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第17話:元村人A、話を聞きます。

 スキルポイントを訳の分からないスキルに無駄使いしてしまった……と少し落ち込みながら依頼先のマジナ村に向かって足を進めていると、案外すぐに村に着いた。


 マジナ村はユミル村とほとんど大した差はなかった。


 木造の家がまばらにあり、人も何人か外に出ている。活気こそあまりないが、それは恐らく人口のせいだろう。


「ようこそ、ここはマジナ村です」


 看板の前には一人の少年が立っていた。


「む、村人Aだー!!」


 俺は興奮して思わず大声で叫んでしまった。うるさくしてしまった、と思い振り返ると、リリーは俺が叫ぶのを予期して耳を塞いで迷惑そうな表情でその様子を見ていた。


「あんたその癖治しなさいよ……」


 リリーがやれやれ、といった様子で言う。


「す、すまん」


 申し訳ない。前回のギルドのロビーの女性は村人Aじゃなかったから、今度こそ本物を見つけたと思ったら、つい。


「そうだ。宿屋はどこにあるか教えてくれる?」


「ようこそ。ここはマジナ村です」


「あら、ご丁寧なのね。さっき聞いたけど」


「ようこそ、ここはマジナ村です」


「あのー?」


「ようこそ、ここはマジナ村です」


 おかしい。目の前のこの少年は表情どころか目の色一つ変えずに同じ言葉を連呼している。


「緊張してるのかしら……?」


 リリーはどうすればいいのかわからなくなってしまっている。


「いや、それにしてもおかしいだろ。まったく表情の機微きびがない」


 というかこの少年は俺が叫んだことに関しても、何の反応もしなかった。慣れているリリーはすぐに対応して耳を塞いでいたが、この少年はモロに俺の叫びを聞いた。それなら誰だって何らかの反応はするはずだ。セシアを除けば。


「とりあえず先に進みましょう。宿屋くらい自分たちで探せばいいもの」


「……そうだな」


 多少気になる点はあるが、俺達はとりあえず宿を確保することにした。



「あのー、お尋ねしたいのですが」


 とりあえず一番最初に目に付いた暇してそうな村のおじさんに話しかけた。


 背は俺と同じくらいで、中肉中背、黒く長い髭を蓄えた40代くらいの男性だ。


「なんだね?」


「おお……。普通に会話できる人だった」


「失礼過ぎないか?」


 おじさんは俺が感動の声をあげたことに対し、ツッコんだ。そりゃ誰だってそんなこと言われればそれは不快にもなるわ。


「すみません。この村の宿を探しているのですが」


「宿か。……君たち冒険者か?」


「はい。そうですが?」


「この時期に冒険者なんて珍しい。案内は出来るがいいのかね?」


「……? どういう意味です?」


 この時期にってことはこの村には何か祭りでもあるのか? 実際、故郷のユミル村にも収穫祭などはあったが、今は春先だぞ?


「……いや。何でもない。案内しよう」


 おじさんは振り返って歩き始めたが、振り返る直前、その顔は少し暗くなったように見えた。


 どういうことだ? なにか引っかかる。



 少し歩くと宿屋に到着した。二階建ての一軒家かと思ったが、小さめの宿屋であるようで、看板も掲げられている。


「それじゃ、気をつけて」


 おじさんは俺たちを案内し終えると歩いて帰ろうとした。


「おじさん、『気をつける』ってどういう意味だ?」


 これから旅に出るならまだしも、宿屋に泊まるだけで気をつけて、という警告の仕方はどう考えてもおかしい。


 俺の中でその理由は予想できていた。だから俺はさらに一言付け足した。


「それって、行方不明者に関係あるのか?」


 俺たちが受注したクエスト、マジナ村周辺の行方不明の冒険者の捜索。


 そして村から出る時にポーラから聞いた『不思議な世界』の話。


 明らかにおじさんの態度がそれと関係しているように思えて仕方が無いのだ。


「……。そうか。君たちは行方不明者の捜索でこの村に来たんだな?」


「もちろん」


 やはりおじさんは何か知っているようだ。


「行方不明者の名前は?」


「リカード。リカード・ミスティア。」


「そうか。彼もクエストの道中にこの村に寄って、消息を絶った」


 どうやらクエストで定められた行方不明のリカードさんはこの村に寄っていたようだ。


「この村周辺の行方不明事件について、おじさんが知ってることは?」


「残念だが私は何も知らない。ただ、この村と関わった人間が何人も消えていることは事実だ」


 ポーラの噂話が本当なら『不思議な世界』に飲み込まれたことで、この世界からいなくなっているわけだ。


 ただ、おじさんからこれ以上の情報が出るとは思えなかった。恐らく村人として知ってはいるがその詳細は知らないのだろう。


「わかった。おじさんありがとう」


「ああ。しかし君たちも心配だ。私の名前はジェイド。何かあったら頼ってくれ」


 おじさんはジェイドと名乗った。どうやら俺達には協力的であるらしい。


 嘘を付いているようには見えなかったので『村ぐるみで誘拐をしている』わけでは無さそうだ。仮にジェイド以外の村人がそうだとしても、彼の存在は俺達にとって大きな助けになる。


「助かる。俺はアラン。アラン・アルベルト」


「リリアーヌ・オーリエン。リリーでいいわ」


「……セシア・ウィズド」


 俺達はそれぞれ名を名乗った。どうやら思うところは皆一緒で、彼のことは信用しているらしい。


「アランにリリーにセシア。何かあったらすぐに連絡してくれ。私はあの家に住んでいる」


 ジェイドはそういい、自分の家を指さした。特に何の変哲もないただの家であることから、普通の身分であるとわかる。


「わかった。よろしく頼む」


 俺とジェイドは握手を交わし、別れた。


 宿屋の中に入ると、カウンターにおばさんがおり、冒険者ギルドから来た旨を伝えると大きな部屋に案内してくれた。


 部屋は俺の実家の旅館の一部屋と同じくらい。別々の部屋でも良かったのだが、リリーが大部屋にしようの一点張りで、同じ部屋になった。


 ベッドはバラバラに二つと、一つのグループになっており、どのベッドの隣にも机が置いてある。窓は大窓ではなく部屋にある普通のもので、広い部屋に光を取り込むため高い位置に貼られている。


「なんで大部屋なんだよ……。別にこっちでもいいけどさ」


 俺は一つの方のベッドにボフン、と座り、くつろぎながらリリーに言う。


「うーん、なんでかしらね?」


 リリーは焦った顔で言う。かなり焦っているようで、その証拠に顔を忙しなく触り続けている。


「嘘つけ。お前怖いだけだろ」


 ギクッ


 俺が指摘するとリリーは肩を大きく震わせた。逆になんでここまで怖がりなのを隠そうとしているのか疑問なくらいそれは透けている。見えっ張りなリリーなら納得ではあるが。


「ここここ、怖がってなんかないわよ!」


 声が上ずっている。


 その時リリーの後ろでガタン、と大きな音がする。


「ヒィッ! すみませんでしたぁぁぁ!」


 リリーは頭を抱え地面に伏せる。


 後方ではセシアの猫、セーニャがセシアの膝から飛び降りただけであった。

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