第34話:ニーナさん、教わります。
目が覚めた。ここは一体どこなのだろう。
辺りにはたくさんのベッドが並んでいる。ポーラの家のものよりは固かったが、今まで地べたに近いような煎餅蒲団で寝ていたため、比較的快適に眠れていただろう。
私は確か……。セシアにスキルポイントを譲渡してもらって、それから……。
「あら、あんまり動かないでね」
記憶を辿ろうとすると、私の上に女性の声がする。
顔を少し上げると、ピンク髪の女性が私のお腹に手を当てている。手の周りには白く優しい光が放たれている。
「おはよ。目覚めはどう?」
「大丈夫……です」
「それはよかった。ニーナさんよね」
彼女は天使のような笑顔で私の名前を言う。
「こ、ここは!?」
「ここは第四ホール。怪我人が来るところよ」
怪我人。私担ぎ込まれたのか。
改めて目の前の女性を見る。20代くらいの見た目で、服は白いナース服のようだ。
「自己紹介がまだだったわね。私はルリア。衛兵の救護部隊所属よ。よろしくね」
ルリアと名乗る女性は一言一言がとても優しく、何故か体の周りに色とりどりの花が見える。
「ニーナちゃん。なんでここに来たか覚えてる?」
「えーっと、確かスキルを使って……」
その瞬間、全ての記憶がナイフが鋭く刺すように思い出された。
私を追いかけ回し、人々を傷つけたゴーレム。そして瓦礫に挟まれた人々の呻き声。
今まで眠っていて忘れていたはずのソレは私の中で目を覚まし、慟哭のような声と共に暴れ始め、脳を侵食する。
「ニーナちゃん! 落ち着いて! 落ち着いて!」
気がつくと、私は涙を流し頭を抱えていたところをルリアに肩を揺らされていた。
「あぁ……あ」
私は呻くような声と共に泣いていた。
「あ……もう……大丈夫です」
しばらくベッドに座り休んだことで、先ほどまで肩で息をしていたがだいぶ楽になった。
「急に思い出させちゃってごめん。辛かったよね」
「いえ……ちょっとびっくりしただけなんです」
「ちょっとずつ思い出していけば大丈夫だからね」
私はあの日、どうしたんだっけ。
「スキルを使いました」
「うんうん。そうよ。あなたはスキルを使ったことで貧血みたいになっちゃったのよ」
貧血って。私そんなことで怪我人に認定されてたのか。周りより出来ないと思ってたけど、改めて考えるとちょっとガッカリ。
「楽になったら、あなたが使ったスキルが見てみたいな。どういうのか分かれば、アドバイス出来ると思うけど」
ルリアはもちろん今じゃなくていいのよ、と付け足したが、だいぶ落ち着いてきたので、今からでも出来そうだ。何より自分が一番気になる。
私はステータスを開いた。
「ふーん、『マキシマイズ』ね」
ルリアがステータスに顔をのぞかせる。
「どういうスキルなんですか?」
「あら、知らなかったのね。周辺の人の傷を治して、魔力を増幅させるスキルよ」
どうやら人を癒す力ではあったらしい。だがそもそもこのスキルがうまく発動していたのかと思うと、謎である。
「ニーナちゃん。あなたはスキルの使い方がまだわかってないと思うの」
「は、はい。その通りです」
自分のスキルもまともに使えないなんて、実力不足としか言いようがない。
そもそも、私を守ってくれた人たちを救えていたのか、はたまたただのお荷物だったのかすらわからないなんて。
「別に自分を責めることはないのよ。でもね、私とスキルの使い方を練習したらこの先、自分の力のことがわかって生きていけると思うの。」
確かに、自分の力は自分でコントロールしたい。それに、私の昔の目標だった「正義の味方」にピッタリの能力だ。
「その……。ご迷惑じゃなければ、教えて欲しいです」
「迷惑なんて。患者さんを治すって言うのは、その後の生活でまた同じ怪我をしないように教えることも含めるのだから。当たり前のことよ」
ルリアはウインクをして言った。
奴隷の頃の、怪我をしたら包帯でグルグルにして休ませておく考え方と真逆だと思った。でも、なんだか常識が覆ってもこの人のことを信用してみたいと思った。
「わかりました。お願いします」
「はいよろしく! ちょっと待っててね!」
ルリアはそういうとスッとどこかへ歩いて行き、数分して帰ってきた。
「はいこれ!」
ルリアの手から渡されたのは、真っ白な石だった。
「これ、軽くでいいから握ってみて」
「何ですか? これ」
受け取った石をよく見ると、色は真っ白で、大きさは卵一個分くらい。色以外は何の変哲もないただの石ころに見える。
「これは魔力を計測する魔道具、『魔力石』よ。魔力量が色でわかるの。まずはやりやすい計測から頑張りましょう!」
私はその説明を聞いて石を優しく握りしめてみる。すると、たちまち発光し始め、指の隙間から光が漏れる。
「わぁ……」
「魔力量が多ければ多いほど赤っぽい色に近づいていくわ。ニーナちゃんはオレンジくらいになればいいんじゃないかしら」
よーし。オレンジ。オレンジ。
私は目を瞑ってオレンジ色に近い色になるように心の中で強く祈り、ぎゅっと握りしめた。ここが大きな別れ道な気がした。
目を開けると光は止んで、手のひらには光を失った石があった。
真紅の。
「へ?」
ルリアは完全に困惑している。
「これって…?」
「ちょ、ちょっと待ってね…。」
ルリアは突然小走りでどこかへ行ってしまった。
*
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ルリアは建物の陰に隠れ、キョロキョロと周りに誰もいないことを確認した。
「最強系幼女キタコレェェェェェ!!!!」
ルリアは突然大声で叫び始める。
「何なの!? 可愛いだけじゃなくて魔力量も最強なの!? 天は彼女に何物を、何物を与えたのかしら!? ちょっと私を殺しに来てるんじゃないのかしら!?」
「何なのあれ!? 石が真っ赤だったわよ!? 今まで見てきた中で一番赤かったわよ!? ああー!! 『魔力が人よりちょっと多いみたいだけど、心配しないでね。』って言って涙目になったニーナちゃんを撫で撫でしてあげたいいいい!! hshshshshshshs!!!!」
ルリアは人が変わったように叫びまくって、ハアハアと息を切らし始めた。
私はその様子を見ていた。
多分あれは…勘だけど、近づかない方がいい人だ。