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最終話:元村人A、繰り返しの日々に戻ります。

 俺はあの(・・)空間に立っていた。


 ローブの俺に殺された時に来たあの真っ暗な空間だ。そこに俺だけが立っている。スポットライトの光を当てられているようにして自分の姿だけがはっきりくっきりと見える。


「ここは……前に来たことある」


 漠然と、前に来たのと同じ空間だと感じる。ただ、確固として違うのは、前に来た時には俺の体はこの空間には無く、意識だけが揺蕩っていただけのはずだった。


「おーい! 誰かいるかー!」


 虚空に向かって叫んでみる。どこにも壁がないようで、声は響き渡るだけだった。


「クッソ、どうすれば……」


 誰もいないのか、と周りを見渡したとき、俺は自分の置かれている状況を思い出しました。


「そうだ、世界は終わったんだ……」


 世界は、ディオネルが邪神の依り代であるエンゲージリングを破壊したことで消滅した。


 だから世界どころか誰だってこの空間に存在するはずがない。終わったのだ。完全に。


 ……じゃあ俺は今一体どこに存在しているんだ?


 ここは、あの世か?


「いいえ、冥世ではないわ」


 心の中で問うと、いつの間に立っていたのか、後ろにいたラミアが答える。


「ラミアお前……そっか、女神なんだったよな」


「私が女神だということを忘れて接してくる人間なんて貴方以外にいないわよ。まったく本当に」


 淡々と、ため息を吐いてジト目で俺を見てくる。気まずくなり笑って誤魔化す。それよりも今は聞きたいことがある。


「ここが死んだ後の世界じゃないとしたら……どこなんだ?」


「ここは世界の狭間……とでも呼ぼうかしら。世界が生まれて、消えて、新しい世界ができるまでの中間地点」


 だから俺は殺された後にこの空間に来ていたわけか。もしかしたら自覚がないだけで既に何度かここに来ていたのかもしれない。


「つまり俺とお前だけが残って……世界は消えたわけか」


「いいえ。貴方と私以外にもいるわ。……私の見立てなら」


 そう言い、ラミアはある方向を指さす。


 それを追って見て、ハッとした。その先にリリーが立っていたからだ。


「……やはりね」


「リリー!? どうして!?」


 間違いなくリリーだ。しかし世界は消滅し、自我を持たない彼女も一緒に消えたはずだ。


「貴方のさっきの発言には二つ間違いがある。一つ目。世界は消えたのではなく、『切り取られた』」


 ラミアが指を二本立てて教えてくれるが、何を言っているのかさっぱりだった。


「何が違うんだ?」


「消えたならもう元には戻らない。でも、切り取られたならほかの部分があれば『つなぎ合わせる』ことができる」


 要は千切れた布は縫ってつなぎ合わせることができるが、布が燃えてしまったら修復できないということか。


「でも、それとリリーになんの関係があるんだ? 話が見えてこないぞ?」


「結論はまだ。貴方の間違い二つ目。この空間に存在できるのは前の世界で自我を持つ『資格』を有した人間よ」


「自我を持つ『資格』?」


 ラミアは女神だから当然資格はある。俺はそんな彼女に力をもらったから資格は持っているだろう。


「じゃあ、リリーはどうして『資格』を持っているんだ?」


「それは彼女の『勇者としての力』が関係しているわ」


 そういえば、結局リリーが持っているとされていた勇者の力の話は置き去りだった。


「結局、勇者の力ってなんだったんだ?」


「勇者の力はその時の魔王に抵抗出来るものが選ばれるわ。ディオネルが『デリート』スキルを手に入れたのは永遠を求め、貪欲に生きた魔王に勝つために与えられたものよ」


 前に古文書に勇者の力の記述があったが、それが曖昧だったというのはそういう理由があってか。たしかに代ごとに変わるんじゃ記しようがない。


 つまり、リリーが持っている勇者の力は、『邪神となり、世界を切り取る能力を得た魔王に対抗できる力』になるはずだ。


「リリアーヌ・オーリエンが持っている力はいわば『鍵』よ。切り取られた世界の先を保存する宝箱の、ね」


「世界の先を……保存!?」


 確かにそう考えれば辻褄があう。邪神にだって対抗できるし、なによりそれなら資格になるのに十分すぎる理由になるからだ。


「貴方が邪神を倒し、ここに来るまで、彼女はずっと待っていたんだと思うわ」


「……うん。待ってた」


 リリーが涙を目に浮かべながら言う。俺にはまだ彼女が本物のリリーかどうかすら理解できていないし、実感が湧かなかった。


「リリー……なのか?」


「一巡目の……貴方が魔王城で戦ったアランと同じ世界のリリアーヌ。だから貴方にとっては他人、になるのかな」


 少し寂しげにリリーは言う。前の俺なら彼女を偽物だとこき下ろしていただろう。しかし、俺を勇気付けてくれたのはその偽物と卑下したリリーだった。


「他人なんかじゃないさ、君は……俺が好きなリリーだよ」


「……ありがとう」


 二人で微笑みあっていると、リリーの後ろに二つの人物が現れた。彼女の父ディオネルと母のマリーだった。


「え!? なんで二人がこんなところに!?」


 一瞬ギョッとしたが考えてみれば妥当だった。ディオネルは邪神の力で『資格』を得ていたはずだし、マリーも指輪の力でディオネルの『資格』の影響下にあったはずだ。


「これでこの空間にいるのは全員よ。さて、ここから世界を『繋げる』のは私の仕事よ」


 ラミアが皆の前に立ち、言う。


「世界が繋がったらどうなるんだ?」


「一年前に……貴方が村人だった頃から始まって、そこからはずっと普通の世界よ。魔王もいない、平和な世界。でも、それには一度貴方達の記憶が消えてしまうわ」


 記憶が消える。つまり、俺たちはこれまでの冒険を忘れてしまうということだ。


「……どうしたの? アラン?」


 リリーが心配気味に聞いてくる。表情に出ていたか。隠そうか悩んだが、俺は覚悟を決めた。


「もし新しい世界が始まって、俺がリリーを失ったら、ディオネルみたいになるかも知れない。世界に替えてでも、リリーを取ってしまうような気がするんだ……」


 あの時、ディオネルに同情した気持ちが俺の中でずっと引っかかっていた。それだけに、自分も同じことをしてしまわないか、そう思うと怖かった。


「だったら支えあえばいいじゃない」


 そう言ったのは、リリーの母、マリーだった。花のような、優しさに溢れた表情で俺に微笑みかけた。


「貴方達はまだ若いんだから、どっちかが間違えたら、もう片方が支えてあげればいいの。完璧な人間なんてこの世にいない。そうでしょ? パパ?」


「……わ、私に言っているのか!?」


 マリーがトンとディオネルの胸のあたりに肩を当てる。突然話を振られたディオネルはあたふたとした後、コホンと咳払いをした。


「……アラン・アルベルトよ。その、なんだ。娘を頼むぞ」


「なにそれ、すぐカッコつけるんだから!」


 マリーのツッコミに、俺とリリーが笑った。あのディオネルに平然と軽口を叩くなんて凄い女性だ、と感心する。


「パパ……ママ……ありがとう。次の世界でも、きっと会えるよね……?」


「うん。きっと素敵な世界になるわ。貴方達がしたいようにして、行きたいところに行きなさい」


 リリーとマリーが抱擁する。親子の愛がそこにあった。


 そして、束の間のワンシーンは終わり、俺たちは心を決めた。


「ラミア。頼む。世界を繋いでくれ」


「……準備はいいのね。最後に言い残したことは?」


「……それはこれからたくさん話すことになるからさ」


 俺がそう言うと、ラミアはフッと笑った。


「野暮だったわね。じゃあ、繋ぐわ」


 ラミアが手のひらを胸の前に掲げると、そこから強い白い光が放たれ、真っ黒だったその空間がどんどん白く塗り替えられていく。


 リリーと。セシアと。ニーナと。それから、数え切れないほどの仲間達と。


 また旅を出来るのだ。


 ありがとう。


 少しずつ薄れていく意識と共に俺は目を閉じた。



 俺はアラン・アルベルト。満16歳。


  身長は百七十五センチ。この村の男子の平均身長くらいで特に目立つことはなかった。


  父親譲りの黒い髪を持って牧歌的ぼっかてきなユミル村のごくごく普通の旅館の長男として生まれ、特に神から世界を救うように言われたりすることも無く、三才下の妹と共に平和に生活している。


 そんなこの上なく普通(・・)である俺の本業はこの世界に蔓延はびこるモンスターを退治し、億万長者を目標にする冒険者……なんて危険なことではなかった。……と。


「やあ少年、ここはなんという村だね?」


 大きな剣を持った身長二メートルはある30代くらいの冒険者のおじさんにいつものように俺は笑って答える。


「ようこそ、ここはユミル村です」


 俺がどうして村人Aを始めたのか。根本的な理由は一つもわからない。


 細かくいえば先代に言われてやっているというのが理由に当たるんだろうが、そんなものはあってもなくてもどうでもよかった。


 ただ、なんとなくこの立ち位置が性に合っている。自分はなんだか村人Aになるべくして生まれているような気がするのだ。


 何か変わり映えがあるわけでもない。何か大きな事件が起こるわけでもない。悪く言ってしまえば、退屈な繰り返しの日常。しかし、そんな日々が愛おしかった。


 もしかしたら、前世でも俺は村人Aだったりして。だったら最悪な天職だな。なんて考え事をしながら冒険者を道具屋に送り出したので、村の看板の所に歩いて戻ると、何やらひとりの少女が立っていた。案内をしなければ。


「ようこそ、ここはユミル村です」


 俺はいつものようにその少女に村の名前を伝えた。


「私は冒険者のリリアーヌ・オーリエン。疲れたから泊まっていきたいのだけれど。この村に宿屋はあるの?」

2019/09/22

今回を以ってむらくりは完結です。

2019年2月から連載を始めて7ヶ月以上かかってのゴールです。

ブックマーク数は100を超え、ユニーク数もそろそろ10000に迫る勢いです。

処女作ということもあり、思い入れも深く、すごく成長させてもらえた作品です。

ここまで読んでくれた読者様、本当にありがとうございます。色々考えながら作ったので、何かを感じ取ってくれたら幸いです。

よろしければ短い文章でも、感想を送っていただけると今後の作品作りの糧になります!

機会があれば番外編も別作品で作っちゃおうかななんて思ってたりします。告知はツイッターで行います!

長くなりましたがこれにてあとがきは終了です!最後までお付き合いいただきありがとうございました!今後とも艇駆をよろしくお願いします!

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