第47話:元村人Aたち、気合いを入れます。
「ニーナちゃん! こっちをお願いするわ!」
「わかりました!」
ルリアに言われたところまで走り、急いで『ヒール』を発動する。
一週間の猛特訓の成果もあり、ようやくスキルを発動できるようにはなってきた。…その代わり破壊してきた魔道具のランタンの数は計り知れないが。
現在、ルリアと共に衛兵の救護班の補助に当たっている。私が担当しているのは軽傷の人のみだが、ルリアたちの重傷者のところはまさに地獄だろう。
「ニーナちゃん、疲れてない?」
ルリアは時々私を気遣うように聞いてくる。
「大丈夫です! まだ出来ます!」
私は人より魔力が多い。なら救える人はできるだけ、痛みから解放してあげなければ。
皆を助けるヒーロー、それが私の使命であり、目標なのだ。
「わかったわ。でも無理は禁物だからね」
ルリアはそう付け足すと、また走って道具を取りに行った。
「それにしても数が多すぎる……」
今日の襲撃を衛兵は分かっていたらしく、昨日の段階で配備はしていたものの、住民たちは皆シェルターやホールに避難していると聞かされていた。
「ニーナちゃんはお手伝いになりそうね。私のことを手伝ってもらおうかしら」
ルリアは鼻血をダラダラ流しながら笑顔でそう言っていた。しかし現実は、救護班が治しても治しても怪我人が絶えることはない。
ざっと見るだけでも私の列には十人ほど並んでいる。このペースではキリがない。
「……はい、終わりました」
私は腕を怪我していた男性の治療を終える。
セシアに言われたことを思い出す。三日ほど前のことだ。
ホールが隣ということもあり、セシアに会いにいったのだ。
「セシア姉、お久しぶりです」
「……うん」
ベッドの上に座っているところに話しかけた。彼女は片足を包帯で巻いている以外、いつものセシアという感じだった。
「おいセシア、なんだこのちびっ子は? 妹か?」
「……アンジェラはうるさい」
「う、うるさい!?」
紫色の長髪の女性と漫才のようなやり取りをしている。しかし何故まだ春なのにアンジェラと呼ばれる長髪の女性はあんなに服の面積が少ないんだ。
「あ、今日は挨拶に来ただけなので……。元気かなって」
「元気」
そう言うと何故か突然セシアは立ちあがり始めた。
「嫌ぁぁぁ!! 足! 足!!」
あまりの出来事に大声を上げてしまった。セシアは包帯でグルグル巻きの足で立ち上がったのだ。
「……大丈夫。これはもう飾りよ」
そういうとセシアはピョンピョン飛び跳ねた。
「じゃあなんで付けてるんですか!」
寿命が30分くらい縮んだ気がした。
「と、とりあえず元気そうなので帰りますね!」
「ニーナ」
そそくさと帰ろうとするとセシアに呼び止められた。
「あなたのやるべきことをやりなさい」
セシアは唐突に言った。その時は意味がわからなかったが、今思えば彼女は今日のことを指していたのだ。
「私のやるべきこと」
キリがないほどの怪我人。街を破壊するゴーレム。私にとって状況はあまりいいとは言えない。
だが、私のやるべきことは初めからひとつ。怪我人をひとりでも多く助けること。
「次の方!」
私はまた治療を開始した。
*(ヴィルヘルム視点)
「現在巨大ゴーレムは南の壁を破壊し、王城の方へ直進しています!」
ヴィルヘルムは通話石から発される声を聞く。
おかしい。前回はあの大男のゴーレムは壁を破壊したらすぐに消えてしまったはずだ。しかし今回は街にずかずかと侵攻してきている。
「おのれ……。我が王都ラクシュに土足で入ってきおるとは……。」
俺はかつての『軍神』と呼ばれた時の鬼のような形相でゴーレムを睨み据えているのだろう。
それにおかしい点はもうひとつある。地下のシェルターにいたはずの住民が外に出ている。明らかにパニックが起きているという報告がきている。明らかに前回と同じ『何か』が起きている。
その時、通話石からノイズが入る。誰かからの発信だ。
「あーテステス。これ聞こえてんのかな? おいレイ!? これで大丈夫かな!?」
間抜けな発信が聞こえてくる。少年の声だ。
「こちら衛兵長ヴィルヘルム。何者だ。名乗れ」
「お、繋がってるみたいだな。 俺はアラン・アルベルト」
アラン。確かカインが目をかけてる少年か。シンシアとかいう少女に関しての情報を提供するために会議に参加した。
「アラン・アルベルトか。何用だ?」
「シェルターから人が逃げてることについて分かったことがあるから拡散してほしい!」
「ほう。聞こう」
「シェルターでデマが流れてたんだ! このシェルターは脆いからゴーレムが侵入してくる! みたいな」
デマ。前回の侵攻の時と同じだ。手口は多少変わっているが、悪質で、住民の避難を著しく妨害していることに変わりはない。
「で、それを流してたのはこの前自殺したはずの暗殺者、メイジーだったんだ!」
毒蛾のメイジー。それを捕らえたのはこの少年だったはずだ。そして確かに私もそれが自殺したと報告を受けた。蘇った? そんなわけがない。
自殺したはずの暗殺者が生きている。王国を壊滅させている。それでメリットを得られる人物は誰なのか。
「そうか。了解した。君は今どこにいる?」
「ラクシュ中央から南に向かってる! レイが手配した馬車で!」
「よし、引き続き頼む。アナウンスメントは任せろ」
「頼んだぜおっさ……ヴィルヘルム兵長!」
通話はそこで切れた。不穏な言葉が耳に入ったが見逃すことにしよう。
こんなデマを流してメリットを得る人物は誰だ。王都の人間を、民を危険に晒すような行為をする人物は。
そして、暗殺者を蘇らせた人間は。
それができる人間は。
私は考えた。窓の外を眺める。
答えはただひとつしか思いつかなかった。
私は……俺は走った。