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第14話:元村人A、方針を固めます。

 俺達三人は食事を終え、ギルド三階の宿屋に向かう。


 各自別々の部屋が割り振られており、ある程度準備を済ましたらリリーの部屋に集合ということで一時解散になった。


「結構しっかりしてるな」


 部屋は旅館より少し小さいくらいのスペースだった。備え付けのベッドやひとり分くらいの机、タンスがあるがまだ少しスペースがある。


 どういう仕組みが働いているのか、この部屋にはシャワーとトイレが付いていた。水が供給されているのか?


 ベッドはふかふか、とまではいかないが寝心地は悪くなさそうで、室温も適切だ。これで一泊五千ギルならば決して悪くない。


  俺はベッドに倒れ込み体を伸ばした。


 ボフッ、という感触で俺の重みがベッドに吸収される。


 今日一日でたくさんの事があった。


 思えばユミル村の皆と別れ、リリーに着いていき、王都ラクシュでギルドに到着。


 手品師になって、新しい仲間のセシアとも出会えた。


 初めてのクエストはボロボロだったけれど、得るものはたくさんあった。


「……悪くない」


 今日一日、かなり色々なことがあったが、凄く楽しかった。村にいた頃の繰り返しの日々とは違う、新しいスタートを切ったと感じた。


 少し休んだ後、俺はシャワーを浴び、リリーの部屋に向かった。


 シャワーがちゃんと出て、温度調節が出来たのは驚きだった。都会はどこもそうなのか?



 廊下を歩き、リリーの部屋をノックする。中から返事があったのでドアを開けた。


「結構早かったのね。どこでも座って」


 ベッドの上に座っているリリーの髪は風呂上がりなのだろう、少し湿っているように見えた。



 髪をかきあげて、うなじが見える。戦闘の時とは違い、リリーが妖艶に見える。



「どうしたの? 入ってきなさいよ」


 リリーが促す。少しドキッとしてしまっただけだ。


 セシアはリリーの横に座っていた。膝には黒猫のセーニャがいる。セシアに撫でられて、かなり嬉しそうに喉を鳴らしている。


「アラン、今日はどうだった?」


 リリーが聞いてくる。


「ああ、新鮮だったよ」


「そうでしょうね。今日はゆっくり休んだ方がいいわね」


「で、これからどうするんだ?」


「その話よ。まずは私達の目的から」


「魔王討伐だろ?」



「そうよ。死界島しかいじまに向かうの」




 死界島。




 この島に行くにはこのユマ王国があるネビリオ大陸から船で隣のセネギア大陸に行く必要がある。


 かつて百年ほど前に魔王が倒された島の名前だ。


 その時魔王を倒したのはリリーの曽祖父にあたる人物のはずだ。村の本で読んだことがある。


「つまり、次の目標地点は死界島に行くためにセネギア大陸に行くことってわけだな?」


「そういうこと。船着場はここから一時間程度馬車に乗って行けるわ」


「問題はその費用か」


「それをクエストで稼ぎましょう。って話よ」


 なるほど。簡単な話だ。


「で、費用は?」


「ひとりで30万ギルってところかしら」


 かなり値は張るが、違法で荷物置き場なんかに隠れて出国したら海に棄てられるかもしれない。安全に渡航できるための費用と考えよう。



「そしてもうひとつ、セシアについてよ」



「どうしたの?」


 今まで口を開かなかったセシアがようやく反応する。ちゃんと聞いてるのがすごいな。




「今日の活躍ぶりからして、セシアには魔王討伐の仲間になってほしいと思うの。戦力として、あなたが必要なの。旅に着いてきてくれない?」




 唐突なスカウトだ。セシアはクエストを手伝ってくれているだけで、魔王討伐となれば話は別だろう。彼女にだって生活がある。



「お前な、セシアだって急に言われても……」




「いいよ」




「いいんかいっ!」



 あまりの急な返事に俺は呆気を取られた。彼女の行動は予想ができない。


「セーニャが言ってる」


「セシア、それ本当なのか?」


「本当」


 全く表情を変えずに言うので、真偽の判断ができない。セーニャの顔を見るが、俺にはセシアの膝が気持ちよくてスヤスヤ寝てしまった猫のようにしか見えない。


「ま、まあセシアがいいって言うなら。よろしくね」


 リリーは若干困り顔ではあるが、セシアに握手を求めた。が、セシアは困惑している。


「握手よ」


 そういうとようやくわかったのか、セシアとリリーは握手をした。


 本当に不思議な子だなあ。


 兎にも角にも、セシアという心強いメンバーが加わったことは大きい。


「よし、じゃあ明日からクエスト頑張ろう!」


「「オー!」」


 リリーと俺は抑え気味ではあるが声を上げ、拳を高くあげた。


 セシアは何をすればいいかわからずしばらく様子を見ていたが、俺達の真似をして拳をあげた。


「さて、じゃあ夜遅いから寝るか」


 俺が部屋を出ようとした時だった。


 隣の部屋から何か声が聞こえる。


 高い女性の声だ。同時に何かが軋むような音がする。


 キャンキャンというか、なんというか……。


「あら、お隣さんの犬が鳴いてるみたいね」


「なあ、リリー。隣の部屋はどういう人たちだった?」


「ん? 確かカップルの冒険者だったわよ。入るところを見たもの。でも犬なんかいたっけな……?」


 間違いない。俺はこの声の正体を知っている。というか何をしているのかを知っている。


 リリーは不思議そうな顔をしているので、おそらく知らないのだろう。これは犬の鳴き声ではない。アレだ。


「鳴きやまないみたいね。私、犬を静かにさせるのは得意よ」


 リリーがベッドから降りて部屋を出ようとする。俺は全力で食い止めた。


「リリー! あれは違うんだ!」


「違うって何よ」


 リリーは訝しげな顔をして俺を見ている。何を言おうか思いつかない。


「その……。じゃれてるだけなんだよ多分」


 何がとは言わない。


「ああ、子犬とって事ね。それなら楽しい時間を邪魔しちゃいけないわね」


 そうそう。お楽しみの時間なんだ。


「一時間くらいしたらやめるだろうからさ」


「なんで終わる時間まであなたが把握してるのよ」


 ギクッ


「……昔犬を飼ってたから?」


「なんで疑問形なのよ。眠いから早く帰りなさいよ」


 苦しかったが、なんだか大事なものを守れた気がした。

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