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第101話:元村人A、交渉します。

「君は誰だ? それにそこにいるのは……」


「俺はアラン・アルベルト。今日はお前に話があって来た」


 ダムス・アクストール。この国の王子であり、順当にいけば王位を継ぐはずだった男だ。


 が、王者が持つはずのスキル、『英雄の剣(レイ・ジェルド)』を妹のアリシアが引き継いでしまったために悲痛な運命を辿り、最後には国家転覆を企んでしまう。


 結局俺たちによってそれらは阻止され、独房に入れられたわけだが。


「ダムス。このメイジーに見覚えがあるよな?」


「……なんだ君は?」


「質問してるのは俺の方だ。お前はこの国家を転覆して歴史を抹消し、王位につこうとしている。違うか?」


 ダムスが息を飲む。それもそうだ。誰にも話していない計画を知っている人間がいるのだから。


「アサシン。お前が言ったのか?」


「そんなわけないでしょ。アランって言ったっけ? そろそろなんでアンタが計画のことを知ってるか教えてもいいんじゃない?」


 メイジーが問う。まあどのみち説明するつもりだったしいいだろう。


「俺は未来が見えるんだよ」


「え……?」


「それ本気で言ってんの?」


 リリーとメイジーが驚き、声を漏らす。


「だからお前が計画を立てていることも知っているし、ノーゼルダムのことも知っている」


 元々ダムスに国家転覆をするように唆したのもノーゼルダムだ。知らないはずがない。


「……突飛な話だが君に隠し事は無意味、ってことかな」


「そう思ったほうがいい」


「それで、君の要件は何かな? まさか知識をひけらかしに来たわけじゃないだろう?」


 ようやく本題か。


「俺が要求するのは一つ。ノーゼルダムに会わせてほしい。そうすればお前らの計画のことは黙っておいてやる」


「……理由を聞いてもいいか?」


「単純に会いたいと思うからだ」


「どうして先生に? 彼の知り合いなのか?」


「いいや。奴に聞きたいことがある。俺が奴やお前に危害を加えることはないと約束しよう」


 ダムスは生唾を飲み、考える。


「どうして私たちの計画を見逃すんだ? 未来が見えるならそれを告発したほうが懸賞金でも貰えるんじゃないのか?」


「あいにく正義だの公共だのには興味はないんでね。俺は自分の目的さえ達成できればそれでいい」


 無駄だ。ダムスはなんとか俺の口から本音を言わせようとしているようだが、本音なんて物は存在しない。俺は目的を達成するために行動しているだけだ。画策するだけ無駄な話である。


「で? どうする? やるのか? やらないのか?」


 自我のない連中に割く暇はない。早々に話をつけるため畳み掛ける。


「……本当にそれだけでいいんだな?」


「ああ。お前はそれだけで自身を縛る運命から解放され、全てを手にすることができる」


 俺が最後に念押しすると、ダムスは数秒黙って深く考えた。


「……わかった。彼を呼ぼう」


「いいや、その必要はない」


 ダムスが言った瞬間、部屋に煙が上がる。現れたのは魔術師のノーゼルダムだった。


「……見ていたの……ですか」


「ああ。正しい判断だと言えるんじゃないかな。ダムス君」


 ノーゼルダムは歩いて前に出、俺の前に立った。


「やあ。君が私に会いたいと言ったアラン君だね」


「その通りだ」


「すまないが私は君には会ったことがない。君の望む話をしてやれるかはわからないが大丈夫かね?」


 セネギア大陸で対峙した時と同じ、肌がピリつくような威圧感。しかし遠慮する必要は全くない。


「ああ。大丈夫だ。だって……」


「話を聞く必要なんてないからな」


 俺がそう言った瞬間、部屋の扉が開かれて男たちが決河の勢いで入ってくる。


「『バインド』!!」


 男たちはスキルを発動し、メイジー、ダムスに重力をかけ、地面に伏せさせる。


「な、なによこれ……!?」


「せ、先生!」


「わかっている!」


 ダムスの声に応じてノーゼルダムが男たちの方に駆け、魔法を解除させようとする。


「おっと、そうはいかねえぜ?」


 次の瞬間、前に進んだはずのノーゼルダムは後方に吹っ飛ばされ、部屋の床に転がる。


「カイン! 援護は任せろ!」


「ああ。あいつは多分……一筋縄じゃいかねえぜ」


 カインとヴィルヘルム。この国の最高戦力のトップ2と言っても過言ではない。ラクシュがダムスたちによって崩落しかけた時はこの2人が兵を動かし、無事に街に現れたゴーレムたちを処理させた。


「報告します! ダムス・アクストール様と暗殺者、毒牙のメイジーを確保しました!」


「おっけ。あとはこいつだけだな!」


 前にラクシュに訪れた時は俺に様々なことを教えてくれた騎士、レイウス・ベルモンドが状況を報告する。


「……やられたようだね」


 ノーゼルダムはただ1人、部屋の真ん中で倒れ、なんとか起き上がろうとする。


「え、ど、どういうこと?」


 一瞬にして戦場となったダムスの部屋。その急激な変化についてこれず、リリーは狼狽える。


「ハァ……ハァ……」


 荒い呼吸をし、なんとか立ち上がろうとするノーゼルダム。しかしその体に力が入っているようには見えない。


「無駄だ。さっきお前に毒を付着させたナイフで攻撃をしている。かなり高レベルモンスターでも気絶するような麻痺毒のはずなんだがな」


「……参ったね。これは。完敗だ」


 ノーゼルダムはふらついた足でなんとか立ち上がり、俺の方を向く。


「君が……仕組んだのか?」


「まあそんなところだ」


「そうか……フフ、そうかそうか……」


 あまりの毒に気がおかしくなってしまったのか、ノーゼルダムは不敵に笑い始める。


「君はあの男と……魔王と同じだ。いや、それ以上の……残酷さを持っている。恐ろしいよ……君はこの世界を壊すことも、生かすことも出来るだろう」


「君は……化け物だ」


 ノーゼルダムはそう言ってバタリと床に倒れた。どうやら相当力を振り絞っていたらしい。すぐさま兵士たちがノーゼルダムを取り囲み、拘束する。


「俺が……化け物」


 ノーゼルダムが残した言葉が少し気になって反芻する。


 化け物。だからなんだと言うのだ。


 こんな仮初めの、張りぼてのような世界で化け物になることになんの悪いことがあろうか。


 ディオネルとローブの男を殺し、この世界を壊し、元の世界に戻る。


 そして今度こそ本物のリリーに会いたい。


 それさえ出来るなら俺は喜んで鬼にでも、化け物にでもなろう。

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