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ワールドアップデート! ~コミュ障ボッチの俺が神々を殺す話~  作者: 百里
-Phase.06- 大切な人を守ろう!
56/85

55 ジュリエット物語、あるいは

前回までのあらすじ


 ボッチコミュ障の高校生・柴田は、電脳の女神エレクトラにだまされて契約を結ばれてしまう。

 彼女の目的は、自分の神格ゴッドランクを上げること。そのためには有名人になり、お供えを捧げ、魔鬼フラクを倒せというハードモード!


 お供えパワーを得るため、金策に走る悩む柴田。

 父親から渡されたのは、亡き母が柴田のために遺した通帳だった──。

「柴田さん……」


 ホームルームのまえ、エレクトラがポップして話しかけてくる。


「和さんの起点マーカーレベル、まだ上がっています」


 今朝も和は電車に乗ってこなかったし、昼にも会えそうになかったのでエレクトラには校内のカメラを使って和の様子を伺うよう頼んでいたのだが。

 教室なのでいつものように会話するわけにもいかない。俺はスマホにメッセージを送った。


「いくつだ?」

「現在672です」


 多少スピードが落ちたものの増えている。けして減っていない。

 立候補取り消しの話がまだ広がっていないせいなのか、立候補と取り消しのゴタゴタが人に印象付けているせいなのか。それとも──。


「いくらぐらいお供えパワーがあれば倒せる?」


 通帳には300万近く入っていた。

 初めに30万ぐらい、それからは毎月3万円ずつ。


「……貯金ですよね?」

「おう」

「本当にいいんですか?」

「なんでお前が心配するんだよ」

「お母さんが柴田さんのために貯めたお金ですよ?」

「なら普通の金より余計に価値があるだろ。喜べよ」

「どちらかというと、柴田さんのメンタルが心配ですよ」

「神ってのは人間の善悪とか道徳に斟酌しんしゃくしないんだろ」

「そういうわけでなくてですね」

「あー、もううるせえ。決めたことなんだからいいんだよ」


 今日、バイト前に銀行へ行って引き下ろそう。

 通帳だと親の同伴が必要だが、キャッシュカードがあったからATMを使う。ただ引き出しの上限額があるから、1日で全額は無理だ。


「いくらあれば確実だ?」

「もう少し様子を見ませんか? 今のレベル差だとあまりに効率が悪すぎます」

「まだやると決めたわけじゃないって」

「……最低120万は必要かと。長期戦を想定すると、武器と防具の維持、時間圧縮すべてが指数関数的に増えてしまいます」

「そうか……」


 予想以上に多かった。

 レベルはほぼ倍で、差は300以上。それだけ無茶ってことなのか。


「よく考えてくださいね。これだけのお金があるなら、焦らなくてもきっとチャンスはありますよ」


 スマホで調べてみた限り、銀行ATMの引き出し上限額は1日で50万円。3日かかるか。


「朝と昼休み、放課後の3回でいいから、和のスマホを覗いておいてくれ。あと……そうだな、華子と生徒会長も」


 和はもちろんだが、お供えパワーの心配がないなら情報収集だってしたほうがいい。


「生徒会長さんですか?」


 用事が無けりゃ、面も見たくなない。

 あの目は俺の嫌いな目だ。


「立候補の件、あいつもグルだろ」

「はあ……」

「生徒会長は昼休みに探りを入れるから、そのあとで始めてくれ」

「わかりました」



☆★☆★



 昼休み、俺は生徒会長室に向かった。

 前回と同様、部屋には生徒会長・鳴子なるこさかきと「ノノさん」がいた。


「やあ、ようこそいらっしゃい」


 ちょうど二人も昼食を始めたところだったようだ。

 普通なら食べ終わる頃に出直すもんだろうが、今日はそういうわけにはいかない。和が俺を避けているなら、こいつから聞くよりないだろう。


「眉村和さんのことで、お話ししたいんですが」

「ああ。……悪いけれど、食べながらでいいかな? 麺が伸びてしまうんでね」

「どうぞ」


 鳴子はカップ麺、ノノさんはコンビニのパンだ。

 古めかしい生徒会室と相まって、なんだかわびしい。というか、二人を含めて無機質だ。


「きみは食べたのかい?」

「あとで食べます」

「よかったら、きみも何か買ってきたらどうだい? ここで話しながら食べればいい」

「いえ、それより話をお願いします」

「そう。僕たちだけ食べるってのも愛想がないから、なにか飲むかい?」

「いえ、けっこうです」

「なんだ、付き合い悪いなあ。──ノノ、コーヒー」

「はい」


 ノノさんが俺にコーヒーを入れてくれる。


「……それで。なんの話だっけ?」

「眉村和さんのことです」

「あぁ」


 鳴子はさっきからわざと俺をイラつかせているのか。

 まあ、どうみても善意があるとは思えない。


「立候補の取り消しは、終わったんですか?」

「いや」


 起点マーカーレベルの伸びからして想定はしてたが、最悪のほうだ。

 やはり和を一人させるべきじゃなかった。

 無視されても嫌がられてもついていくべきだったんだ。


「……どうしてですか?」

「それをきみに教えることはできない。個人の話だからね」

「個人の話で終わりませんよ。生徒会が関わっているし、手続きのプロセスにも疑問があります。生徒会が突っぱねたならともかく、本人の意思確認なしで勝手に立候補の手続きが通ったってことですよね。今後、同じようなことが起こる可能性があるということです。どうみても学校全体の──」


 俺の話をわざわざ手で遮って、鳴子が麺をすする。


「いや、悪い。食いながらだと、きみの話が聞こえないんでね」

「……公共の利益に反する問題ですよ。このままだと生徒会は自分たちのミスを隠そうとしてるように見られますよ」

「経緯も含めてそれはまだ調査中だ。公の問題とするなら、なおさらにいい加減な発表は混乱を招くだけだろ?」

「そんな難しいことですか?」

「推薦人にも事情を聴いているし、ことの顛末をまとめるってのは時間がかかるもんだよ」

「じゃあせめて取り消しができていないのは、眉村和さん本人の意思なのか、手続き上の問題なのかだけ教えてくれませんか?」

「同じことだよ。答えればきみは今回の件の原因を推測して、曲解するかもしれない。残念だが、答えられないね」

「……」


 こいつ、面白がってるな。

 ノノさんは俺たちから離れたところにパイプ椅子を置いて、無表情にパンをかじっている。スマホを見るでもなく、本を開くでもなく、ただ床を見ながら。

 華子を含めて、生徒会はまともなやつがいないのか。


「推薦人の名前を教えてもらえませんか?」

「できない」

「なぜですか? 立候補者や推薦人は公表されてるはずじゃないですか?」

「経緯調査中だからね。名前が公になっていると問題があるだろう。個人のプライバシーが侵害される恐れがある」

「和はすでに侵害されてるじゃないですかっ! 被害者がさらし者にされて、加害者を守るっておかしくないですかっ!?」


 思わず俺は怒鳴ってしまった。

 鳴子の思うつぼなのかもしれないが、こんなもん我慢できるわけない。


「きみはアンフェアだと思うのかな?」

「あんたたちは被害者の傷をえぐってるんだよ! 加害者をかばって、今回の問題を和に押し付けてるようにしか見えない!」


 推薦した人間が明らかにならなければ、和の印象だけが強くなっていく。取り消しをしても、このままじゃ起点マーカーレベルは下がりにくくなるかもしれない。


「じゃあ、きみがその『加害者』をさらせばいい。あれだけ噂になったからね、調べればすぐに誰か分かるよ。──そうしてきみの思う公平性で、集団リンチにかければいい。たいしたリスクでもないだろう」

「……無責任なこと言わないでくださいよ。ただの生徒に、文句があるならお前がやってみろなんて、最低の言い訳ですよ。生徒会はお飾りですか?」

「この場合の公平性とは、被害者と加害者の比較ではない。個人とルールの照合だ。それが法ってもんだよ」

「俺にはそのバランスすら取れていないように思えますけどね」

「それは身内びいきだよ、柴田くん。僕には生徒全員に責任があるからね。きみは無責任に報復をして、私情とやらを満足させたいだけだろう? 相容れることなんてできない話だ」


 言葉はもっともだ。

 だが、どこかで見たことのあるその目は、言っている。

 愉快でたまらないと。


「……失礼します」


 俺が生徒会室を出たあと、エレクトラがゲンナリしたように言った。鳴子は、俺の背中を見てぞっとする笑顔になったそうだ。


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