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元村人A、繰り返しの日々から抜け出します。  作者: 艇駆 いいじ
第3章 王都ラクシュ騒乱編
32/121

第25話:元村人A、危機を察知します。

 爆発のような轟音がたち、辺りがザワザワと騒ぎ始める。


「今の音は!?」


 リリーが慌てて周りをキョロキョロとし始める。


 どうすることも出来ずしばらく立ちすくんでいると、爆発音のした方角からたくさんの人が走ってくる。


 何十人、下手したら百人は既に超えている。老若男女問わず王都内の人々が皆一斉に何かから逃げている。


 必死な表情で我先にと走り、大人達は子供を押し退け、全力で走る。


 まさに、パニックになっている。


「何が起こってるんだ!?」


 状況を把握出来ず、あたふたとしていると、ひとりの男が大声を上げる。


「モンスターが! モンスターの群れが! 攻めてきたぞ!!」


 男は息を切らしながらも周りの人に警告するためか、必死で声を張り上げる。


 それを聞いた人々は次々と群衆の方へと向かう。血眼になって、というやつだ。


「さっきのはラクシュの城壁が崩れた音か!」


 目視することは出来ないが、そう推測できる。しかしラクシュの周りを囲う、30メートルほどある大きな城壁はちょっとやそっとの衝撃で壊れるようなやわ・・な作りではないはずだ。


 それに、モンスターがわざわざ城壁を壊して侵入してくる意味もわからない。しかも、さっきの男は「群れで」と言った。


 つまり意思疎通している?


「アラン、私たちはモンスターを倒しに行きましょう!」


 リリーが走り出そうとする。


「待った」


「なんでよ!?」


「スキルポイントが余ってるなら、使った方がいい。命懸けで行くんだから」


 俺はステータスを表示し、スキルの一覧を開いた。


 新しく取得するスキルは、もう決まっている。この前の不思議な世界騒動でレベルが上がり、スキルポイントの残りが2になっている。




「『クラフト』、習得!」




 俺がスキルの習得を宣言すると、俺の体が少し光った。


「どういうスキルなの?」


「手品師専用スキルだ。詳しい説明は、後」


「それもそうね。私もスキルポイントが余ってたはず」


 そう言うと、リリーも同様にスキル一覧を表示する。




「『限界点の一閃リミテージ・スレイア』、習得!」




 リリーも新しいスキルを習得した。


「セシアはどうする?」


「まだ」


「そうか」


 セシアも前回のゴーストモンスターとの戦闘でレベルが上がっていたが、まだ使わないでおくようだ。


「よし、行くぞ。……とその前に。ポーラ」


 ここまで蚊帳の外だったポーラを呼ぶ。焦った表情で考え事をしていたポーラは突然の指名に、ハッとした。



「お前にしかできないこと。頼めるか?」



「……奇遇っすね。私も同じことを考えてましたよ」



 ポーラは心配そうな面持ちをする。ただ、その目には覚悟が見て取れた。


「やれそうか?」


「……自信はないけど、やってみますよ。旦那」


 ポーラはそう言うと、人々が逃げていった方向に脇目もふらず走っていった。


「……大丈夫なのね?」


 リリーが心配そうに聞く。


「大丈夫だ。あいつなら今何をするべきかわかってるはずだ」


 俺達は爆発音の方向へ走っていった。



 その頃、事が起きている王都ラクシュの北の城壁から少し離れた中心部の住宅街。


 青い空の下、いつもは敢然かんぜんと立ちはだかっているはずのその巨大な壁には、今日は穴があり、そこからは薄暗い雲が見えている。


 既に先ほどのパニックで周辺には王都の人間は誰もいなくなっている。雲はだんだんとその黒さを増して、今にも雨が降り出しそうになっている。


 建物はモンスターが破壊した結果、既に何棟かが完全に崩壊し、瓦礫がれきの山と化している。


 街が閑散として誰もいない中、ひとりの少女がポツンと立っていた。


 その少女こそが、ニーナだった。


 彼女はアランたちと別れた後、記憶を頼りに両親の家を探そうとした。そして歩き始めてほんの数分後、王都の北の方で爆音がし、人々が逃げているのを見た。


 しかしニーナは何が起こっているのか考え、次の行動を考えているのが災いして、どこに行けばいいのか分からなくなってしまっていた。


 現在、皆が逃げた方向を探すため歩き回っているが、どこに行けばいいのか全く見当が付いていない。


 ニーナはキョロキョロと辺りを見回した。どこを見ても瓦礫、瓦礫、瓦礫。


 その悲惨な現状に目を瞑りたくなったが、そうもいかず、ただただ歩き続けるのみだった。



 「助……けて」



 倒壊した建物の横を通ろうとした時、潰れるような小さなうめき声が聞こえた。


 声の方を見ると、おばさんに見えるひとりの女性が瓦礫に挟まって、動けなくなっている。


「助け……て」


 おばさんは体のほとんどが瓦礫に埋まっており、辛うじてその顔だけが見える。


 その顔は、痛みに耐え、地獄から這い上がろうとする苦悶の表情を浮かべていた。


 涙を流しながら、声を振り絞って助けを求めている。


「い……」


 今から行くと言おうとして、ニーナは口をつぐんだ。瓦礫は、大人の女性である彼女ですら持ち上がらないのだ。いわんやニーナが出来るはずもない。



「助けて……くれ」



 今度は後ろから老人のような低くしゃがれた声が聞こえる。


 振り返り、目をよく凝らすと、後ろの倒壊した建物の瓦礫から傷だらけになった手が見える。


 傷だらけの手で、しわが深く刻まれている。おじいさんの手だ。


 彼もまた、瓦礫に埋まって助けを求めている。でもニーナには助けることは出来ない。



「助けて……」



 またひとつ、声が聞こえた。



「助けて……」



 またひとつ。



 辺りを見渡すと、瓦礫に埋まっている何人もの人々がこっちに手を伸ばしていた。


 無力だ。ニーナは誰も助けられない現状に膝から崩れ落ちた。


 その時だった、地面に振動が起きる。


 顔を上げると、前方から巨大な機械のようなモンスターがこっちに一歩一歩前進している。


 体長は三メートルほどで、人型。だが機械のようなもので体ができており、体は黒く、体には赤いラインが入っている。



 殺される。ニーナは直感的にそう感じたが、逃げることが出来なかった。



 周りの人たちを置いて行ったらここでこのモンスターに殺されてしまうかもしれないし、第一に恐怖で足が動かないのだった。


 そうしているうちにモンスターはどんどん歩みを進めていき、とうとうニーナの目の前に立ちはだかった。


「い、」



「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 叫んだ時、昔の記憶がニーナの頭をぎった。

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