第21話:元村人A、輝きます。
万事休す。か。
光魔法は通じない。物理攻撃は効かない。しかも向こうが攻撃してくる時だけ物理化する。
チートだ。勝てっこない。
目の前のレミスは高笑いをし、何もすることが出来ない俺達パーティをむざむざと笑っている。
「クソッ!」
俺は膝から崩れ落ち、どうすることもできず拳で地面を叩いた。
「ハハハハ……。さて、そろそろか」
レミスは笑うのをやめて、正気に戻った。
「お前達、やれ。じっくりと恐怖を与えてやれ」
レミスの号令に合わせてゆっくりゆっくりと幽霊が近づいてくる。
「嫌、嫌……」
リリーは怯えた表情でどんどん後ろに下がる。幽霊たちは足を止めることなく近づいていくる。
どうすればいい! このまま死んで終わってしまうのか! 光、光さえあれば!
光。
光…。
光…!
俺はひとつのことを思い出した。一縷の希望。文字通り光が俺の中に差し込んできた。
やるしかない。これでダメだったら全てが終わりだ。が、試してみるだけの価値はある。
もう幽霊たちは俺たちを囲んで、目の前まで来て足を止めていた。
離れたところにいたはずのリリーもすぐ後ろまで来ていた。
「お前はここで見ていろ」
レミスは掴んでいたセシアの髪を離し、拘束されて動けないジェイドの横に転がした。
「さてと、やれ」
幽霊達が動き始める。
今だ。
「『ファイア・フラワー』!!」
俺は天に右手を掲げた。掌から熱い玉が現れ、空に飛んでいった。
ドーーーーン。
花火は空で爆発して、色とりどりの花の咲かせた。
真っ暗な闇の中に現れた、色彩である。
すると、目の前の幽霊たちは全員光魔法を食らった時のように消えていた。
セシアたちの方を見ると、レミスはズタズタになって地面に倒れていた。
「ええ……。こんなに効くのか……」
自分自身でもビックリしてしまった。唖然としている、というのはこのことだろうというくらい呆気なく幽霊モンスター達を倒してしまった。
「お、お前……。何をした……」
レミスの肌は傷だらけになり、羽織っていたローブもも何故か少し燃えたような跡が出来ている。
「いや、花火を上げただけなんだけど……」
「花火……だと……」
「うん……」
鑑賞用のスキルで倒してしまった。ダメージ判定がガバガバじゃねえか。
「さてと、で、あんたどうするわけ?」
リリーはさっきまでぐしゃぐしゃになって泣いていたのにいつもの表情になって腕組みしてレミスを見下ろしていた。
「お前ら……絶対にここで殺……」
「ファイアー・フ…」
「待ってくれ」
「ファイアー・フ……」
「すみませんでした。お手数かと思いますが待っていただけないでしょうか」
レミスは見たこともないほど綺麗な土下座をした。先程までの威勢はどこに行ってしまったのか。
「あの、実は僕本当は誰も殺してないんです。ただ魂を抜いただけなんです」
「嘘おっしゃい。さっきまで始末とか言ってたじゃない」
「魂を抜いた体は腐らないし、そのまま棺桶に全部残ってるんです。なんなら魂も解放できます」
「本当かしらね? じゃあ今解放しなさい」
「はい。直ちに」
レミスはそういうと土下座の状態から立ち上がり、両手を広げた。
すると魂と思われる霊体のようなものがレミスの体から次々と出てくる。それは次々と空へ浮かび、一斉に同じ方向に飛んでいった。
「これで、全員分魂は戻しました」
「そう。ていうかこの霧邪魔だから消してくれないかしら」
「かしこまりました」
レミスが頭を下げながら指を鳴らすと、霧が一瞬で消え、夕方に見た祠が現れた。
「あ、元の世界に戻ってる!」
「はい。お戻し致しました。多分魂をお戻しした冒険者の皆様は村の中にいらっしゃると思います」
「そう。で、アラン。こいつどうする?」
「ええ!? ここまでやったのに!?」
レミスは驚きの声を上げた。お前ここまでやっといて許されるとか思うなよ。
「ファイアー・フ……」
「人間の皆様方に多大なご迷惑をお掛けして、調子に乗った発言をしてしまい、さらに謝るだけで許して貰おうなどという浅はかな考えをしてしまい大変申し訳ございませんでした。この罪は人間の皆様には消して許していただけないほどの多大なものだと承知しております。この罪の償いは私の生涯を持って行っていく所存であります。図々しいのは承知でお願いさせていただけないでしょうか。何卒命だけは、命だけは許していただけないでしょうか」
レミスは綺麗なフォームで頭を下げ、謝罪の言葉をつらつらと言う。思わず消滅させるかどうかなどどうでも良くなってしまった。
「こいつ、なんか憎めないんだよなあ」
「レミスって言ったわよね。あなたはどれくらいの魂を取り込んでいたの?」
「20くらいです。百も集まれば世界征服できるかなと思いまして」
レミスは必死でその後を続けた。
「でも、兄貴の花火を食らって、これは無理だなと思いました! 今後は心を入れ替えて、被害者の皆様には誠心誠意謝罪をするので許していただけないでしょうか!」
いつの間にか兄貴にされてるし。
「本当に反省してるんだな?」
「はい!」
「じゃあ俺達は多めに見てやる。ただし次同じことしたら……どうなるかわかってるな?」
俺はニヤリと笑った。レミスはそれを見て肩を震え上がらせ、汗をダラダラと流してコクコクと何度も頷いた。お前新陳代謝とかあるのか。
「ジェイドさん。そういうわけでいいか?」
「俺は一向に構わないが……いいのか?」
「ああ。何かまたやろうとしてたら対策はわかったわけだから、ジェイドさんが懲らしめてやってよ」
「わかった」
「もう絶対やりませんよ! 兄貴! 任せてください!」
「はいはい。で、あの空間はなんだったんだ? 」
「はい。あれは俺の先代のゴーストキングが作り上げた空間なんです。幽霊たちが暮らす空間として長い間マジナ村の周辺に存在していました」
「なるほどな。要するにその空間に人を連れ込んで、魂を抜いてたわけだ」
「そういうことです。」
とりあえず、事情はわかったのでレミスは解放してやることにして、セシアを今度は本物の村の中に連れて行って休ませてやることにした。
行方不明者達は全員村の中にいて、村人達は皆驚いていた。その日のうちにレミスは全員に謝罪をして、心を入れ替えてゴーストライフを満喫することを誓った。何ちゃっかり満喫しようとしてんねん。
そして行方不明者の中のリカードさんも見つけ、俺達はラクシュに帰ることにした。
翌朝。
「勇者たちよ。ありがとう」
村から出ようとすると、ジェイドが見送りに来てくれた。隣にはレミスもいる。
「また遊びに来るからさ。ジェイドさんも元気でな」
「おう。アラン。健闘を祈るぜ」
「兄貴ー! 頑張ってくださいねー!」
レミスは子供のようにピョンピョン飛び跳ねる。もうすっかり気分は弟分なのだろう。
「またなー!」
俺とリリーとセシアは行方不明者たち全員を連れてラクシュに帰った。
*
それからというもの、マジナ村に行く時は魔よけで花火を持っていくといいという噂が流れ(ポーラを中心に)、ラクシュでは空前の花火ブームが巻き起こった。