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元村人A、繰り返しの日々から抜け出します。  作者: 艇駆 いいじ
第3章 王都ラクシュ騒乱編
50/121

第43話:リリーさん、帰還しました。

2019/4/3

ここまでのお話を全て改稿致しました。

若干お話を書き換えた(本筋は変わりませんが)ところもあるので、よかったら確認してみてください。

第41話:リリーさん、帰還しました。


 夜のうちに王都ラクシュを抜け出し、歩いて三時間程度、元々暮らしていたクレイア王国の首都エールに到着した。


 門番に私の正体に気づかれ、急いで馬車で城まで向かい、入城した。


 使用人達に事情を聞かれたが、とりあえず夜も遅いからということで私の部屋に通された。前に私がいた時のままの状態で保存されていた部屋は、私を出迎えていないと感じた。


 それから一晩眠り、朝が来る。窓の外を見ると今日は雲ひとつない快晴だったが、すごく空が濁って見えた。歓迎されていない。この世界に。


 使用人に部屋をノックされ、ドレスに着替えた。数日ぶりだったが懐かしい。フリフリとしていて、動きにくい。


 そのまま使用人達に連れられて、食卓に行く。久しぶりの感覚だ。久しぶりの、いつもの朝だった。


 長い食卓。10人くらいが横一列で食べられるような机のひとつに座る。実際に使うのは数人だ。


 座って待機していると、兄が歩いてきた。


 適当に兄と会話を済ませた。勇者として旅に出るように言った父は辺境伯の視察で一週間程度帰ってこないらしい。


 朝食をとる。いつものようにナイフとフォークを使い、口に食べ物を運ぶ。命を扱う。


 不味い。というか、味がしない。ゴムを咀嚼そしゃくしている気分だ。


 野菜も、目玉焼きも、紅茶も、どれも味がしなかった。命を感じない。


 ……まあいい。食事とは所詮人間の生存を保持するための行為に過ぎない。


 自分の部屋に戻り、ドレス姿のままベッドに倒れこむ。


 今朝もあの夢を見た。しかし前回のモザイクの塊の夢とは少し変わっていた。


 はじめに、アリシアがいた。アリシアと私はそれぞれ右と左の道を歩き出す。


 私は着々と足を進めていたが、あるところで石に躓いてしまった。なんの変哲も無いただの石だ。だが足が上がらずにどうすることもできずつまずいた。


 頭を上げると、アリシアの足が見えた。道は繋がっていたのだ。私はアリシアに手を伸ばすが、彼女はどんどんと足を進めていってしまう。距離は遠くなっていく。


 このままではまずいと立ち上がろうとすると、足が全く動かない。自分の足に目をやると足はすでにモザイクのかたまりに侵食されていてなくなっていた。


 立ち上がることもできず、前に立っていたアリシアに剣を喉に突き刺され、モザイクに飲み込まれて私は夢の中で、惨めに死んだ。


 ……本当はなぜこんな夢を見ているか、この夢が何を表しているのかを私は知っている。


 わかっている。だからこそ逃げたんだ。あの場所から。過去から。アリシアから。シンシアから。アラン達から。


 だからなんなのだと言うのだろう。


 私は愚鈍ぐどんで、矮小わいしょうで、卑怯な人間だ。


 事実と向き合うことをせず、このまま逃げながら生きていくのだ。


 それの何がいけないのだろう?


 だって、私が私自身を憐れんで、許して、大切に守ってあげなければ。


「誰が私を認めてあげるの」


 私はまた、眠りについた。



「なんで誰もいないんだ!」


 時間は真昼間。今日は雲ひとつない快晴で心地よい春風が吹く中、俺とアリシアは昼食のハンバーガーをむしゃむしゃと頬張っていた。


「ま、まあ。もう少しすれば見つかるかもしれんぞ」


 怒りやら呆れやらを完全に放出しきって意気消沈している俺を隣の席から見て、流石のアリシアもたじたじになって俺をなだめ始めていた。


 ニーナが外に出ているのはまだわかる。しかしセシア、お前は結構大怪我だっただろ。なのになんで外出してるんだ。不思議ちゃんにもほどがあるだろ。


 一番気になるのは、リリーの失踪だ。昨晩のうちにどこかに行ってしまったという。


「なあアリシア。夜のうちにラクシュの外に出ることは出来るのか?」


 門には門番がいる。夜中に外出とあれば誰かしら目撃したりしてるのではないだろうか。


「昨晩は王城の事件で門番も慌てていたからな。誰も見ていない時間があったとしても何もおかしくない」


 暗殺されそうになった身で言うのもなんだが、とアリシアは付け足す。タイミングが悪いとはこのことだ。リリーがラクシュ内にいるとは考えづらい。夜に抜け出す必要がないからだ。


「アラン、すまなかった」


 アリシアが何故か謝罪してくる。


「何がだ?」


「リリアーヌ殿の失踪の責任の一端は私にある。彼女が精神的に不安定な時期にあんな発言をしたのは私に非がある」


 アリシアの表情はとても暗かった。彼女はとても真面目な性格だ。だからこそ、今回のことに負い目を感じているんだろう。ハンバーガーを食べる手も止まっている。


「アリシアのせいじゃねえよ。気にすんな」


「しかしだな……!」


「あいつは弱いけど、すげえ強いんだ。だからちゃんと戻ってくるよ」


 俺がそう言うとアリシアはキョトンとする。


「矛盾してるぞ。どういう意味なんだ」


 まあわからんよな。特にアリシアには何を言ってるかわからないと思う。


「そういえば気になってたんだが、アリシアは趣味とかないのか?」


「趣味か。これと言ってないな。日頃の鍛練くらいか」


 真面目に言ってるのかこいつ。真顔で言ってるってことはギャグじゃないようだ。


「あのなあ。鍛練は趣味に入らないの」


「じゃあ、ない」


 やはりそうだ。アリシアは日頃から鍛練くらいしかしていない。この年の少女としては、異常だ。


「そんな生活でつまらなくないのか?」


「別に普通だぞ」


「もっと『敷かれたレールに沿って走るのは嫌だ!』みたいなのはないのか」


「ないな。そんなの幼稚だろう」


 うーん。その発言には俺にも刺さるんだよなあ。元村人Aである身としては。


「私のするべきことは決まっている。英雄のスキルを強化することだ」


「王様になろうとは思わないのか?」


「そうだな。興味がない。私に民を導くだけの実力はないからな」


 彼女の行動理念というか、哲学のようなものを感じた気がする。彼女はかなりのリアリストだ。自分の役割のために一直線。そういう人間なんだ。


「なんか変わってるな、お前」


「失礼な。アランもまあまあ変わってるぞ」


 元村人A、現手品師の俺のどこが変わり者なんだ?


 ……という冗談は悲しくなるのでやめよう。


「そうだ。午後は私の鍛練の手伝いをしてくれないか。アランも冒険者なんだろう」


 午後か。ニーナやセシアにいつ会えるかわからないし、リリーもどこにいるかわからないから後日また出直して来た方がいいだろう。だから必然的に午後はフリーになる。


「よし、やろう」


 俺とアリシアは鍛練することになり、ハンバーガーショップを出た。この後地獄を見るとは知らなかった俺であった。

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