第100話:元村人A、再会します。
記念すべき第100回です!
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます!もう少し続きますのでよろしくお願いします!
「ちょっと! アラン! 先に行かないでよ!」
閉ざされた空間から出たため、後ろからリリーが走ってくる。よほど急いで来たのか息を切らしている。
先ほどのラミアとの会話ではっきりしたことは三つ。
一つ。俺は魔王城に戻ってリリーの父であるディオネルとローブの男を倒さなければならない。
二つ。この世界は繰り返している。そしてこの世界で自我を持っているのは俺と女神のラミア、それからさっき言った2人。
三つ。この世界は俺がいた時間を繰り返したもので、この世界の人物は俺が接触していた人物と同一ではない。いわば鏡のようなもので、オリジナルの動きを真似ているだけの虚像に過ぎない。
また、話の辻褄が合うようにこの世界は前の周とのズレが出るとそれを修正してくる。現に今俺の後ろにいるリリーはまだ会ってすぐなのに俺についてきている。
つまりこの世界の人間と馴れ合う必要性はない。なんたって自我がないのだ。
どうせこれも辻褄合わせだろ。
「ねえちょっと! ねえったら!」
俺はリリーの言葉に耳を貸すことなく歩き始めた。
「確か……この辺りに……」
辺りを見渡すと、目的の人物を見つける。
「いた」
その人物の元に駆け寄る。
「ポーラ、聞きたいことがある」
見間違えるはずもないほど目に付きやすい赤髪の少女、ポーラだ。
彼女はこの街のことを熟知した情報屋だ。抜けたところは多いが、情報は間違いはない。
「あれ、私のこと知ってるんですか? 私ってもしかして有名人だったりして? 聞きたいことってなんですか?」
「この都市で人を雇うとしたらどこがいい?」
「え、まさかのスルー? コホン、依頼なら冒険者ギルドが一番ですけど、そういうことじゃなくてですか?」
「ああ。もっと汚れ仕事を請け負ってくれるところを探している」
「なるほど。訳ありっぽいっすね。わかりました。ついてきてください!」
ポーラがドンと胸を叩いて歩き出す。俺はそれについていった。
*
「ここです! この酒場なら仕事の依頼にもってこいですよ」
ポーラに案内されたのは酷くこじんまりとした酒場だった。
「……ラクシュにこんな場所があったなんてな」
「知らなかったでしょう! 凄いでしょう!」
俺は酒場の扉を開けて中へと進んだ。
「え、チップは?」
「ご、ごめん! これで足りる?」
「十万ギル!? 金貨なんて貰えないですよ!」
「じゃあどうすればいい!? 私お金の使い方よくわかってなくて……」
「……わかりました。別にお金のためにやってるわけじゃないですし、今度会ったとき覚えてたら貰えますか?」
「わかった! ありがとう!」
「それにしてもなんだか怖い人でしたね。どうしちゃったんですか?」
「わかんないけどほっとけないの! じゃあ、行くね! ありがとう!」
*
俺は店内を見回す。全体的にうす暗く、バーカウンターの他にソファがいくつか用意されており、煙の臭いが鼻に付く。
店内には男女問わず十人程度がおり、ゴロツキのような格好をした人間が多い。
「……見つけた」
目当ての人間を見つけ、近づいて声をかける。
「メイジー、だな?」
水色髪の幼い見た目の少女、彼女はかつてラクシュの王女アリシアを殺そうとしたところを俺に捕らえられた暗殺者だ。
「いかにも私が毒牙のメイジーだけど? 何よアンタ? 殺しの依頼かしら?」
ツンとした喋り方と子供っぽい性格。変わりがない、間違いなくメイジーだ。
「ああ。依頼だ。あの城に俺を入れる手伝いをしてくれ」
「……何よ? 殺しじゃないの?」
「殺しじゃない。でもお前の『アンノウン』スキルを使えば誰にもバレずに城に入ることが出来るはずだ」
「アンタ……なんでそれを知ってるの?」
メイジーは目を鋭くし、殺気を放った。会話ほどの声量だったのにその殺気を受けてバー店内は一気に静まり返った。
「さあな。で、出来るのか? 出来ないのか?」
「舐めないで。出来るわ。でもそれを私がする必要があるのかって言ってるの」
「あるね。逆に聞くが、メイドとして城に紛れ込む方法を知られたらまずい理由でもあるのか?」
「……なんでそれを!」
やはりだ。この時点でメイジーとダムスは接触し、アリシアの暗殺を計画していた。
「言いなさい。どうして貴方がそんなことを知ってるの!?」
「義務はない。で、やるのか? やらないのか?」
「……無理矢理にでも聞くしかなさそうね!」
メイジーは懐からナイフを取り出し、俺の喉に突き立てようとする。
「ちょっと! 何してるの!」
後ろで見ていたリリーの叫び声が聞こえる。
「……『エクスチェンジ』」
俺はスキルを発動する。メイジーの席に置いてあったグラスを掴むと、グラスとナイフの位置が交換され、メイジーはグラスを俺に突き立てる形になる。
「なっ……!」
すかさずグラスを抑え、逆にナイフをメイジーの喉元に近づける。
「アラン! 駄目よそんなことしたら!」
「どうだ? 狩られる側になった気分は?」
「アンタ……いったい……」
「仕事、引き受けるか? こっちに付いた方がメリットがある、そう思わないか?」
「……わかったよ」
メイジーが両を挙げ降参を示し、一歩引いたため、俺もナイフを持つ手を下ろす。どうやら快諾してくれたようだ。
メイジーを連れて店の外へ出る。
「じゃあ今から行くのね?」
「俺は少し寄るところがあるから遅れる。先に行け」
メイジーに背を向け、歩き出す。
「……狂ってるよ」
*
それから城の中にはすんなりと入れた。
メイジーは『アンノウン』によって城のメイドになりすまし、俺とリリーを客人として招かせた。
「入れたでしょ? どこに行くの?」
「こっちだ」
俺はメイジーとリリーを引き連れて階段を上る。
「ねえ、どんだけ歩くのよ? アンタの連れもそこの猫ちゃんも疲れてるみたいだけど?」
メイジーに構う理由はないので無視をして、どんどん進んでいく。気が遠くなるほど長い。
「……この階だ」
階段を上り終えると、今度は廊下を進んでいく。
「そろそろ行き先くらい教えてくれてもいいんじゃないの?」
「その必要はない。もう着いた」
目的地にたどり着き、俺はその扉を開けた。
「なんだ、君は……ノックもしないで」
「ダムス。お前に用事がある」




