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第24話:元奴隷ニーナさん、別れます。

目が覚めた。チュンチュンと鳥がなく声がして、体を起こす。


「痛っ…。」


俺はパキパキと体が鳴っている感覚を覚え、思わず声が出る。俺は床で寝ていた。


ポーラにニーナの服を貰い、その後、ご好意でポーラの実家に泊まらせてもらった。


食事を取り、皆でトランプをした後に、就寝。


ポーラの部屋にあるキングサイズのベッドを女四人が使い、俺はその下の床で寝たのだ。


ひょっとしたら混ぜて寝かせてもらえたりするのかなーと思ったら全く何も無かった。これが俗に言う朝チュンというやつだろうか。多分違う。


ベッドの方に目をやると左からセシア、ポーラ、ニーナ、リリーの順番で、皆昨日遊び疲れたのか子供のような表情でスヤスヤと眠っている。


カーテンを開けて起こそうかと思ったが、なんだか幸せそうなので俺はひとりで音を立てないように部屋を出た。



「あら、おはよ〜! アラン君は早起きなのねー!」



リビングに向かうとキッチンの方から何やら美味しそうな匂いがし、こちらに話しかけてくる声がする。


挿絵(By みてみん)


赤い髪を長く後ろに伸ばし、エプロンを着用した、目元がポーラにそっくりな彼女こそポーラママのレイラだ。



昨日急にポーラが俺たちを連れてきたのに、快く家に引き入れてくれた本人だ。とても優しい人だが、どこかネジが外れているのが特徴だ。



「…おはようございます。」


「うんうん。今日の朝食はトーストよ!」



「で、今何をしているんですか?」



彼女のキッチンには大量のトーストの他にたくさんの調味料が並べられている。




砂糖に塩、酢、ソース。それと…煎餅。




「ん? 『料理のさしすせそ』をトーストに塗っているのよ?」



「…ちなみに『さしすせそ』全部知ってますか?」



「さは砂糖、しは塩、すは酢、せは分からなかったから煎餅、そはソースね。」



「いやせは醤油なんですが。」



「そうなの? じゃあトーストに醤油を塗りましょう!」



「そういう問題じゃねーから!」



と、このように放っておくとどんな方向に進むか分からない。昨日は「大人数だから今日は蒲焼かばやきを作ろう!」と言い出し、何故かカバの肉を買いに行こうとしていた。



「うふふ、アラン君は面白いのね。」


レイラはフフフと口を抑えて上品に笑う。笑顔が凄く可愛らしい。


「レイラさんもなかなかだと思いますよ…。」


俺は苦笑いで返事をした。


「アラン君は、ポーラとどこで知り合ったの?」


レイラは目玉焼きを作るため、フライパンに油を敷き、温め始める。


「ラクシュに着いた時にポーラから話しかけてきたんです。で、道案内をしてもらって。」


「そうなんだ。あの子もちゃんと人の役に立っているのね。」


卵を割り、温まったフライパンに中身が落ちる。ジュー、と音がなり、油が弾ける。


「ポーラはいつから情報屋をやってるんですか?」



「そろそろ一年経つくらいじゃないかな。毎日楽しそうよ。」



レイラは嬉しそうに笑い、話を続けた。


「あの子昔は引っ込み思案で人となんか話さなかったのよ。でも突然『情報屋になるんだ!』って。それから友達も増えてきたみたいで。」


レイラは焼きあがった半熟の目玉焼きをフライパンから拾い上げ、トーストに乗せる。


「もちろん、あなたたちもよ。」


こっちを向いて、ニッコリと笑った。あんなに普段元気がいいポーラが昔はそうでもなかったなんて、意外かもな。


「おはよ〜。」


寝ぼけまなこでポーラが部屋に入ってくる。


「あら、ポーラ。おはよう。」


「旦那もいるっスね。ふたりでおしゃべりですか。」


ポーラはリビングのソファに座り、欠伸あくびをしながら言う。


「ん? アラン君はポーラの旦那さんだったの?」


レイラは顔を赤らめて口元を手で抑える。



「そういう意味じゃない!」



ポーラが赤面してベッドから立ち上がる。


「まさかママ、そうやって旦那に余計なこと言ったんじゃ…!」



「言ってないわよ! 小さい頃の話とか特に!」



「うわ〜! 小さい頃の話なんかしないでよ!」



修羅場しゅらばだ。朝から俺は親子の修羅場に来てしまった。


大慌てのレイラと赤面してキッチンに来てレイラの背中をポカポカと叩くポーラ。一刻も早く逃げ出したい。


「おはよ〜。ここの家は朝から騒がしいのね。」


人の家に泊まっておいて一番最後に俺達パーティの三人が起きてきた。


「旦那!」


ポーラが俺を大声で呼ぶ。



「とりあえず、さっきの話はナイショ! 絶対ですよ!」



涙目になってポーラは俺に指をさす。拒否権は無さそうなので静かに何回か頷いた。


気を取り直してトーストを食卓に並べ、皆で朝食にした。セシアはいつも通りとんでもない量のトーストを平らげ、レイラを感心させていた。


リリーは眠そうだが紅茶を飲んでうっとりと幸せそうだ。心配していたニーナもこの食事スタイルに慣れてきているのか、美味しそうにトーストをかじっている。



大きな窓が大量の日光を運び、優しい光が食卓に差し込んでいた。



食事を済ませて、今日のクエストを受注するために出発の準備を済ませる。


「またいつでも遊びに来てね。」


玄関先でレイラが手を振る。


「行ってくるね。」


ポーラが返事をする。俺たちも一緒にギルドに向かう。


レイラと別れて、俺達はギルドへと足を進めた。


「いい天気ねー!」


リリーが体を伸ばし、日光を取り込む。


「本当に。でも、午後は曇るらしいっすよ。雨が降るかも。」


ポーラはどこから聞いてきたのか今日の天気を教えてくれる。


「えー! ありえなーい!」


他愛のない会話だ。しかし、俺は言わなければならないことがある。


「よし、ニーナ。」


足を止める。皆もそれにつれてピタリと止まり、ニーナの方を見る。



「これからどうしたい。ニーナは自分の好きなところに行っていいんだぞ。」



ニーナはそれを聞いてハッとして、周りを見る。


「遠慮しなくていいのよ。あなたにはその権利があるんだから!」


「そうっすよ! ここからどう生きるのも自由っす!」


ニーナは少し黙って考え、口を開いた。




「ママとパパに会いたい…です。」




ニーナが奴隷になった理由はわからないが、彼女は自由になった今、両親と会いたいらしい。やはり肉親というのはそれほど特別な意味があるのだろう。


「ひとりで大丈夫か?」


「…はい。」


リリーがニーナをぎゅーっと抱きしめる。


「よし! 何か困ったことがあったら私たちを頼るのよ!」


「ありがとう。リリーお姉ちゃん。」


ニーナはしばらくリリーと抱擁ほうようし合い、同じことをポーラとセシアともした。


「じゃあ、またね。」


三人はニーナに手を振る。ニーナは強ばった表情で前へ進む。だがそれは奴隷だった頃とは違う、勇気に満ちた目だった。



「ご主人。」



ニーナが去り際に足を止めて振り返り、言った。



「ありがとうございました。」



ペコリと一礼し、走っていった。



ご主人って俺のことか。多分俺が買ったからそういうことになっているのだろう。



リリーたちはお姉ちゃんで俺はお兄ちゃんじゃなくてご主人か…とちょっと嬉しいような悔しいような複雑な感情が湧き上がったが、うちには妹がいることを思い出し、なんとか堪えた。



ニーナは角を曲がり、すっかり姿が見えなくなってしまった。


「行っちゃったわね。」


しばらく余韻に浸っている中、リリーが口を開く。



「さ、行こうか。」



ある程度に余韻に浸ったあと俺はつぶやき、ギルドの方角へ体を向け、進む。


五分くらい歩くと、ギルドの前にたどり着いた。空は少し曇り始め、午後からの天気を示しているようだ。


「よし、今日も頑張るぞ!」


俺が皆に言ったその時、遠くから大きな爆発音がした。

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