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紅と黒の霊媒師  作者: 麦猫
第1章 希望の紅色
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第一話

 

 太陽がまだ真上に上らない午前時。

 月崎輪(つきさき りん)は体力を全て使い果たし状態で都会を歩いていた。春頃とは思えない日差しは、地面のアスファルトを十分に暖め、歩く者を苦しめている。

 制服のあっちこっちに汚れが見受けられ、依頼を終えたばかりだと思われる輪に、隣から天使の祝福のような提案が発される。


「輪くん、付き合ってくれたお礼に昼飯奢るわ。それと報酬をまだ分けてなかったから、ついでにどうするか決めましょう」


 暑い日差しにも負けない、元気を表したような光沢を放す金髪の少女はにっこりと微笑む。いつも隣から見せてくれる可憐な笑顔は、救いを指し述べる天使のように輝かしい。

 ほんのりと赤く染めた頬と、背筋から垂れる滴で汗ばんだシャツは、異性からの視線を集め、チラ見する輩がチラホラと見受けられる。


 彼女の名は舞草七海(まいくさ ななみ)。今、人気上昇中のメガネっ子美少女であり、最年少で【霊位】に至った新進気鋭の霊媒師である。

 輪と同い年にも関わらず、学園でも生徒会長に選ばれ、複数の事務をこなす天才だ。だが、言い方を変えると常識を容易く破り、学生では絶対無理とされた階級まで辿りついた奇行少女でもある。


「ごっつぁんです」

「何それ、相撲でもはまったの。人の趣味を動向言う訳ではないけれど、体格以前に小心者感が漂っていて弱そうだから今すぐ止めた方がいいわ」


 つい乗りで、似非力士風に答えて見たが全く受けなかったらしい。冗談でも言ってないと、周囲の鋭い眼力で押し潰されるそうになるが、逆に可哀想な子のように接しられると辛い。


 やっぱり階級の器だろうか。


 一般過程で学生が会得できる階級は、下から数えて三番にあたる【輝位】までである。毎日勉学に励んだといって、貰えるものでもなく、目に見える結果を提示しなければならない。

 知識が豊富でも、活用できるだけの技術がなければ、どの道、霊媒師になっても早死するだけなので、簡単に上がれないようになっている。

 でも、七海には木登りするかのように感じたのか、輝位より二つ上の【霊位】に辿り着いて見せた。誰も驚愕するのは当たり前だろう、誰一人この若さで成し遂げられなかったことを、成し遂げたのだから。


 輪も聞いたときは、エイプリルフールかと思ったぐらい信じる気などまったくなかったけど。後日、舞草に教育という拷問が行われ、無理矢理、理解させられた。

 怖かった。

 等身大パネルを作るという名目で、ひたすら銃の的にさせられる気持ちは。

 あれ、振り替えてみれば、何が七海の逆鱗に触れてしまったのだろう。まあ、終わった過去を蒸し返しても、どうしようもないので諦めるが、些か過激すぎないか。


 よし、仕返して見よう。定期的にストレス解消することも大事だからね。


「ふっふふ、七海くん。相変わらずようしゃしない毒舌ありがとう。現代の戦姫(ビジョンプリンス)という痛々しく、可愛い名前は伊達ではないな。ふっふふふぅぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」

「輪くんって、相当重症なドN病なのね」


 呆れているのか楽しんでいるのか定かではないが、七海は真面目感を漂わせる眼鏡をくぃと上げ、スカートの裾から微かに見せるホルダー銃を手に取る。

 それが礼装媒体だと認識できても、一切の無駄を無くした俊敏な動きの前では何の意味を持たず、俺は下半身の大事な部分(ゴールドボール)へと、向けられた銃口を見送ることしかできなかった。


 ぶちゃ。



# # #



 地獄の関門を無事に越えた輪は、テーブルの上で突っ伏していた。

 七海の指示に従って立ち寄った店は、全国でチェーン展開している世間で知られたハンバーガー店だ。時期外れの暑さに耐え兼ねたか、それとも親切心なのか店内は冷房がキンキンに効き、昼時前なのに社会人が屯していた。


 下半身の痛みがそれなりに落ち着いてきたところで、ぐぅーとお腹から響き、空腹の合図を知らせる。なんやかんだで昨日の夕飯から何も食べていなかったことに気づき、しぶしぶ財布を見るが大した収穫はなかった。


「輪くん、人の話聞いてた」


 背後から清々しい元気な声が聞こえたので振り向こうとするが、突如、頭部に冷たい感触が伝わったので意識が逸れる。見遣ると、お馴染みの赤い柄が視界に飛び込み、キンキンに冷えた飲み物だと一目で判る。


「まさか、金がないことを見越して、わざわざ見せびらかしに来たのかよ。おまえも相当ねちっこいな。おい」

「それはそれでおもしろいけど、今回は正真正銘の奢りよ」


 七海の表情は今だ異性を快楽させる、天使のような笑顔で分かりにくいが、冬に遡かったような凍える殺気と、先ほどよりもトーンが下がった声音で逆鱗に触れてしまったと察した。


 “二つ名”優れた技術と経験が認められた霊媒師に与えられる尊敬の名前。

 自分の意思に関わらず、世間で人気と敬意が出そうな名前が募集形式で集められ、人気投票という死闘を繰り広げながら最後に残ったのが選ばれる。


 募集は誰でも可能で、輪も七海の可愛さを最大限に生かせる名前を、数百くらい考えたが全て落選した。結果的には残念であるが、今の名前も結構いいので気にしてはいないのだが、本人はまったく違うらしい。

 七海は相当嫌っている。

 そもそも二つ名をつけること事態を、全否定しているため説得しようもなく、その話題を少しでも触れると、さっきの俺みたいになる。

 あそこまで殺気みじた攻撃をしてくるとは思わなかったので驚愕したが、今後、その話題について触れるとさらに危険なので自重する。


 飲み物を受け取ると、七海は目の前の空席へ座り、俺の分をぶっきらぼうに投げ付けた。嫌なら奢らなくてもいいのにと、言い掛けそうになるがグッと堪えて素直に受け取る。

 これ以上、不機嫌にさせると輪の安否を左右させるので、奢りなら有り難く頂く。


 けして、食べ物欲しさに吊られたからでない。


 包みから取り出すと、肉汁がたっぷり染み渡ったハンバーガーが俺の鼻孔を激しく刺激し、涎を堪えながら喉を鳴らす。新商品のビックリハンバーガーであったため、「本当に奢りですよね」という視線で七海に向けると、彼女はふ~とご満足そうにストーローを加えながら、メロンソーダを味わっていた。

 

 いつ見ても様になっている仕草をしてくるので、異性である輪も気にするが、狙ってやっているのだろうか。わざとなら間違いなく成功している言えるが、無意識にやっているのなら達が悪い。


 視線に気付いた七海は、ストローから口を離し、疑わしいそうに見据える。


「何、まだ食べたいの」

「ぇあえ、全然これだけで十分です」


 視線ってそんなに物欲しそうなの。ないと言い切れないので、罪悪感に呑まれるならしぶしぶ手元の物にかじりつく。

 旨い。

 さすが、店で高額類に入るだけあると思い、黙々と食らう。

 半分くらい食べ終わった辺りで、七海がふと何かを思い出したのか、スカートのポケットを漁り、紙切れをテーブルに置く。見るからに小切手のような物なので、依頼の報酬分けである一目散に理解し、一旦食事を止める。どうしょうかと悩み出す輪に、七海がざっくりな回答をしてきたので、驚愕する。


「分割でいいわ」

「ぇええと、いいんですか。半分貰って」

「別にいいわ、またこの後依頼で、それの数倍の金額稼ぐから問題ない。全額でも良いくらいよ」

「全額は遠慮しときます」


「そう」と頷いた七海であるが、瞳がぎらっとぎらつき、悪知恵を思わせる腹黒い笑顔で俺に視線を向ける。冷房の効きすぎなのか、辺りが急に冷気空間へと変わり、皮膚をビクビクと震わせる。


「不注意であれを攻撃してしまったことは謝るわ、ごめんね、輪くん。だから、治療費、賠償金としてこれを貰ってくれないかしら」

「......」

「こちらとしても受け取って貰えると有り難いのだけれど」


 それは小切手だった。さっき分割にした金額と同じで、明らかに先程分割したもう片方のだと分かる。

 罠だな、と判断できるが一切無駄口など許さないという狂気という冷気が襲い、手の感覚が微かに麻痺していく。

 断った場合、賠償金を受け取らせるため、問答無用で攻撃してくるだろう。

 物理的には何ともなく数時間、痛みが続くだけの痛撃弾であるが、痛いという感覚には変わらないので、なるべく受けたくないのが理想だ。

 答えなど始めから決まっているのに関わらず、やっぱり貰いたくないという気持ちが拒んで、動きが止まり掛けるが七海がさらに追撃してくる。

 「七海が指で下を見ろ」と指図してきたのでしぶしぶ見ると、光沢を放つ金属の筒があり、礼装媒体が俺の大事な部分へと向けられていた。


 “礼装媒体”とは術印が施された物であり、悪霊祓いの道具を指す。

 主に銃に施されることが多く、悪霊だけが霊媒師の敵ではないので、もしもの時のために攻撃手段として持ち歩きが許可されている。

 一般に金属弾が装填できる銃を連想されるが、霊媒師が使う銃は霊子の塊を発射するため、物理的には殺傷力ないが精神に痛みを与えられる。

 使う弾薬によって効果が変わるが、防衛手段として機能するので多くの学生に愛用されている。


 今さらだが、輪への選択権など初めから存在しなかったと痛感し、よくわかないまま怪しい小切手に手を伸ばした。


「有り難く受け取らせて貰います」

「よかった、もし断っていたなら」


 これ以上聞いたら、精神的によろしくないので両耳を手で押さえて音を遮断する。一時的であるが、この世と隔絶した空間へと導かれるように逃避した。


 数分経過後・・・


「輪くん、わかったよね。人が親切に恵んで上げたお金を下らないことに使わない」

「いやでも」

「口答えしない。数日間、録なもん食べていないのが見え見えよ」


 七海が財布事情を全て把握しているような発言したので、視線を合わせると「そうでしょ」と睨んできたので確実にバレバレだと理解した。

 輪のお財布事情は現在進行系で金欠気味だ。その為、スーパーで格安で売られているもやしを使った、もやし生活を余儀されている。

 発端はたまたま図書館で見掛けた術印の本だ。子供向けな表紙であるにも関わらず、書かれている内容が特殊過ぎて読むだけでは理解できなかったため、それを試すために材料を集めた結果が今である。

 

 数秒沈黙の時間が続いていると、七海の周辺から着信音が流れ出したので無意識に出所を追う。やはり、七海であるらしく、スマホの画面を見るや帰り仕度をし始めた。


「ちょっと、野暮用ができた」

「ありがとな、今度お礼する」


 そよ風の如く行ってしまった七海を見送り、テーブルの上に視線を戻す。輪よりも少し多い量だったにも関わらず綺麗に平らげ、片付けやすいように一つの場所にまとめれていた。

 さすがだな。地味で誰も気にしない所までしっかりしている。


 輪は注文したビックリハンバーガーを、ガッツガッツと食らい、微笑ましい顔で店を後にした。



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