2、兵士を倒す
シリアス物のサブタイトルつけるのが難しい
地上に落ちた幾多もの黒球。
それは圧倒的な質量で地面に埋もれている。
それが何かは僕には分からない。
しかし次の瞬間には僕は見た。
ーーウゥィーン、ガシャンッ! ギィギーッ、ガシュッ!
ぎこちなく形を変形させる黒球、それはやがて人の形へと成る。
身長は2メル、横幅は少し広い程度。
しかし腕は1.5メルと相当長いリーチを持っている。
そして漆黒の光沢の中で唯一妖しく光る赤の2点。
まさしく瞳のように頭部らしき所に付いている。
それが何体もいるのだ、意味がわからない。
その正体も、何のためにここにいるのかも。
赤い光が僕を照らす。
『☆○+¥°#♪*●』
聞き覚えのないノイズの多い声。
しかしそれを魔獣の声、と認識しようはずがない。
もっと不吉でもっと無機質な何かだ。
嫌な予感がした。
この場からすぐに逃げ出したい。
そう思える何かがあった。
だが逃げ出そうとした時、それは遅かったのだと知る。
『○○*ーーー☆$<^〆』
揺らぐ黒の影。
僕を照らす赤い光が視界を埋めた。
大きく後ろに振りかぶった右の拳。
身体を捻り放たれた一撃は僕に襲いかかった。
「くっ!!」
避けきれないと悟った僕は伸びてくる腕をクワで叩き軌道を逸らす。
クワの柄の部分が折れそうな音を奏でる。
ギリギリの所で掠れた一撃は地面へと着弾し減り込ませていった。
僕は目の前の何かが拳を抜いている間に逃げる。
理解した。
僕はやっと理解できた。
逃げる中、僕はアレが何か理解できた気がした。
コイツは“敵”なのだと。
それこそ魔獣などとは別種の。
それに気づいた時にはまたもや遅かった。
黒の敵はすでに動き始めており、もう僕の元へ来ていた。
更に撃たれる二つの拳。
踵で地面を斜めに蹴ることで避ける。
しかし今回はそんなに甘く行かなかったようだ。
地面から離れた足に飛来する瓦礫の数々。
それの内の一つが脚へと突き刺さる。
脚の繊維が断裂する痛みは流れ、更に血管を抉った血が空気を汚す。
痛みから上手く着地出来ずに崩れ落ちた。
左足、それはもう動かない。
骨までは届いていないものの神経を痛めるそれは到底話を聞いてくれない。
もう逃げることは不可能に近い。
そんなことを意に返さず拳を振り上げる敵。
ーークソッタレ!!
そんな愚痴を心の中でこぼしながらクワを再度振るう。
今度は敵の腕に、ではない。
敵の足にだ。
『@☆×>=%0$〒!!』
けたたましい音と共に崩れ落ちる敵。
拳は態勢を崩したがために見当違いな場所に落ちる。
僕はその間にクワで地面を叩き、身体を起こす。
そして片脚でバランスを取りながらも今にも起きようとする敵にクワを振るった。
硬そうな所は幾らでもあるが、その外殻のような体表面にも節はある。
特に首の部分は節目が多い。
そこを狙い撃つ!
ーーバギィイン!!
クワが砕けると同時に敵の節も砕ける。
敵の頭部に灯っていた光は少しずつ散っていきやがて消える。
一応勝ったのだと理解はした。
その時、安心したのかうつ伏せに身体が倒れる。
少し暑い地面が体皮を焼いた。
脚から滲み出る赤い血はもうすでに乾いて跡を残していた。
しかし安心する暇も無かったようだ。
先程の敵と同様の軋む音が辺りから聞こえてきた。
地に這う頭を回しその正体を見る。
ーーやっぱりか・・・
そこにいたのは先程同様の黒色の敵の数々。
苦戦して勝てた敵が何体もいるのだ。
冗談はよして欲しい。
やがて黒の兵士がクワの刃先を握り、僕に向ける。
思わずゾッと悪寒が背筋を伝った。
クワに反射する赤の光はどうにも血を連想させるもので今まで何人もの人々を葬ったギロチンを思い出させた。
ーーああ、死んだなコレ。
そうして土埃が立ち、金属の輝きが首元に迫った。
だがその瞬間、新たな漆黒が視界の端に映った。