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ワールドアップデート! ~コミュ障ボッチの俺が神々を殺す話~  作者: 百里
-Phase.07- Retry:学校をよりよい場所にしよう!
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82 ハンドシェイカー

前回までのあらすじ


 ボッチコミュ障の高校生・柴田は、電脳の女神エレクトラにだまされて契約を結ばれてしまう。

 彼女の目的は、自分の神格ゴッドランクを上げること。そのためには有名人になり、お供えを捧げ、魔鬼フラクを倒せというハードモード!


 生徒会長選挙戦。

 獅子虎の次なる狙いは──?

「柴田先輩、応援しています!」

「握手してくださいっ!」


 駅前から少し歩いた通学路に洋菓子店がある。

 その店先に俺はタスキ掛けで突っ立って、愛想を振りまいていた。


 校門の華子に対抗して、俺も街宣活動をと思っていたのだが、どうせならあいつより手前でやって嫌がらせをしてやりたい。

 初めは駅前を考えたが、以前の「歩きスマホは危ないですよ」活動で難しいと分かっていたのでこれは断念。通学路上もたぶんよろしくないだろう。


 ──ということで、どこかの店先なら私有地だし可能だろうと思案していたところ、幸運にも家庭科部の部員の実家がこの洋菓子店だったというわけだ。


「はーい、どうぞー! 美味しいよ~!」


 横では家庭科部の面々が小さなクッキーの包みを配っている。

 俺と一言かわすだけで、洋菓子店のクッキーが貰えるならと、女子生徒たちが寄ってくる。予想以上に盛況。


「柴田君、クッキーちょうだい!」

「ここのクッキーほんと美味しいから!」

「私、紅茶味が好き!」


 お前ら、知らない人にお菓子をあげると言われても付いていくいっちゃいけないって教わっただろ……。

 クッキー欲しさに無邪気に走り寄って来るさまは、そこそこな有名高校の生徒とは思えん。大丈夫なのか、こいつら……。心配になってくるわ。


 そんな一方で。

 洋菓子店の親父さんは予想以上に生徒たちが集まって来たことに気を良くして、準備していた50袋が無くなると、店の商品まで小分けにして提供する始末だ。商売っていうより人が喜ぶ姿が好きなんだろうが、こちらも心配になってくる。

 正直、場所を貸してくれるってだけで十分だったんだけどなぁ。


「柴田、マジでお前に投票するからな」

「頑張れよ」

「あざっす!」

「よ、文化系の味方!」

「帰宅部の星だろ!」

「いやいや、僕は全生徒が仲良くしてほしいんですよ!」


 そんな平和な光景を遠巻きに眺める生徒が一人──天王寺綾葉(いろは)だ。前風紀委員長にして、3年内部進学組の中心人物。

 その表情は険しい。俺と目が合うと、なにかを振り切るように立ち去った。……いや、また立ち止まって思いつめるように自分の足元を見つめている。それも数瞬のことで、いきなり方向転換して俺のほうへとずんずん進んでくる。

 そのあいだ、俺と目を合わせたままだ。はっきり言って怖い。


 俺の表情と天王寺綾葉の気迫に人だかりが割れる。

 俺もできることなら避けたかったが、明らかに俺に向かているのでどうしようもない。


「柴田君」

「は、はい」

「校外活動の許可は得ているか」

「あ、はい。選管に届け出はしていますが……」

「本来、校外活動の目的は社会学習だ。こういった校内活動を外で行うことは好ましくない……が、選管が認めたなら仕方ない」

「す、すいません」


 思わず出る謝罪。

 しかし、そんなものは価値もないと言わんばかりに天王寺彩葉は聞き捨てて、俺の横でクッキーを配る生徒を睨む。


「これも許可を得ているのか?」

「あ、いや、それはですね……」

「物品贈答の見返りに投票を促すなど」


 やっぱりそこ気になるよな。

 元風紀委員長としては。


「待ってください。僕はこの場を借りているだけで、彼女たちとは無関係です」

「……どういう意味だ?」

「僕は選挙活動のためにここをお借りしていますが、クッキーを配っているのはお店の宣伝です」

「私たち、お店の宣伝バイトでーす!」

「柴田君とは無関係でーす!」


 しれっと家庭科部員たちがを白を切る。

 いやー、悪い子たちだわー。


「そんな理屈が通るはずないだろう!」


 明らかに苛立った口調で、天王寺彩葉が言い放つ。

 俺は居直って肩をすくめる。


「100歩譲って僕が配らせていたとしても、校則で禁止されているわけじゃないですよね? 公職選挙法なら違反かもしれませんが」

「君には良識がないのか?」

「仮定の話に良識と問われても何とも答えようがないです」

「──では、公平性に欠けると言えば納得できるか?」

「それを言うなら、生徒会活動と称して校門で挨拶をしていた院さんはどうなるんですか? 今も続けてますよ。職権乱用じゃないっすか」

「今、私は君と話している」


 天王寺彩葉の目が座っている。

 いや、怖い怖い、怖いって!


「で、でも公平性というなら、僕だけじゃなくて院さんにも言うべきでしょう」

「では言うだろう。──院さんのケースも、君のケースも問題だ。生徒会選挙の公共性を損う、ひいては学校の自由な伝統を破壊する行為だ」

「そうですか。まあ、生徒会ならともかく、一般生徒の見解ということで聞いておきますよ」

「……」


 黙って睨みつけられる。

 ビンタが飛んでくるんじゃないかと俺はひやひやしたが、沈黙のまま天王寺彩葉は踵を返して坂道を上っていった。


「こっわ」

「さすがオニゴロシ」


 家庭科部員たちが馬鹿笑いしている。

 いや、お前ら呑気だな!


 オニゴロシってのは、天王寺彩葉の異名らしい。例の事件で往復ビンタ3連発を見舞った生徒の名前が大仁田──だからオニゴロシ。

 あとでSNSを確認したところ、天王寺彩葉は宣言通り、あのあと校門の華子にも詰め寄って警告をしたらしい。もちろん華子もしらばっくれたわけで、その対峙が内部進学生の間で、「新旧リーダー対決」とか「女王の帰還」とか言われてちょっとした話題になった。


 これで天王寺彩葉が覚醒して、風紀委員会の復活に乗り出してくれればいいのだが……と思って間も置かずの昼休み、俺は動画アニメ研究会の君島先輩に呼び出された。


「いやいや悪いね、わざわざ」


 動画アニメ研究会の部室。

 にこやかにそう言っている君島先輩の頬が、腫れているんだが!?

 かたや横にいる天王寺彩葉は目元が腫れている。明らかに泣いた跡だ。

 あの。どういうことなの、これ……。


「柴田君」


 天王寺彩葉が毒気の抜けたような目で、ぽつりと俺を呼ぶ。


「は、はひ!」

「はっきり言えば、私は君のやり方が気に食わない──君たちは汚い」


 じろりと君島先輩を睨みつける。


「だけれども、今まで何もしなかった私が言う資格もない」

「ずーっと反省とか言いながら、拗ねてたもんなぁ~」


 茶化すように君島先輩が言う。

 俺はまたあの関西弁の怒声が飛び出すんじゃないかと身構えたが、天王寺彩葉は苦笑いをしただけだった。


「君が朝言ったように校則に触れなければ、『問題ない』というのは間違っていない。ルールを出し抜いて有利になろうとするのは、人の自然な行動だからな──でもだからこそ、そのグレーゾーンを見極める人間が必要だ。そうしないと自由は得られない」

「そう言われると自由ってのは、案外窮屈なものだよねぇ」


 君島先輩が言うと、とたんに天王寺彩葉が食ってかかる。


「違う、逆だ。──窮屈で不公平な世界を押し広げて、人は自由を作ってきたんだ。けして野放しの自然から安全な牢獄へと押し込められたわけじゃない。全員が傍若無人な王様になるためのものでもない。人が人を縛っていた私欲の鎖を断ち切って、安全な居場所と平等な権利を与える。それが自由の始まりで、法の意味だ」


 規則とか決まり事が好きなただの堅物かと思っていたが、天王寺彩葉はそんな単純なステレオタイプではないようだ。

 人間てのは近づいてみないと分からないもんだな。


 君島先輩に後日聞いた話だが、中学になるまで天王寺彩葉は手の付けられない問題児だったらしい。良家のお嬢様育ちで向こう気も強く、同年代よりも身体が大きいということは、傍若無人がまかり通るということと同義だった。

 男女問わず同級生を泣かせ、気まま勝手に振る舞うさまは暴君そのものだったが、大人は天王寺彩葉を「ちょっとわがままなお嬢様」と叱らなかった。

 増長とはこのことで、天王寺彩葉の暴力的な性質はますますエスカレートしていった。


 ──今の天王寺彩葉からは想像できない過去だが、ある転機が彼女を変えた。唯一将来を心配していた祖父が、彼女に剣道を習わせたのだ。そこで叩き直された──のではなく、そこにいた君島先輩と壮絶な全面戦争をやらかした結果らしい。

 詳しい内容は話してくれなかったが、


「いやあ、青大将を集めるときは苦労した。マムシもいるからね。でも、あの泣き顔を見たらやった甲斐があったと思ったもんだよ」


 それだけでどんなものか十分察せられるわけだが。

 ともかく、君島先輩は徹底的に張り合い、やられれば何十倍にも仕返ししたらしい。

 結果、天王寺彩葉は悟った。


「ああ、争いは空しい……」


 と。

 そこからだんだんと性格は穏やかになり、まともになっていったらしいが、今の姿を見るとまた極端に行ったもんだな。


「──柴田君」


 君島先輩に「もう少し歴史を勉強しろ」と説教を垂れたあと、天王寺彩葉は俺に向き直った。


「はい」

「私は今の学校に不満がある」

「そうですか。僕もですよ」

「私から支持を得たいようだが、このことも含めて君のやり口は嫌いだ」

「今の生徒会も、会長選挙もですよね」

「そうだ。自分のせいでもあると思う」

「なら責任を取って力を貸してください」

「他に方法はないか?」

「新しく立候補者を立てる。眉村尊の体育会と手を結ぶ。院華子との因縁を捨てて3年内部進学生の票を手土産に仲直りする。その3つしか思いつかないですね」

「どの選択肢が一番良いと思う?」

「立候補者は締め切っているので不可能です。眉村が選挙で勝つ可能性は俺が潰します。勝ち馬の華子に付くのが一番かもしれませんが──華子が約束を守るでしょうかね」

狡兎こうと死して走狗そうくらる、か」


 ずる賢い兎を捕まえれば、用済みの猟犬は食われる、という例えだ。


「僕はもともと風紀委員会の復活を公約にしています。実現の可能性が高いと思いますが」

「──約束を守るか?」

「必ず」


 俺が手を出すと、天王寺彩葉は力強く握り返しながら言った。


「『選挙活動の掲示物を選管の指定以外の場所に掲示してはいけない』」

「……え?」

「君の選挙ポスター、あれは違反だ」

「いや、あれは……写真部が勝手に作品を発表してるだけですよ」


 俺がとぼけると、天王寺彩葉は笑った。


「同じことを言うんだな」

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