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第15話:元村人A、葛藤します。

 朝だ。俺は宿屋の自室のベッドの上で目を覚ました。鳥のさえずりが聞こえてくる。


 昨日はかなり歩いたり戦ったりしたので体が筋肉痛になっているかと思ったら、案外そうでもなかった。これがレベルが上がった影響だろうか。


 疲れはほとんど残っていない。かなり快適な朝であると言えるだろう。


 顔を洗い、身支度を整えて一階の酒場に行くと、寝ぼけ眼のリリーが席についていた。


「おはよう。リリー」


「んー。おはよう」


「なんだ夜ふかしでもしたのか?」


「朝弱いのよ……」


 リリーは大きな欠伸あくびをひとつして、体を伸ばす。かなり辛そうだ。


「ちょっと休むか? 朝食何が食べたい?」


「んー……。パンケーキ……」


 俺は席から立ち上がりカウンターでコーヒーとカウニュウ(マザーカウの乳)を一杯ずつと、パンケーキとハニートーストを注文した。


「ほら、取ってきたぞ」


「ありがと。だいぶ目が覚めてきたわ」


 ギルドの机に突っ伏していたリリーはようやく顔を上げた。


「飲み物は好きな方選んでくれ。余った方を俺が飲む」


「気が利くのね。私コーヒー飲めないからこっちで」


 構図的には完全に執事と姫様だがまあいいことにしよう。最近まで実際お姫様だったわけだしな。


「セシアが起きてきてないわね」


 そう言えば確かに姿が見えない。近くの席で食事をしているかと思い周りを見渡したが、いなかった。


「寝坊か?」


「かもね」


 リリーはナイフとフォークで綺麗にパンケーキを切り分けて口に運び、食べる。


「呼びに行ってくるか」


 リリーが上品にパンケーキを食べ進めている目の前で、俺はペロリとハニートーストをたいらげ、コーヒーを飲み干して席を立った。


「朝くらい落ち着いて食べなさいよ」


「うるせえ。メアリみたいなことを言うな」


 お兄ちゃん! ご飯くらい落ち着いて食べなさい!


 という妹の声が脳内でフラッシュバックする。小さい頃の記憶だ。


 俺はリリーの世話焼きをよそ目に階段を上り、三階へと上っていく。


「セシアの部屋は……ここか」


 角を曲がり、同じような扉が並んだ廊下から、事前に教わったセシアの部屋の番号の書いてある扉を見つける。


 いきなり開けるのは問題があるので、とりあえずはその無機質なドアを拳でトントンとノックしてみた。


「……どうぞ」


 中からセシアの返事があった。俺は確認して部屋の扉を開くことにした。


「入るぞー。……って!」



 部屋の中のセシアは着替え中だった。昨日着ていたローブをベッドの上に置いて、上下白い下着姿で着替えを進めていたのだ。




「大丈夫じゃないじゃねえか!」




 俺はバタンと扉をしめた。


「何を考えているんだ……」



 俺は悶々としながらつぶやいた。赤い長髪に透き通るような白い肌のコントラストが目に焼き付いてしまった。



 それにあいつも結構……あるな。



 すると次の瞬間扉が開いた。


「どうしたの?」




 セシアは相変わらず下着姿で今度は向こうから扉を開けてきた。




 あろうことかこの娘、下着姿で廊下に出てきたのだ。




「何してんのぉぉぉぉぉぉ!!」




「?」


 セシアは不思議そうな顔をしている。まさか羞恥心がないのか?


「と、とりあえず中に!」


 ここは廊下だ。この状況を他の人に見られてはまずい。俺は強引にセシアを部屋に押し入れた。


「ふう。ひとまず関門はクリアか」



 いやクリアしていない。なんで俺まで部屋に入ってるんだ。



 しかしここで部屋を出たらまたセシアが部屋から出てきてしまう。こうなったら俺が部屋の中にいる状態でセシアを着替えさせるしかない。


「セ、セシア? 早めに着替えちゃってくれないか?」


「わかった」


 セシアはベッドの上のローブの中のシャツに手をかける。そうだ。着替え終わるまで俺は壁の方を見ていればいいんだ。


「終わったら声かけてくれ」


 後ろでガサガサと音がする。セシアが着替えて、布が擦れている音だ。


「……アラン」


「どうした?」


 クソ、セシアにそんな気はないのに俺が勝手に意識してしまう。ええい、セシアはただ後ろで布を触ってるだけだ。迷うな。俺。



「アランは私、嫌い?」



「え?」


 なんなんだそのセリフは。


「嫌いじゃないけどなんでだ?」


「……嘘」


「本当だ」




「だって私の方を向かない」




 どういう意味で言ってるんだぁぁぁ!!!



 俺はもう頭がショートしそうだった。


 まさかセシアは俺に着替えを見せようとしてるのか?



 いや、そんなわけが無い。だってこの子は不思議ちゃんなんだぞ? 羞恥心もないんだぞ?



「それはセシアが着替えてるからだよ。見られたら嫌だろ?」


「別に見られてもいい」


 俺は頭が爆発するイメージを覚えた。


 しかし寸前で理性を保つ。俺達は仲間なんだ。


 ただそんなに誘われたら…俺はもう…。


「じゃあ振り向くぞ」


「うん」


 俺はゆっくりと振り向き始める。後悔するなよ。これからのことは後で考えればいい。




 振り返るとセシアが立っていた。




 真っ黒のローブに包まれて。




「いや着替え終わってるんかい!!」




 さっきまでの精神的な葛藤はなんだったんだよ……。そう思うと俺は涙が出そうだった。


 セシアは俺に着替えを見せようとしていたのではなく、単に着替え終わっても俺が後ろを向いたままだから振り向いていいと言っただけだった。


 その時、扉から音がした。


「セシア? いる?」


 リリーの声だった。扉をノックしてセシアを呼びかけている。


 まずい……このパターンは……!


「はい」


 セシアが返事をする。


 ガチャ、と音を立てて扉が開き、リリーが部屋に入ってくる。


「あれ? アランもいたの。ずいぶん時間がかかってたのね」


「いやー、これはその……」


「着替えてた」



 頼む。余計なことを言わないでくれ。俺は心からセシアに願った。



「え? 着替えてたって、アランがそこにいるわよ?」


「横にいたよ」


 どうやらその心からの願いさえ、通じることはなかったようだ。セシアは俺をおとしいれようとリリーにチクっているわけではない。素でリリーに俺が着替え中に横にいた事を報告しているのだ。


 そして、傾向的にリリーが次に取る行動は……。




「あなた、純粋なセシアにつけ込んで着替えを覗いたのね!」




「違う!!」



 俺は手を上げて叫んだ。しかしその必死の弁解も虚しく。


「変態!!」


 リリーの鉄拳制裁を食らうのであった。


 その後普通に誤解は解けました。

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