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第105話:元村人A、相対します。

 一週間ほど療養し、俺たちは船に乗っていた。


 目的地は死界島。その場所の名前を言えば誰だって理解する、魔王の島だ。


 リリーにそのことを告げると、最初は反対こそしていたが、作戦があるとだけ伝えたら相乗りしてくれると言ってくれた。やはり彼女には頭が上がらない。


 潮風を肌で感じながら船で進むこと30分程度。死界島はもう目前まで迫って来ていた。


「そろそろね」


 リリーが固唾を飲む。ゴツゴツとした岩肌に骸骨の顔のように見える島の全容、あの日と何一つ変わっていなかった。


「行こう」


 船を岸に付ける。意を決して降りてみると、遠近感の問題なのか島の大きさがよりリアルに感じてくる。言葉では表せないような緊迫感が肌を刺す。


「てっきり諦めたと思っていたんだがな。まさかノコノコやって来るとは」


 落ち着く暇もなしか、と息を吐き、視線を島から下に写すといつの間に現れたのやら、ローブの男が立っていた。


「リリー、下がってろ」


 リリーを島の沿岸ギリギリまで下がらせ、前に出る。ローブの男の正面に相対する。


「お前わかってるんだろ? 俺とディオネルが死ねば邪神を管理するものが消え、世界は崩壊する。そんなのお前だって願ってないだろ?」


「ああ」


「だったらなんでここに来た?」


「それでも終わらせに来たんだ。永遠という名の作り物の安寧に胡座をかいて、リリーをこんな世界に縛り付けたお前らをな」


 俺が告げると、ローブの男は鼻で、そのあと静かに声を出して笑った。


「残念だ、お前なら理解してくれると思ったんだけどな」


「買い被りすぎだ」


「いいや。でもお前は馬鹿だ。万に一つでもお前に勝ち目はない。さっきのたいそうな口上も無意味だ」


 ローブの男がそれを告げた瞬間、俺は思わず、彼がそうしたように静かに笑い始めた。


「何がおかしい……?」


「俺が何の準備もなしにお前の前に立つと思うか?」


「……どういう意味だ?」


 ローブの男の声が余裕そうなものから少し焦ったようになる。


「……俺はお前が誰だか知っている」


「ハッタリのつもりか?」


「そんなわけないだろ。なあ、()


 俺がそう言うと、ローブの男は驚きからか一瞬動きを止め、身に纏ったローブをバッと剥がして捨てた。


 そこには間違いなくもうひとりの俺(・・・・・・・)がいた。髪は長く伸び、目つきは鋭くなっていたが。俺と全く同じ服装で、こちらを睨みつけていた。


「う、うそ! アランが2人!?」


「……どうしてわかった?」


「最初におかしいと思ったのはラミアから話を聞いたとき。あいつはセシア、ニーナが最初に死んだのを確認してから最初の世界から消えたと言った。でも俺の時は最初に殺されたのは俺、それもお前の話なんか出てこなかった」


「それと俺がアランだとわかることの何の関係がある?」


「簡単だ。最初の世界にはいなかった人物で、その後からディオネルの仲間になれる奴なんて自我を持ってるとしか思えない」


 おそらく俺の考えでは、もうひとりの俺は1周目に、リリー、セシア、ニーナが殺された後に自我を持っていることをディオネルに悟られ、永遠を選んだ。繰り返しの日々でも、生きていく道を選択したのだ。


「……流石は俺、と言ったところだな」


「腐ってもな。で、どうだ? お前の期待を良い意味で裏切れたと思っているが?」


「しかし、そんなことの何の意味がある? わかったって意味のないようなことだ。お前に勝ち目なんかない!」


「いいや。俺はお前に対抗できる唯一の人間だ。何故ならお前のスキルは『スキル同士を交換するスキル』だからだ」


 要は『エクスチェンジ』の上位互換だ。気づいたのはあいつがセシアのスキル『アルカディア』を使っていたからだ。


 奴は自分の世界が終わってからここまでの数年間、おそらく鍛錬に励んでいた。そこで奴でも習得できるような意味のないスキルをたくさん覚え、自分のクズスキルと相手のスキルを交換する力を得た。それも俺のようにランダムではなく、命中率100パーセント精度のものを。


 つまり、もうひとりの俺が『アルカディア』を使えたのはそのスキルで自分クズスキルとセシアのアルカディアを交換したからだ。だからセシアはスキルを発動できなかった。


 しかし、今の俺なは奴が交換して得するようなスキルはない。だからこそお互い素の力でのみ戦うことができる。


「確かにこの世界で俺と対等に戦えるのはお前だけだ。だが……それがどうした?」


 もうひとりの俺は『クラフト』と思しきスキルで剣を出現させ、それを強く握り、切っ先をこちらに向ける。


「皆が死んだあの日から五年間、俺だって何もしていなかったわけじゃない! お前に負けるわけがないんだよ!」


「いいや。お前には決定的に欠けてるものがある。それを教えてやる」


 俺も腰に携えた剣を引き抜き、構える。


 次の瞬間、もうひとりの俺が縮地し、剣を振り上げて飛びかかってくる。


「速っ……」


 想像以上の速さに驚く。素早く剣で弾き返すが、力が強く体のバランスが崩れる。


 相手の剣は俺がセネギア大陸で買った剣と同じもので、自分が押入れから持ってきた剣よりもリーチが長く、その分警戒しなければならない。


 素早く地面に手をつき、バランスを取り戻す。


 が、立ち上がる間も無く次の攻撃が来たため地面を強く蹴り、転がることで回避する。回避する一方だ。


「どうした? 避けてばかりじゃ勝てないぞ!?」


「わかってるよ! クソ、やっぱ一筋縄じゃいかねえか……」


「『クラフト』!!」


 もうひとりの俺がクラフトを発動したことにより、足元から盛り上がるようにして瓦礫が現れ、俺はそれに対応できず大きく吹っ飛ばされる。


「終わりだ!」


 もうひとりの俺は足場を作り出し、ジャンプして切りかかってくる。


「させるかよ!」


 体を捩り、意地で剣を降り、剣と剣を交える。


 が、次の瞬間腹部への強い蹴りを食らう。想定していない衝撃に、後方に飛ばされる。


 大きな岩に背中からぶつかり、内臓に強い衝撃を受ける。骨が折れたのか激痛が走る。


「く……そ……」


「動かない方がいい。今楽にしてやる」


 もうひとりの俺が一歩、また一歩とこちらへ近づき、俺の首を刎ね飛ばそうと剣を首筋に当てようとする。


「俺の正体を看破したのは褒めてやる。でも圧倒的に実力差がありすぎる。そしてそれが埋まることはない」


「……言ってろ!」


 俺は相手の隙を見て岩にもたれかかった状態から手元にあった自分の剣で刺突する。しかしあと一歩のところでそれが届くことは無かった。


「……残念だったな。お前の不意打ちを警戒しないとでも思ったか?」


 嘲笑うように言われる。俺の剣ではもうひとりの俺の腹部には届かない。あと数センチのところだというのに。体も動かない。


 だったら、剣を動かすだけだ。


「『エクスチェンジ』」


 俺が手を伸ばしていた剣と、もうひとりの俺が持っていた剣が交換される。


 セネギア大陸で買った剣の方が長いため、剣の長さが伸びたような形になり、もうひとりの俺の腹部に剣の切っ先が到達する。


「な……」


 剣は腹を深く抉り、血がどくどくと流れる。もうひとりの俺は患部を抑え後ずさりするが、数歩したところで膝から崩れた。


「お前の負けだ」


 俺は痛む体をなんとか動かし、立ち上がった。

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