々顔を覗かせて私の体調を気遣うが、徐々にその顔も暗くなっているのがわかる。神妙な面持ち、というやつだ。


 治療を続けていると、立っていられないほどの地響きがした。思わず体勢を低くする。


 ホールを掴んで揺らされるような、地震のように強い地響きだ。


 ゴゴゴゴ、と音を立てて地面が揺れる。ホールの天井から砂が落ちてくる。人々は皆ザワザワと騒ぎ、今にもパニックになりそうだ。


 怪我人たちの列だけではなく、シェルターから出てきてしまい一時避難している一般人もいるため、ホール内の数百人という人が一斉にパニックを起こしたら、それこそとんでもないことになってしまう。


「な、何!?」


「ニーナちゃん! 周りを警戒して!」


 私はルリアに言われるまま腰を低くして瞬間的に動けるように低い体勢を維持して周りを見た。人々は怯えた声を出している。


 次の瞬間、ホールの壁がすごい音を立てて崩れた。


 崩れた、というよりは突き破られた。ゴーレムに。


 その黒い人型を利用してタックルするかのようにダッシュしてホールの頑丈な壁を破壊してきたのだ。


 私の中で人生で一番と言えるその衝撃は、私の脳の処理速度をはるかに超えているらしく、スローモーションで目に焼き付けられる。


 驚くべきなのは、突き破ってきたゴーレムはその衝撃でバラバラに崩れて機能停止したことだった。


 自分の体が破壊されることをいとわない。人間にはとてもできないようなそのやり方は、信じられない光景だった。


 私が呆気にとられていると、後続のゴーレムたちが次々とホールの中に入ってきた。三体どころでは済まない。何体も何体もだ。


 ズシン、ズシンと歩くたびに大きく地面が揺れる。この前のゴーレムの比ではない。圧倒的だ。圧倒的に力の差がある。


「ホールの人を狙いに来たのよ!」


 ルリアが叫ぶ。恐怖で顔が今にも歪みそうだが、必死に耐えている。


 もし周りに人がいなければ、叫び声を上げていただろう。しかしひとりのプロとして患者たちを怯えさせないように堂々とした態度だ。


 ゴーレムはルリアの言う通り、次々とホールの人をペンのように、軽く掴む。掴まれた傷を負った兵士たちは苦しそうな声を上げ、魔力を吸収しているようだ。


 私たちは戦闘用スキルを持っていない。それに壁が破られたと言うことは衛兵もやられているのだろう。


「ニーナちゃんだけでも逃げなさい」


 ルリアは言う。その姿にあの日のセシアを重ねてしまった。


「嫌です!」


 私の意志はひとつだった。こんなところで一人だけ助かる気は毛頭ない。


「駄目よ! ひとりだけでも助かるなら逃げなさい!」


「じゃあルリアさんだって逃げなきゃ!」


 そう言うとルリアは困った顔をした。


「それはズルいよ。私はここから離れられない」


「患者を置いて逃げられない、ですよね」


「そうよ」


 ルリアの救護班の人間としてのプライドだ。逃げるくらいなら死ぬと言う意志だろう。


「だから、私だって残ります!」


「あなたはまだ若いわ。だから命を張る必要なんてないの!」


 ルリアと私が口で諍いをしていると、コツコツと足音がした。


「アリシア・アクストールだ。ここは任せてもらおう」


 それはこの国の王の娘、アリシアが駆けつけてきたホールに視察に来たので姿は見たことがあった。真剣な表情で私たちに話しかける。


「でもあの量じゃ!」


「貴殿らにもプライドというのがあるのだろう。しかと受け取った」


 アリシアは私たちの言葉を無視するように歩き続ける。彼女にとってのプライドというのはここで立ち向かうことなのだろう。


 アリシアは剣を抜き、ジャンプでゴーレムに斬りかかる。


 ゴーレムは腕を盾に弾き返し、反撃にもう片方の手でアリシアを掴もうとする。


 アリシアは掴まれる寸前で手のひらを壁がわりに蹴り飛ばし、ゴーレムの首を狙って剣を払おうとする。


 その時だった、横にいた別のゴーレムの拳によってアリシアは地面に叩き落とされた。


 ドタン、と地面にぶつかり大きな音を立て、床に亀裂が走る。常人ではひとたまりもない衝撃だ。


「まだまだ」


 アリシアは立ち上がろうとするが、口から血を吐いている。すかさずゴーレムに二度目、拳で潰されてしまった。


「アリシアさん! 逃げて!」


 私はゴーレムの方へ走り出していた。


「ニーナちゃん! ダメ!」


 アリシアを襲っているゴーレムが二体、私に気がついた。私はそれに恐怖し、足を止めてしまった。


 あ、私死ぬんだ。


 一瞬で悟り、膝から崩れ落ちた。ゴーレムが殴ってくるのがスローモーションで見えた。


「『クラフト』!!」


「『アイスキャノン』!!」


 次の瞬間、私の目の前に壁ができてゴーレムの攻撃は防がれ、逆にゴーレムの心臓部には氷の柱が突き刺さっていた。


「おいセシア! これで私が3ポイントだな!」


「……まだ1ポイント差でしょ」


 後ろを見るとアンジェラとセシアがいた。あの時のように漫才のように話していた。


「お前ら! ニーナを守るのが最優先だろ!」


「まあまあ、結果オーライってことで」


 そしてその後ろにはご主人と、銀髪の騎士が立っていた。


「ニーナ。よく頑張ったな」


 ご主人が笑顔で言う。気づくと私の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

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