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第93話:セシアさん、終わらせます。

「や、やった……?」


「ああ。やったぞ!」


 セシアの魔法、『アルカディア』によって、ノーゼルダムを倒すことに成功したのだ。俺たちは喜び、声を上げてハイタッチをした。


「フフ……」


 勝利を喜び合っていると、倒れているノーゼルダムが小さく笑う。俺たちはそれを聞いて一斉に身構える。


「お、お前まだ……」


「アランどいて! 今スキルで……」


「なあに、もう私にスキルを使うだけの力はない」


 リリーが剣の切っ先をノーゼルダムに向ける。しかし彼は自虐的に笑った後、そう呟いた。


「嘘ね。ここで倒す以外無いわ!」


「待て待て! ストップ!」


 俺はリリーの前に立って手でダメだと伝える。ノーゼルダムから聞がなければいけないことがたくさんあるからだ。


 今の所、俺たちは魔王についての情報を何も知らない。彼から少しでも情報を引き出さないといけない。



「フッ、私を殺さないのは情報を引き出すためか?」



 ノーゼルダムに図星を突かれる。しかし、ここで引くわけにはいかない。




「魔王の正体はなんだ!? どんな能力を持っている!?」




「さあね。守秘義務、さ」


 予想はしていたが、はぐらかされてしまった。ならば、もっと他の情報を引き出すしか無い。


「お前は何故セネギア大陸の三国を混乱させ、人々に憎しみの感情を植え付けた?」


「……何故か、ね。エンシェントドラゴンの討伐を妨害する以外に理由はあるかな?」



「それだけじゃない。エンシェントドラゴンが目覚める周期は千年。前回の復活からは早すぎるはずだ。お前が手回ししていたんだろう」



「ほう」


「お前の行動の理由は不可解な点が多い。エンシェントドラゴンを復活させたのもだ。お前自身にメリットがない」


 俺がそう言うと、ノーゼルダムはまたフッと笑う。



「さっきも言ったろう。ただの『退屈しのぎ』だ。それ以上の理由はない」



「お前は……そんなことのために人の気持ちを踏みにじったのか!?」




「少年よ。私はね、この世界は論理によって作られていると思っている。『何故人を殺すことはタブーである』と思う?」




「それは……」


 自分がやられたら嫌だからだ。法で罰されるからだ。しかし、それらは完璧なものではない。やられるのが嫌でない、殺されてもいいという人だって存在する。法が完璧でないこともまた事実だ。



「私はね、『人を殺すことはタブーではない』と思うのだよ。答えが出ないのであれば背理法的にね。そして私はその答えに従ったのみだ」



 俺はその言葉を否定することは出来なかった。私利私欲のために行動し、人を傷つけることを是としているわけではなかった。ただ、否定するだけの言葉が見つからなかったのだ。



「……人を殺すのはタブーよ」



 俺が考えあぐね、下唇を噛んでいるとセシアが呟いた。


「ほう、それは何故だ」



「私がそうであるべきだと思ったから」



「意味がわからないな。論理を感じない、稚拙な答えだ」



「いいえ。『タブーでない』ことがあなたの中の絶対の真実なら、これもまた絶対の真実よ」



 その言葉に一度場が静まり返る。うつ伏せに倒れているノーゼルダムはすこし顔を上げ、セシアの顔を見て笑う。


「フフ……フフフフ。フハハハハ!」


 しばらく何も言わないと思ったら今度は高笑いをし始めた。その不気味さに思わず呆気にとられる。


「面白い。愉快だ。これほどまでに愉快なのは百年ぶりだ。気に入ったぞ」


 ノーゼルダムはセシアに一本取られたとばかりに悔しそうに、そして何より楽しそうに笑った。



「どうやら私は勘違いをしていたらしいな。お前ほど人間らしいことを言う奴を見たことがない。ウィズドの娘(・・・・・・)よ」



 彼がセシアを人形、と呼ばなかったのは初めてのことだ。セシアは黙ってそれを見ていた。



「お前たちの前に『論理』は通用しないようだな。こんな感情はとても懐かしい……。どうやら最期に面白いことを教えてもらったようだ」



 ノーゼルダムは満足そうにそう言った。




「……情が移った。私は魔王の能力なんてものは知らない。アレは私の理解の範囲などとうに超えている」




 思わずそれを聞いてゾッとする。背筋に鳥肌が立った。あのノーゼルダムですら理解ができない領域に魔王が達しているということだ。実感が出来なくても彼が物差しになってリアルに伝わってくる。



「ああ、少年よ。私たちはまだこの世界の単なる()に過ぎないのかもしれないな……」



「どういう意味だ?」


「じきに……わかる」


 しばらく場に沈黙が流れた。ノーゼルダムは最期に不可解な言葉を放って息を引き取ったのだ。


「勝った……のよね」


「ああ。恐ろしい相手だった」


「アラン殿ー!」


 俺たちがノーゼルダムの死を見届けていると、遠くから少女の声が聞こえてくる。


「メイ!」


 遠くから手を振って走ってくるのは和ノ国のクノイチであるメイだった。


「ま、待ってくださいよー!」


「エマ殿、大丈夫ですか?」


 後方からは息を切らしながら走るエマとビビが付いてきていた。


「ふたりも。そっちは大丈夫だったか?」


「ええ。カインさんたちがなんとか討伐に成功しました」


 ということは……ついにやったのか。


「これにてエンシェントドラゴン討伐は終了です。危機は完全に去りました」


「「よっしゃああああああ!!」」


 皆喜びの声を上げ、ハイタッチをした。本当に長かった。最初にこの大陸の状況を聞いた時、絶望したのを思い出す。きつかった局面が多かっただけに、涙が出そうだ。


「じゃあ今夜は大陸中で晩餐会だな!」


「昨日もやったし、今日はまだ朝ですけどね……」


 ニーナが苦笑いで適確にツッコむ。まあ、いいんだ。細かいことは。


「それにしてもセシア殿がハイタッチするとは意外でござるな。そういうタイプではないと思ってたでござるが」


 メイが訊く。それにセシアは少し笑った。


「私は……私だから」


「え、どういうことでござるか!?」


 教えて欲しいとせがむメイを見て俺たちは声を上げて笑った。


 晴れた空を見上げながら。




 しかし瞬きをした途端、それは先ほどの真っ暗な空に変わっていた。




「な、なんだこれ!?」


 空は雨こそ降っていないが、黒く鈍重な雲に覆い尽くされていた。

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