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第107話:元村人A、最終決戦をします。

 リリーと共に魔王城の門の前に立つ。禍々しく、厳格に立ちふさがるそれは、あの日と何も変わっていなかった。


 高い階段の上から眺める景色、広大な海、そして巨大な魔王城。ひとつひとつが俺を威圧する。押しつぶされそうな気持ちだが、今は前に進むしかない。


「リリー、ここで待っててくれるか」


「嫌よ、私も行く」


「駄目だ。お前は相手の能力の効果を受けてしまうし、それに……」


 俺はこれからお前の父親を殺しに行く。


 リリーにはその事実は伝えてある。自分の父親が生きていることも、それに関する記憶が改ざんされていることも。


「……わかった。邪魔になるからここで待つ。でもアラン、パパのことは気にしないで、ちゃんと倒してほしい」


「……聞くのもおかしいと思うんだけど、いいのか?」


「うん。それがアランの決めたことなら」


 リリーの顔には少し戸惑いがあった。しかしそれは彼女なりの決断だし、それを足蹴にするのは間違っていると思った。


「わかった。行ってくる」


 また背負うものが増えた。いや、俺は初めから仲間と、自分自身と、全てを背負ってここに立っているのかもしれない。


 俺はそれらに背中を押されているような気持ちで門をこじ開け、廊下を一歩進んだ。


 そこから15分、ひたすらまっすぐな廊下を歩いた。何を考えていたかはさっぱり覚えていない。意識を飛ばされた訳ではなく、不安や心配の気持ちや、ここまで自分を支えてくれた仲間、リリーへの思いが渦巻いていて、漠然とした思考になっていたからだ。


「……来たか」


 廊下を超え、あの巨大な空間にたどり着 くと、真っ暗な部屋の真ん中に白髪のディオネルが立って俺を待ち構えていた。


「ディオネル・オーリエン……」


 不敵に笑みを浮かべたその様子はさながら魔王だ。黒い服がその威圧感を演出している。


「アラン・アルベルト君。まだ遅くないが、私の手を取るつもりはないかね?」


「冗談。俺の手はもうあいにく抱えるものでいっぱいでね」


「そうか……せいぜい落とさないようにすることだな」


 地面に突き刺さった、真っ黒な雷のような形をした剣を引き抜き、その切っ先を俺に向ける。


「残念だが……君はここで死ぬ。そしてそれは何度やっても同じことになる」


 ディオネルから禍々しいまでのオーラが放たれる。胃が握りつぶされるような、嫌な感覚だ。だがこちらもその程度で怯むつもりはない。奴も俺のスキルに警戒しているはずだ。


「さあ、やろうぜ。世界を背負った一般人(・・・)同士でな」


 俺も剣を引き抜き、戦闘態勢に入る。


「『デリート』」


 ディオネルが例の『無くす』スキルを発動したようだ。見たところ何の変化も無かったが、警戒の気持ちを強める。


 違和感に気づいたのは次の瞬間だ。かなり離れていたはずなのにディオネルがすぐ目前まで来ている。瞬間移動の類ではなく、すごいスピードで走って来たのだ。


 素早く剣を振り下ろしてきて、間一髪で鍔迫り合いになる。


「な……速い!」


 加速した? いや、奴の能力は「無くす」もののはずだ。だとすれば奴が無くしたものは……。


「空気抵抗……か!」


「正解。だが、遅い」


 相手のほうが圧倒的に力が強く、後ろに弾き飛ばされる。


 なんとか足で踏ん張るが、相手の猛攻は止まらず、空気抵抗を無くしたため猪のような速さで駆けてくる。


 どうする? 防戦一方ではジリ貧だ。そうだ……俺もスキルを!


「『メタ・エクスチェンジ』!」


 俺は相手の剣戟に自分の剣を合わせることに集中し、再び鍔迫り合いの形を作る。


「小癪な! 同じことを……」


 が、今度は違った。ディオネルの表情が一変し、凍りつく。


「まさかお前……筋力を……!」


「ご名答」


 俺は自分とディオネルの筋力を『交換』した。だからこそ次に勝つのは……。


「俺だっ!」


 剣で押し切り、相手の姿勢を崩すことに成功する。すかさず追撃を狙い、足を踏み込む。


「『デリート』!」


 ディオネルがスキルを発動すふると、俺が足をついた床が凍りついたように滑りやすくなっていた。踏み出した左足に全体重を乗せていたため、無理な態勢になり、転ぶ。


「まさか摩擦を……!」


「タイル一面だけでもかなりの効力だな。終わりだ!」


 地面に倒れている俺を串刺しにしようとディオネルは剣を地面に杖をつくように突き刺す。


「『メタ・エクスチェンジ』!」


 俺とディオネルの位置を交換する。結果として剣は誰もいないところに刺さった。俺はすぐに体を捩って立ち上がる。


「今のはヤバかったな」


「ちょこまかと……」


 わかってはいたが厄介な能力だ。予測ができない概念を消失させるため頭の中でシミュレーションした行動の流れの糸がプツリと切れてしまう。


「どうやら君には一瞬で蹴りをつけるしかないようだ」


 ディオネルは苛立っているようで、首をボキボキと鳴らす。


「『デリート』」


 ディオネルが宣言した瞬間空気が変わった。


 いや、空気が『無くなった』というのが正解だ。


 こいつ、この部屋の空気を消したのか!? 突然の状況に頭が真っ白になる。そんなことをすれば自分も一溜まりもないはずだ。


 違う。落ち着け。つまり、奴だけが知っている酸素がある場所(・・・・・・・)がどこかにあるはずだ。俺が痺れを切らしたタイミングでその空気を取り出すはずだ。


 だとすれば、こんな部屋の真ん中でそれは一箇所。


 俺は床に剣を思い切り突き刺す。引っこ抜くと、床を貫いた先は真っ暗な空洞になっていた。


 やはりだ。この巨大な城の地下は空洞。ディオネルはそれを知っているからこそ俺だけを窒息させることが出来るのだ。


 俺がそれに気づいた様子を見て、ディオネルが驚いた表情をし、急いで自分も手に持っている剣で地面に穴を開け始めた。


 が、これは好機だ。俺は反撃の手を止めない。


 勝利の方程式は整った。これが最後の『メタ・エクスチェンジ』だ。


 俺がスキルを発動した瞬間、部屋から床が消えた。


「何故だ! 何故お前に消失スキルが使える!?」


 床がなくなったことで落下しながらディオネルが叫ぶ。


「ヒントはこれだ」


 俺は落下しながら手に床の破片を持った。それは剣先ほどの小さなかけらであり、ディオネルの近くにもあった。


「まさか……床と穴の割合を『交換』したというのか!?」


「正解だ」


 床が消えたように見えていたのは、元々穴が開いていた二箇所以外の場所が全て穴になったからだ。


「しかし貴様も落ちるのは一緒だ! 何を血迷ったかわからないが、世界は貴様の死をもってもう一巡する! 私の勝ち……」


 そこまで言ったところで気づいたらしい。顔の血の気が引く。


「普通ならな。でもお前はさっき無くしただろ。『空気抵抗』を」


 だからこそ、ディオネルの落下のスピードは俺の比ではない。風の抵抗を受けない分どんどん落ちていく。


「『デリート』! 重力!」


「させるか!『メタ・エクスチェンジ』!!」


 ディオネルが無くした重力と、俺の重力を交換したことで俺は一瞬ふわりと宙に浮き、ゆっくりと等速で落下し始めた。ディオネルの落下の速度は加速度的に上がっていく。


「そんな……バカなあああああああ!!」


 ディオネルはそのまま落下していった。数秒して爆発のような音がしたから聞こえたため地面に到達したのだろう。


 俺はゆっくりと等速で地面に落ちていく。辺りはかなり真っ暗で茫漠とした空間であった。魔王城はかなり長い階段を上っていたため、これだけの広さなのも納得だ。


 俺はどんどんと下に降りていった。

あと2話ほどで完結です!

読んでくださっている方がいらっしゃったら最後までぜひお付き合いください!

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