28 成金ソロプレイ
前回までのあらすじ
ボッチコミュ障の高校生・柴田は、電脳の女神エレクトラにだまされて契約を結ばれてしまう。
彼女の目的は、自分の神格を上げること。
そのためには有名人になり、お供えを捧げ、魔鬼を倒せというハードモード!
和の弁当は女子トイレに捨てられていた。
さらに敵を作る柴田。
二人は学校で孤立していた──。
「これが入会の申込用紙なぁ~?」
「おう」
「んで、これが料金表~。まずネカフェか、カラオケか確認して、1時間以上なら、パック利用金すすめろよ~」
「おう」
「ここに座席表あっからぁ、喫煙と禁煙席確認な~。で、客に選ばせてあとで忘れずマーク~」
「おう」
「ドリンク補充とフードはまたおいおい説明すっから~、とりあ~ずあたしの横立って接客から覚えようぜ~」
「おう」
「なんか質問あっか?」
「お前、マジで働いてるんだな」
「ど~いう意味だよ! バカにしてんのか、ブチ食らわすぞ!」
「いや尊敬っす、リスペクトっす、ゲキ憧れっす、バニャ先輩!」
「うへへへ~うへ~うへ~」
超アホっぽい。
放課後、俺は「ソロプレイヤー」に直行して、千羽なな──バニャから指導を受けていた。
今まで働いたことなかったからわからなかったが、ネットカフェも結構覚えること多いんだな。小売店みたいに商品知識もいらないし、コンビニみたいに業務が多いわけでもないから、きっと楽じゃないかというのは甘えだった。
「あとシフトとか連絡してぇから、ん」
「その手つき、パワハラだぞ、お前……」
「それもうやったし! いいからスマホ出せよ、バカか!」
「ツバ飛んでるって」
「うるるせぇ、ぺっぺっぺっ!」
俺がスマホを出すと、バニャがアドレスを登録する。
「JK唾液無駄撃ちすんなよ。後半のステージで苦労するぞ?」
「ワケわかんねぇボケすんじゃねえ~よ! キモいわ!」
「あーあ、俺もツバ売れたらなー。お前みたいに、第6デバイスとか買えるのになー」
「ちょ、あたし売ってないかんね!? ちゃんとここでバイトして買ったぞ! ……まじでおめぇ、お客さんいるときにそういうこと言ったら、ぶっ殺すかんな!」
「むしろお客さん喜ぶんじゃね? 魚の醤油入れ持って殺到するかもよ?」
「アホかボケぇ! んなもんあたしのスマイルだけで十分愉悦だわ! あとなんで醤油入れ!」
「よーし、笑ってー?」
「にこりー! はぁい、バニャ~!」
VRMMORPGでやってる決めポーズをとるバニャ。
「……ツバ売ったほうがいいな、うん」
「シネシネシネシネシネシネ! 目ぇ噛んでシネ!!!」
などと遊んでいられたのも始めのうち。
夕方になると学校や仕事を終えたお客さんが次々と来店し、それをバッサバッサとさばくバニャ。まさに豪腕。まざまざとコミュ力の違いを見せつけられた。
わきにつっ立ってるだけでも、働くって疲れるなー……。
☆★☆★
疲れ果てて帰宅。
「エレクトラー」
「呼ばれました! 飛び出ます! じゃん!」
だから怒られるって。
「俺の起点レベル、教えてくれ」
「なんと現在、73です!」
「よーし! このまま行けば、すぐ100だな」
「それがですね柴田さん……お昼休みに見たのですが、和さんの起点が128になってます……」
「はあっ!? なんでだよっ!」
「有名税といいますか。柴田さんの話題が出ると、自動的に和さんの名前も出てしまうのでしょう。なにせ眉村お兄さんのこともありますし、どちらが注目されるかというと……」
「それじゃ差が縮まらないだろ! いや、むしろ今日のは差が開いてる……」
俺が目立てば目立つほど、和を巻き込むなんて。
予想してなかった俺はバカだ……。
「柴田さん、じれったいかもしれませんが正攻法で行きましょうよ」
「ダメだ! あんなもの平気でいられるわけがない。弁当捨てられたり、メガネ隠されたり、おかしいだろ……」
「ですが、今のやり方では悪化させかねませんよ? 100超えの人に引き寄せられている魔鬼というだけでも、影響力は大きいのです」
「なら、どうすればいいんだよ……」
イヤガラセを止めさせるしかない。
それが最善策だが、ともかく和への関心を削いで俺へ向ける。その時間を稼ぐためには、対処療法でもなんでもやってみるしかない。
「予定変更だ。明日、拡張で和の魔鬼を完全攻略は無理でもともかく叩く。いま一番レベル差縮まってるはずだろ」
「でもお供パワーが。柴田さん、バイト始めたばかりですよね?」
「多少はなんとかなる」
「おお、あるんじゃないですか~」
「そうなるから言わなかったんだよ! あと、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「なんでしょうか?」
「拡張って、規模と活動時間がお供えパワーで変わるんだよな?」
「そうですね。あとは時間圧縮率です」
「時間圧縮率?」
「拡張すると、現実世界の身体は抜け殻になります。その時間が長すぎると大変なことになります」
「お前! そんなこと聞いてないぞ……」
「聞かれなかったですから、言わなかったんですよ。──時間圧縮することで現実世界での経過時間を減らします。そうやって少しでも抜け殻状態を短くするのにお供えパワーを使います。……とはいえ、私の神格も上がっていますから、圧縮形式もバージョンアップしています」
「……本当だろうな?」
「もし危険なら警告を出しますから、安心してくださいませませ」
「いやお前が一番の不安材料なんだが……?」
「あいかわらず疑い深いですねー。ほとほと感心しますよ、私」
「お前の感心って呆れると同義だろ……。まあ、いいや……それで規模の話なんだが、まず防具はいらない。ある程度はお前の力で防げるんだろ? アプリとか」
「致命的なのは防げるとは思いますが……それでもどんな悪影響が出るやら分かりかねますよ?」
「それでいい。あと武器も包丁ぐらいのサイズでいいから。さらに言えばポリゴン数を最低まで落とせば、消費を抑えれるか?」
「それは可能です。いっそ棒みたいにしてしまえば、相当節約できますよ」
「よし、それでなるたけ活動時間を伸ばしてくれ」
「やってみる価値はあるかもですね。では……お供えタイーム!ですよ!」
「……ちょっと待て。一つ、納得いかないことがあるんだが?」
「もー、なんですか! 水を指しますねえ。指しまくりますね。柴田空気読めない虎ですか?」
「無理やりすぎるわ! ──いやさ、食べ物とかのお供えは俺が食べてもいいのに、なんで金はダメなんだ?」
「あー、そこですか」
「ピンポイントでそこ! お前、俺の経済状況わかってるだろうが」
「えーっとですね。……お酒や食べ物は神とともに摂ることで血肉を分けるものですが、お金はものと交換するための道具ですから、それそのものに価値はありません。それでも自分にとって大切なものを奉り納めるゆえに、神は価値を認めるのです。ようは『お前のリスペクト見せてみろ!』ってことですよ」
「なんか都合よすぎるんだが?」
「いいから、早くやってください! このあと私、柴田さんの武器作って調整するんですから」
「……わかったよ」
俺は財布から出した千円札に火を点ける。
瞬く間に火が大きくなって紙幣は燃え尽きた。
「よろしいでしょう。続けてください」
次々と燃やしていく。
「うー……」
そして一万円札。
キツい。
1枚、2枚、3枚。
火が点くたび、ため息が漏れる。
「どうだ明るくなっただろう」
「大正ロマンですねえ~」
「これでバイト辞めちまったら、俺しばらく歩いて通学するハメになるぞ……」
昨日バイトに行く前に俺は持っていたゲームを中古屋に売り払った。さらに親父からもらった定期代も合わせて燃やした。計3万6000円。
すべてが灰になった。
やるしかない。