第99話:元村人A、女神に出会います。
今回は説明が多い回になりました。
今回の内容はこれ以降の回でなるべく噛み砕こうと思うので大まかな把握で大丈夫です!それではどうぞ!
目の前にはセシアが飼っている黒猫、セーニャがちょこんと座っていた。
「セーニャさん? セシアはどうしたんだ?」
近くにいるのかと思い俺は辺りを見渡す。が、街並みにはセシアどころか人っ子ひとりいない。
「あれ……? なんで誰もいないんだ?」
前に訪れた時、王都ラクシュはどこもかしこも常に人で賑わっていた。
それこそ人がいないところがないところがないほどだ。だというのに今は見渡す限り誰もいないんだ。
「おーい! セシア……って、この世界は偽物なんだった。とりあえず王城へ行くか」
「偽物ではないわ」
歩き出そうとした時、どこからか声がした。どこから声がしているのかと思い辺りを見渡すが、そこにはセーニャしかいない。
「まさかセーニャが喋ってるのか?」
少し屈んでセーニャをまじまじと見つめる。どこからどう見てもただの猫だ。
「そんなわけないか……」
「いいえ、当たりよ」
次の瞬間、セーニャの口から魂のようなものが抜け、それは強い光とともに徐々に人の形になっていく。
「なんだこれ……?」
「ようやく目覚めたのね。アラン・アルベルト」
数秒後にはすっかり人間の形になり、目の前には水色の髪の幼い少女が立っていた。
水色の長髪に白い羽衣を纏っている。目は幼い少女のそれとは思えないほど落ち着いており、大人びている。
「君は……? なんで俺の名を?」
「私は女神ラミア。このセーニャという猫に憑依していたの」
女神ラミア。その単語には聞き覚えがあった。
「ラミアってこの国の国教の……?」
「ええ。その主神に当たる存在よ」
つまり、この子が神様ってことか? 俺は今神様と喋っているということでいいのだろうか?
「いまいち信じられないんだけど……神様がどうして猫に?」
「単刀直入に言う。アラン・アルベルト。この世界で自我を持っているのは君と私だけだ」
先ほどのリリーのことを思い出す。ラミアの言うことが真実であれば、あのリリーはやはり偽物だ。
「つまりこの世界は虚像ってことか?」
「……それとは少し違うわね。この世界は間違いなく本物で、続いている」
「続いている? だとしたら魔王城からここまで時間が巻き戻ったんだ?」
いまいち合点がいかず、首を傾げる。
「巻き戻ったのではないの。貴方の死を以って世界は終了して、新たな世界が繋がれたのよ」
ラミアが言うが、全くイメージがわかない。
「要するに、世界は一年前からあなたが死ぬまでを切り取って繰り返しているの。何周も何周も」
つまり、世界の時間を一年間だけ切り取って、それを何度も繰り返しになるように貼り付けているってことか?
「自我を持っていない人間はその事実に気づいてなくて、だから俺は時間が巻き戻ったように感じたってことか?」
「そういうことよ」
「だとしたらなんで世界はそんな風になってしまったんだ?」
俺が問うと、ラミアの目が一層真剣味を帯びたように感じた。
「さっきこの世界で自我を持っているのは私とあなただけと言ったわね。本当はそれだけではないの」
「……魔王とローブの男か」
リリーの父親である魔王、そして俺を刺したローブの男。ありえるとしたらあの二人だ。
「半分正解。自我を持っているのはあの二人。でもあの男……ディオネル・オーリエンは魔王じゃない」
「どういうことだ? 自我を持ってるのは2人だろ? 魔王城にはあの2人しかいなかったぞ?」
「それがこの世界の始まりと関係しているわ」
その後ラミアが言ったことをまとめるとこうだ。
一年前まで、この世界には確かに魔王がいた。しかし、ある日その存在は一度無くなりかけた。
それは勇者ディオネル・オーリエンによって魔王が討伐されかけたからだ。彼は類稀なる力とスキルを使い、魔王を追い詰めた。
しかし、倒す直前で魔王の甘言に唆されたことで状況は一変する。
『永遠』が欲しくないか? と。
ディオネルが魔王討伐を辞め、魔王の計画に手を貸せば必ず永遠が手に入ると。その言葉に動かされ、ディオネルは剣を折った。
そこから時間はさしてかからなかった。魔王とディオネルは計画に必要な準備を済ませ、実行に移した。
それは、『魔王を神に昇華させること』だった。魔王は少なくない生贄と自身の肉体を犠牲にして自らを邪神という存在へと昇格させた。
ラミアがそれを止めようとした時にはすでに遅かった。神となった魔王は同じ神に干渉することができるようになったため、ラミアが太刀打ち出来ない相手と成り果てていた。
邪神は自らが『永遠の世界』となろうとしていた。俺にはよくわからなかったが神という概念的なものになれる邪神が世界になるのも容易いことらしい。
その後、ディオネルの後に新たに勇者となったリリーの仲間であるセシア、ニーナはディオネルによって殺されてしまう。
ラミアは俺たちがディオネルと戦っている傍ら邪神と戦い、最後の余力で俺に『時の女神としての力』を与えたらしい。
それによって俺は自我を持っているらしいが、人間相手には発動に時間がかかったらしく、俺は今になってようやく記憶を保持することに成功したのだ。実感はないが。
「要するにラミアは邪神となった魔王に、俺はディオネルに負けてこの世界に閉じ込められてるってわけか」
「悔しいけどそういう認識で構わないわ」
最後は俺がディオネルに殺されて世界は一巡。彼女は見ていないため語っていなかったが、おそらくそういうシナリオだったのだろう。
「ラミアはこれからどうするんだ?」
「私はこの世界では無力な存在。顕現することだってままならないわ」
「いやいやいや。そこに立ってるよな?」
俺がそう言うとラミアは俺の体を触る。しかし実体はなくすり抜けてしまった。
「質量はないわ。それにここは私が作り上げた空間。一度それを解除すれば私はこの猫の体に戻る他ないわ」
なるほど、閉ざされた空間だから周りに誰もいなかったのか。しかしそう考えるとラミアはだいぶ弱っているらしい。
「……俺は行くところがある。ラミアはセーニャの姿でついてきてくれ」
「構わないけどなにか宛があるの?」
「ああ。出来るかはわからないけど」
返事をすると、空間が開けたらしく俺は雑踏の中で1人突っ立っていた。足元にはセーニャとなったラミアもいる。
状況は理解した。今はやれることをやるしかない。
この繰り返しの世界を抜け出すために。




