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第19話:元村人A、ドキドキします。

 コンコン。


 窓から音が聞こえる。


「風かなんかだろ。気にしすぎだ」


「風じゃないのよ!」


 リリーが恐ろしい形相で言う。思わず窓を見る。


 見ると、無数の手が窓に張り付いてコンコンと叩いており、今にも破ってこっちに来ようとしている。


「結構ヤバいところまで来てたーー!?」


 俺とリリーは全力疾走でドアを開けようとした。


 しかし、ドアは鍵もかかっていないのに開かない。


「な、なんでだ!?」


 押しても引いてもビクともしない。


 その瞬間、後ろでパリンという音がした。


「ギャアアアアアアアアアアアア!!!」


 リリーが叫び、ドアを突き破り、全力で逃げる。


「ええ……。あれ現実にありえるのか。なんたる馬鹿力」


 多少困惑しながらも、俺も逃げることにした。


 リリーをどんどん追いかけて、廊下を走る。階段への距離はそこまでないはずだ。


 しかし、行けども行けども廊下が続いていた。


「おかしい! こんなに廊下が続いてるはずがない!」


「アラン見て! この絵、さっきも通ったわ!」


 リリーが指した方には、不敵な笑みを浮かべる男の肖像画が壁に飾られていた。


「あれ壊せば直るパターンだ! リリー! 思いっきりぶん殴れ!」


「うおおおおおおおおお!!」


 リリーが叫び、俺の顔面に思い切り殴り抜く。綺麗なストレートだ。


「ぐおおおおお!!」


 俺は勢いで吹っ飛んだ。


「違う! そっちじゃない! 壁の絵を破壊しろ!」


 リリーは完全にテンパっている。俺が指摘するとすぐ絵を破壊したが、これが続けば俺の命がもたない。落ち着かせなければ。


 絵が粉々になると、空間がねじ曲がり、目の前に階段が現れた。


「しめた! 行くぞ!」


 走り出そうとすると、リリーが後ろを向いて動かない。


「リリー! 何やってんだ!」


 リリーが何を見ているのか気になり、振り返ると白装束の女が走ってきていた。真っ青な顔で、血眼になって。


「ごめんアラン……動けないかも」


「そんなこと言ってる場合か! 行くぞ!」


 俺はリリーの手を取って走り出した。



 ホテルを出ると、霧が先程よりも濃くなっている。周りはほとんど何も見えない。



「こうなったら強行だ。記憶を頼りにして村から脱出するしかない」



「ねえ、アラン?」


「どうした?」


「……そろそろ手、離してくれない?」


「あっ」


 俺は階段を降りる時からずっとリリーの手を掴んで離していなかった。リリーはなんだか顔を赤らめて俺から目をそらしているような気がする。その様子を見て俺は…。



 って、そんなことしてる場合じゃないんだって。



 とにかく、足早に村への出口を探した。



 五分ほど経過したが、まだ出口が見当たらない。それどころかとうとう建物一つ見当たらないところまで来てしまった。


「クソッ、道を間違えたか?」


「それはおかしいわ、だってこんな更地、村の中にはなかったはずよ」


 そうだ。確かにこの村はそれほど広いというわけではなく、何かしら建物があったはずだ。こんなにだだっ広いスペースは見たことがない。


「ということは、『不思議な世界』特有の空間に迷い込んでるのかもな……」


 どうしたものか、と考えていると少し先に何かの影が見えた。


 しめた。何かの建造物かわかれば、今いる場所を特定できるかもしれない。


 俺達はすぐにその方向へ向かった。


 しかしたどり着いたそこは、墓場だった。


 見渡せる限り、何十、下手したら百くらいの墓が立っている。そして不思議なことに、その一つ一つに何故か棺桶が設置されている。


「おかしい。この村の共同墓地はこんなに数が多くなかったはずだ」


「それに、棺桶が添えられているなんておかしいわよ。離れた方がいいわ」


 リリーの言うことはもっともなので、距離を取ろうとした瞬間、


 ドン!!


 と音がして墓場の棺桶の一つが内側から音を立てた。


「ヒィッ!!」


 リリーが声を上げる。俺は黙ってその棺桶に注目した。


 棺桶は先ほどの衝撃で蓋が少し開いたようで、中から何者かが蓋を開けているようだ。


 ゆっくりと蓋がズレて、中に誰がいるのかわかってくる。


「アラン、逃げた方がいいんじゃないの!?」


「いや、ちょっと待ってくれ」


 蓋が完全に外れて、中の人間がひょっこりと起き上がり、顔を出した。


 そう、中の人間・・が。


 その人間は魔女のような帽子を被り、黒いローブを羽織り、いつもの赤い髪を揺らしていた。


「セシア!」


 そう、彼女は先程から迷子になっていたパーティメンバーのセシアだった。


 声をかけるとクルッと首の方向を変え、こちらを見る。


 立ち上がって、こちらに寄ってきた。


 「セシア、一体何が起きたてたんだ?」


「……わからない」


 どうやらセシアも何故自分が棺桶の中にいたのかは分かっていないようだ。


「まって、このセシアは本物のセシアなのよね?」


 どうやら先程までのお化け騒動でリリーは完全に疑心暗鬼になっているようだ。


「よ、よし。セシア。7+5=?」


「……。66」


「不正解。合格だ」


 セシアは数字に弱いから、本物のセシアでしか有り得ない解答だ。考えている様子もセシアそのものだし、どうやら疑う必要はなさそうだ。


 その時、何かを金属を手で叩くような音が聞こえた。


「なあ、聞こえるか?」


「何がよ?」


「音だよ。何か叩いているような」


 音の正体を探すと、思ったより近くから聞こえていることに気がついた。


 少し目で探し、耳で追ってみると、セシアが入っていた棺桶の隣の棺桶から聞こえているようだ。


「なあ、これ開けて見ちゃダメか?」


「……お化けが出てきたらどうするのよ」


「セシアの光魔法とか効かないかな?」


「安直だけど、やってみてもいいんじゃない」


 リリーは平静を保っているように返答しているが、完全に怯えている。


 が、一応許可は貰ったので恐る恐る開けてみることにした。


 重く、冷たい棺桶の蓋を外すと、中から出てきたのはジェイドであった。


「ジェ、ジェイドさん!」


 リリーは恐怖が安心に変わり、ホッとした表情で言った。


「ああ。助かった。アラン」


「ジェイドさん、ここまで何があったか覚えてないか?」


 「わからない。気づいたらこの中だ。して、ここはマジナ村か?」


「……マジナ村の形をした『不思議な世界』って感じか」


「……『不思議な世界』?」


 ジェイドは不思議な世界の事を知らないようだった。勝手に村の外の人間が話に尾ひれを付けていただけなので、知らないのも納得できる。


 俺は不思議な世界について説明し、ここまでの一連の流れを話した。


「なるほど。つまり俺達は不思議な世界に呑まれたと判断できるわけだ」


「そういうこと。そうだ、ジェイドさん、村の外へのルート、わからないか?」


「わからない。そもそも現在地がマジナ村の中にないからだ」


 それはそうか。今どこだかわからないのに出口が分かるはずはない。


 その時だった、俺は気配を感じた。


「来るぞ……!」


 先ほどの女のような幽霊が何体か、こちらに向かってきていた。

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