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第12話:元村人A、ゴブリンの森に行きます。

 市場での買い物を済ませた後、俺達はラクシュを出て30分ほど歩いた先の「ゴブリンの森」に到着した。


 一見するとただの森である。木々が無造作に立ち並び、 春先ということもあり足元には他より少し背の高い雑草がまばらに生えていた。


 しかし森の奥は薄暗く、林床には光があまり差し込んでいないようだった。その静けさとともに薄らとではあるが不気味さをかもし出している。


「……暗い」


 セシアは小さくつぶやくが表情は変わっておらず、あまり怖がっているという印象は受けない。



 問題はこいつだ。



「おいリリー? 森に近づくにつれて口数が減ってきてないか?」


 リリーはギクッと言うように肩を上げた。顔は真っ青でまるで雪山で遭難したように体はビクビクと震えている。



「べべべべ、別に何でもないのよ?」



「嘘を付くんじゃない。ビビってるだろ」




 リリーのその動きの正体は恐怖だった。さしずめ暗い森の中でお化けが出るとでも思っているのだろう。




「ビビってなんかないもん!」


 リリーは涙目で俺にどなり反論する。


 次の瞬間その音に反応してか、木々に止まっていた鳥たちが一斉に空へ羽ばたき、バタバタと大きな羽音が上空で立った。



「ヒィィィィィッ!!」



「で、どこがビビってないんだ?」


 リリーは地べたに伏せて頭を抱え、ブルブルと震えている。



「だってお化けは倒せないじゃない!」



「なんで基準が倒せるか倒せないかなんだよ」



 それにしてもこの脳筋女リリーを置いていくわけにもいかないし、いちいち話をきいていると本当に日が暮れてしまいそうだ。


 とりあえずサクッと連れて行ってしまおう。


「セシア! 俺について来い!」


「……わかった」


 セシアの返事を聞いた瞬間俺は一目散に森の方へ走り出した。セシアも俺のあとについて走ってくる。


「え!? どうしたの!?」



「お前の後ろに女の幽霊がいるんだよ!」




「えええええええええええええ!?」




 リリーは熱い鉄板に触れたような素早い反射で地面からはね起き、全速力で俺たちを追いかけてくる。ものの数秒でリリーは息を切らして追いついた。


「ど、どこにいるのよ……」


「嘘だよ。さ、もう森の中に入ったから薬草をとって帰るぞ」


 俺とセシアはズンズンと先に進んでいく。リリーは疲れたとばかりに地面に膝をつける。


「リリー。暗いの、嫌い?」


 セシアがリリーに尋ねる。


「当たり前じゃない!」


「……『バーン』」


 セシアはスキルで掌に火の玉を出した。


「そんな使い方もあるのか」



 セシアが出した火の玉は俺達の周りをほんのりと明るく照らした。これで足元が見えるので、どこに進めばいいかや、薬草のある場所がよくわかりそうだ。



「あ、ありがとうセシア!」


 リリーは涙目でセシアの手を掴み、熱い握手をする。感謝を伝えているつもりなのだろうが、セシアは何をされているのかわかっていないようで、いつもの無表情である。



 それから10分ほど歩いた。森の奥に進めば進むほど草木が深くなり、薬草がありそうな気はする。


「……止まって」


 セシアがつぶやいた。


 俺とリリーはその声に反応してピタッと足を止めた。


「どうした?」


「セーニャが言ってる」


 セーニャとはセシアが飼っている猫である。先程まですやすやと帽子の中で眠っていたが、今は睡眠はよく取ったからかセシアの肩の上で森の奥をにらみ据えている。


「言ってるって何を……」


 言いかけた瞬間、気配に気がついた。


 ガサガサと背の高い茂みから音がする。左、右、そして前方から。


「囲まれてるようね」


 リリーも気がついたようだ。


 すると音の下茂みの中から黒い人形の生き物が何匹も姿を現した。


 それは間違いなくゴブリンだ。体調は百センチほどで黒っぽい肌に赤い目、粗末な短剣のようなものを手に持っている。


 見た感じで10体より少し少ない程度いるので、仲間で群れて襲いかかる習性があるのだろう。奇妙な笑い声を上げており、それはゲヒゲヒと聞こえる。


「やるわよ」


 リリーの掛け声と共に俺たち三人は背中を合わせて全方位からの攻撃に対応した。


 するとゴブリンが一斉にこちらへ向かってくる。戦闘開始だ。


 右の方向のリリーの方では二匹のゴブリンが勢いよく飛びかかっててきていた。


「あんまり時間は掛けていられないの!」


「『連戟レンゲキ』!」


 剣を振り上げ、先に来たゴブリンの胴体を上から下へ斬る。


 もう一匹が近づいてきたところで今度は下から上に切り上げた。


 ゴブリンは二体とも胴体に縦の斬られた跡が付き、あまりの威力に後ろへ吹っ飛び、倒れて動かなくなった。


「『スパーク』」


 左方向のゴブリンと戦っているセシアは手のひらを前に向けると、目の前のゴブリン達の真上から一筋の雷が落ちる。


 刹那、バチッと音がしてゴブリンたちの全身に雷が通り、体全体が光った。


 雷を喰らった三匹は感電したことで、剣を落とし、プスプスと音を立ててその場で倒れた。


 前方を担当する俺の方にはゴブリンが三匹飛びかかってきた。


「こういうのは冷静に対処すれば……」


 まずゴブリンが手に持っている短剣を一歩前に出て突き刺してくる。


 素早く左にステップしてかわし、足にかけた体重の反動を利用して首をねた。


 二匹目が案外早く来ていた。ゴブリンは少し離れた位置から短剣で斬りかかってきたが、こちらの長い剣のリーチを利用して弾き返した。


 力ではこちらの方が上のようで、その衝撃で大きくゴブリンの体勢を崩し、剣を振り下ろし、隙を付いて真っ二つにして倒した。


 三匹目は飛び跳ねて上から刺そうとしてくる。しかし上手く見切って近くまで引き寄せて、見送る形で躱し、ゴブリンが着地したところを逆に背中から剣を胸に刺し、倒すことに成功した。


「これで全部みたいね」


 リリーは俺の方を向いて、ふうと一息ついて腰に手をあてた。


「リリー! 後ろだ!」



 俺は気がついた。リリーの後ろにゴブリンが飛びかかっててきていることに。



 リリーはすぐに反応して振り返ったが、間に合わない、確実に短剣で一撃を貰ってしまう。


 距離的に助けられない。わかってはいたが本能的に俺は走り出した。



「『バーン』」



 すると俺の隣から半径10センチほどの火球が放たれた。それはゴブリンの腹を捉え、その体を後ろに吹き飛ばし、弾けた。


 ゴブリンは火球の衝撃と火力で致命的なダメージを受け、そのまま動かなくなった。


「……助かったわ」


「いいえ」


 セシアが上手くサポートしてくれなければリリーはダメージを負っていただろう。最初からかなりよいチームプレーだったと言えるだろう。


「さ、とにかく気は抜かずに、ってことだな。」


 先を急ぎたいので俺は軽く総括して、さらに森の奥へと足を進めた。

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