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元村人A、繰り返しの日々から抜け出します。  作者: 艇駆 いいじ
第3章 王都ラクシュ騒乱編
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第44話:ラクシュの皆、作戦を立てます。


 あれから四日が経った。


 ラクシュへのゴーレムたちの侵攻から二日目、セシアたちを探しに行った俺とアリシアは彼女らを見つけることが出来ず王城へと引き返した。


 午後からはアリシアの修行の相手をした。…というか相手をしたけど相手にはならなかった。正面きっての戦闘ではアリシアの足元にも及ばなかった。


 終いには、地べたで這いつくばっている俺にアリシアが


「お前が本当に暗殺者を倒した男か?」


 と呆れ顔で俺を見下ろしてくる始末だった。



 俺はレベル5まで上がっていた。昔よりも遥かに強くなっている自覚はあったので、ここまでボコボコにされるとショックだった。



 それもそうだ。アリシアは何年も鍛練を積み重ねてきたのに、俺はまだ素人に毛が生えた程度の実力。その差は歴然だ。



 俺はそれから毎日アリシアの修行に参加した。当然それで大きく強くなったわけではないが、確実に得るものはあった。



 そしてパーティメンバーたちとも会うことが出来た。セシアもニーナもだいぶ体調が戻ってきたようで、ホールの方でリハビリを頑張っているらしい。



 リリーは帰ってくることはなかった。こっちの事情を知っているのか知らないのか、彼女が姿を現わすことはなかった。




 何はともあれ、そういうことがあって明日はシンシアが言った「一週間後」の当日にあたる。




 夕食を取った後、先ほどまで王城の人たちで会議が開かれていた。



「よ、久しぶりだな」



 会議室から出ると、後ろからポンと肩を叩かれる。振り向くとニヤニヤしているカインだった。


「暗殺者をひっ捕らえたらしいな。大活躍じゃねえか。」


「……カインさんは呑気だなぁ」



 周りの空気はピリピリとしていた。それもそうだ。この前のような規模のゴーレムたちの襲撃が明日に差し迫っているかもしれないというのにヘラヘラと笑っていられないだろう。



「ま、お前も心配しすぎることねえよ。リラックスだ。リラックス」


 カインほどになればこのレベルの修羅場はもう潜り抜けてきているのだろうか。俺は気を使われているようで、自分を奮い立たせるために拳を握った。


「……ああ」


 明日。何が起こるか予想もできない。ただ皆が国民の平和を守るために尽力している。俺も覚悟をするんだ。


「アラン。君にも挨拶しておこう」



 その時アリシアが声をかけてくる。修行の時とは違い、白のドレスを着ている。動きやすそうにスカートが細めに作られているのはアリシアらしいと言えるが。



 彼女はメイジーの一件以来何故か毎日朝起こしに来てくれる。起きれるからいいと言っているのに遠慮するなと言ってくるのは、彼女のストイックさによるものだと受け取ることにしている。


「アリシア。明日は宜しく頼む」


「うむ。明日は朝早いから早く寝るんだぞ。起こしには行けないからな」


「わかってるよ。ひとりで起きれるから平気だ」



 まるで母親と息子の会話じゃないか。アリシアは俺のひとつ年下のはずなんだけどな。



「よろしい。じゃあ私は部屋に戻るが何か他に言う事はあるか?」



「……『その服似合ってるね』とか?」



 俺がそう言うと突然のことに驚いたのかアリシアが肩をビクッと震えさせてなぜかドレスを隠す。



「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」



 刹那、アリシアの猛烈なビンタを食らう。あまりの衝撃に後方に吹っ飛ぶ。



「す、すまん! 大丈夫か!」


「大丈夫じゃないです」



 リリーと同じだ。突然手が出てくるのは同じだがリリーの場合は怒りから、アリシアの場合は混乱から手が出るらしい。



「あついねえ。やめてくれよそういうの」


 カインが口を挟んでくる。




「「そういうのじゃない!!」」




 アリシアと俺は必死に否定する。志がひとつだからだろうか、同じ言葉を同時に言った。


「とりあえず、おやすみ!」



 アリシアは脱兎の如くその場から立ち去った。お嬢様らしからぬ風のようなスピードで。



「……まだ20時だぞ」



 カインが苦笑いしながら呟く。


 そんなこんなで夜も更け始め、俺は風呂を済ませた後、ベッドに潜り込んだ。


「……明日か」


 ひとりになってやっと緊張してきた。命を賭けることになるかもしれない。遠足前日の夜に高揚感で眠れなくなる事はあるが、それとはまた違う高揚感であると自覚した。


 もちろん、全て杞憂に終わればいいが。何も起こらずに終わって、またいつものような冒険を出来ればそれが一番だ。


 だが俺はどうにも不安で何度も体制を変えるしかできなかった。明日は早い。寝なければと思うほど寝られなかった。


「……大丈夫だ。きっと」


 自分で自分を落ち着けて、深く呼吸をした。


*(カイン視点)


 朝になった。衛兵たちを主導に、城壁に砲台が並べられ、住民たちはシェルターやホールに分散して隔離された。厚い雲が空を覆っていた。


「……何事もなければいいが」


 ヴィルヘルムは俺の横でそう呟く。真剣な表情で対策本部の窓から外を見る。気合が入っているのだろう。


 それもそうだ。彼は今日、衛兵長のヴィルヘルム・ブライトとして、俺はギルドトップランカーのカイン・スティールとして戦うのだから。


「なんだよお前緊張してるのか?」


 からかい調子に言ってみる。こいつは性格からして「ずいぶん余裕だなカインよ」とか言うんだろうな。


「ずいぶん余裕だなカインよ。」


 やっぱり。


「ま、考えすぎても駄目だろ。こういうのは」


「正しい判断だ。ところで頼んだ件は手筈通り完了しているか?」


「バッチリだぜ。上手くことが運べば良いが」




 俺が返事をした時、南側の壁に雷のような光が落ちたと同時に爆音が走る。あまり勢いに心臓が破裂するようだ。




「なんだ? 雷でも落ちたのか!?」


 光が落ちたところは大きな煙が上がっていて、こちらからでは何も見えない。



「雷であんな煙が上がるわけがなかろう」



 ヴィルヘルムは虎視眈々(こしたんたん)と煙の上がっている先を見据える。




「……ああそうだよな。あれは召喚スキルに伴った空間の歪みか」




 召喚スキルを発動する時、とてつもない量の魔力を使うと光や炎などといった形で空間が歪んだ影響が出る。しかしあの『爆発や雷のような』と形容できるほどの歪みを見るのは初めてだ。



 煙が少しずつ晴れてくる。うっすらと大きな黒い影が見えてきて、だんだんと正体が明らかになる。



「……30メートルなんてもんじゃねえぞ」



 その正体は茶色の粘土のような素材でできているが、筋骨隆々な、鎧を着た大男の姿であった。

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