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元村人A、繰り返しの日々から抜け出します。  作者: 艇駆 いいじ
第3章 王都ラクシュ騒乱編
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第32話:元村人A、会議に参加します。

 王城の門の前。俺の目の前にいた黒髪少女の名前はアリシア・アクストール。国王の娘だった。


「王族の知り合いが増えてしまった……」


 リリーの次はアリシア。もしかしたら俺は王族を寄せ付ける天才なのかもしれない。



「まてよ、さっき鍛錬とか言ってたよな?」



「いかにも。今日も剣の修行をな」


 アリシアは今日も・・・と言った。日常的にしているということか?


 確かにうちのパーティにも戦闘できるお嬢様いるけど日常的に修行なんかしてたんだろうか……。あの腑抜ふぬけた感じ、そうは見えないけどな。


 そんなことを考えていると頭の中でリリーが「腑抜けているとは何事よ!」と怒り出したので、考えることを辞めた。


「アリシア様、そろそろお時間です」


 アリシアの近くにいたメイドが声をかける。結構時間が押しているらしい。俺達は会話をやめて城の中に入った。


「すげー!」




 建物に入ると天井が高すぎて見えない。豪華絢爛ごうかけんらんなシャンデラや絵画、真っ赤で上品な絨毯じゅうたん。中にいる人々は皆高そうなドレスを着ている。




「入るだけでそんなに騒いでたら田舎者だと思われるぞ」


 カインがバカにするようなニヤケ顔で言う。



「いやアンタさっきまで鳥見て騒いでたよね!?」



 移動しながら、俺には気になることがあった。


「会議で俺は何を言えばいいんだ?」


「席は俺の横だから安心しろ。聞かれたことを受け答えすればいいんだよ」


 そんな簡単に言われても……という感じだったが時は既に遅かったらしい。会議の大ホールに到着してしまったようだ。



 大ホールは一番奥に議長たちが座るステージがあり、一列に、ひとテーブル五席が六つ。つまり合計30席が並んでいる。パッと見た感じ縦に10列くらいあるからこの部屋の許容人数は三百人くらいか。



 会場内には貴族と思われる身なりのしっかりした人や、白い制服を着こなしている騎士と見られる人、あっちにいるのは有識者のグループだろうか。とにかくたくさんの偉い人たちが集められていた。


「場違い感がすごい……」


「気にすんなって。ドレスコードとかないんだからさ」


 カインは愉快そうに笑っている。彼の服装は昨日と同じ黒の前開きパーカーだ。俺はジャージ。うん。ここのふたりがフランクな服装ツートップだわ。


 少しすると、厳格な顔つきをした、いかにも偉い老人が入室する。その瞬間周りの声のボリュームが一段階低くなる。老人は一番奥のステージの席に座った。



静粛せいしゅくに。ただ今より昨日のモンスターの襲撃についての会議をとり行う」



 議長と思われる老人が会議の開始を宣言する。



「それではまず、衛兵長のヴィルヘルム・ブライト」




 指名を受け、黒い髭を生やした厳つい筋肉質なおじさんが自分の席から立ち上がる。30代くらいで、服は黒い軍服を基調としたコートのようなものだ。




 衛兵長ということは衛兵たちのトップか。低く威圧感のある声で原稿を読み始めた。


「ご紹介に預かった衛兵長のヴィルヘルムだ。今回は昨日の忌々しいモンスター襲撃の被害を報告させていただく」


「こちらで把握しているだけで死亡者58人。重軽傷者が併せて四百二十人。行方不明者が98人」


 数字だけで聞くと実感がわかないが、六百人近くの人間が、もしかしたらもっとたくさんの人々が犠牲になったと考えると胸が痛くなった。



「今回の被害は王都周辺にモンスターが現れた時に警報装置が壊れていたこと、砲台を出すためのシャッターが閉じられていたことや誤った情報によって住民の避難が遅れたなどが挙げられる。原因は調査中」



 会場がざわついた。衛兵のミス、と捉えられているのだろう。何にせよ調査結果を待たなければならない。



「現在、建物に侵入したゴーレム達は冒険者や衛兵たちの活躍により無事殲滅せんめつした。しかし王都は現在壊滅的な状態になっている。今後は復旧活動に尽力するつもりだ」



 ヴィルヘルムは報告を終え、席についた。




「えー、それでは重大な報告がある。ユマ王国の姫君、アリシア・アクストール」




 議長が名前を呼ぶと、アリシアも自分の席から立ち上がる。


「アリシアだ。報告する」


 アリシアは凛とした表情で話を始める。




「昨日私は壁が壊れる現場にいた。壁を壊したのは見たこともない巨大なゴーレムだった」




「ゴ、ゴーレム?」


「壁を破壊できるものなど聞いたことがない!」


 会場がざわめきだす。アリシアから放たれた衝撃的な内容が原因だ。


「えー、皆様。静粛に」


 議長の老人が注意すると、場が静まった。



「体長は30メートルを優に超えていて、体は粘土のような色をしていた」



 高くそびえ立つ外壁から顔を出せるサイズのゴーレムということか。相当でかいな。


「で、その後そのゴーレムはどうしたんですかな?」


 議長が質問をする。



「私は鍛錬中に壁から顔を覗かせているのを見ただけなんだ。そいつは壁を破壊した後、まるで気体のように消えていった」



「つまり行方はわからぬという訳か……」


「はい。申し訳ございません」


 アリシアの報告に、会場内がどよめいた。それもそうだろう。未知の壁を壊せる巨大ゴーレムが存在することが分かったのに、対策がないのだから。




「えー、静粛に。次の報告です。ユマ王国ギルドランキング一位、カイン・スティール」




 議長がカインの名を呼ぶ。そろそろ俺の出番というわけか。


「はい」


 カインが起立する。


「報告します。昨日、ゴーレムとの戦闘をしていると、不思議な少女と戦闘になりました」


「ほう、不思議な少女とは……」


「白髪で面積の少ない黒い鎧を着た少女でした。戦闘の末、取り逃しました」


 シンシア。カインが捕まえようとしたところを凍った足を切って逃げたのを思い出した。


「彼女は今回の事件と何か関係があるかもしれません」


「ふむぅ……。分かりました」



 会場がまたしてもどよめく。シンシアの件は本当に今回の事件と関連性があるのか? というどよめきであった。



「それで、彼女について何か他に情報は?」



「それについては、彼におまかせしてください」



 カインはポンと両手で俺の肩を掴むように触った。いきなり来たからビックリしてしまった。



「彼は?」


「その少女と戦っていたアラン・アルベルト君」


「……よ、宜しくお願いします」



 ここまで国の重鎮じゅうちんぞろいだったのにいきなり俺で格が下がって肩身が狭い。



「アラン君だな。彼女について何かわかるか?」


「知ってるのは名前くらいなんです。シンシアって名乗ってました」


「シンシアじゃな。他になにか言っていたか?」


 他になにか……。ぼんやりとだが記憶を思い出してみる。そう言えばなにか大事なことを……。




「『一週間後にまた来る。』って言ってました」




 思い出した。シンシアは去り際に一週間後に来ると言っていた。


 俺の発言に、今日一番会場がザワザワとした。当然だ。彼女があのゴーレムと何か関係があるのならば、一週間後に昨日のような事件がまた起きてしまうということになる。


「静粛に! 静粛に!」


 慌てて議長が会場を落ち着かせる。


「とにかく、その少女のことも今後の対策に考えないといけませんな」


 議長は落ち着いたように言っていたが、言葉を選んでいると感じ取れた。


 結局そのあと何人かが報告をして、会議は解散になった。


「ふー、緊張した」


 俺はあまりの緊張で疲れて椅子にもたれかかった。


「お疲れ。初めてにしてはよくやったな」



「二回もやるもんじゃないでしょ……」



 カインはかなりリラックスしているが、会場では残った人々がグループを作って話し合っていた。内容は聞かずともわかる。今後の展望についてだろう。


 見たことがない超大型ゴーレムが、一週間後に来るかもしれない。皆が焦っている。


 これから一体どうなることやら。俺はそれを考えると少し身震いした。

おまけ


議長「今回人民の避難の指示を通すのを手伝ってくれたということでポーラ・フォメイスさんを表彰します。」


ポーラ「やりましたよ! ダンナ!」


アラン「いやお前もいたんかい!!」

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