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断罪聖女の禁忌書架  作者: カルーア
第一章 紅柩の主と禁呪使いの継承者
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第二十五話 貴賓室からの風景

前話で一部修正がございました。



侍女に貴賓室へと案内されたクレアとレオナルドは持て余した時間を各々の思索に費やしていた。正確に言うのであれば、クレアは女王となったアレクシアとの交渉を前に知恵を絞る一方で、レオナルドは覚めない夢に幻想を見ていたのだった。


「あ~、気になって仕方ないわ。大口を叩いたあの自信は何処から来たのかしら?それに……。」


クレアは宛がわれた部屋を溜息交じりにゆっくりと見渡した。恐ろしく飾り気のない、良く言えば病的なまでに清潔感を重視した場所であった。王族を接待する訳ではない事がこの部屋に通された時点で判明し、クレアは聊か心を曇らせたのだ。


「あの一文の意味がどこにあるのかしらね。用意された何かのためでないとなると、どう解釈すれば……。」


「もしかして、言葉通りの意味かも知れませんよ?」


突然クレアの思考に割って入ったレオナルドは無機質な声で答えた。彼は依然として虚ろな顔を天井に向けているが、それでも確かな意思が先程の発言に込められていたのだ。


「やっと正気に戻ったのね、レオナルド。それで、どういう事かしら?」


「理由なんてないですよ。ただ、昔の式典で見たお姫様が性格を急に変えらないと信じているだけかも知れません。」


「素直で優しいお姫様の一文だから文面を鵜呑みにしろと?」


「それは、少し違います。わざわざ招待状に同封した手紙ですから、何かしら裏の事情はあるはずでしょう。ですが純粋に文面通りの行動を願っているだけで、そこから解釈しろといった貴族のやり方ではないという事です。」


「「お願いだから部屋で待っていて下さい、理由は言えませんが貴方たちのためなんです」って?含意のない手紙なんて馬鹿らしいわ。」

  

見下すような冷笑を浮かべたクレアには王族特有の高慢さが表れており、それに対してレオナルドは気怠そうに肩をすくめて見せた。


すると、急に天井に吊るされた水晶の照明が少しばかり揺れ出し、レオナルドが先程とは別人のように機敏に周辺を見回し始めた。そして何かを感じ取ったのか、レオナルドは床に耳を張り付けた。


「レオナルド、唯の地震じゃないのね?」


「はい、一瞬でしたが魔力の流れがありました。きっと、どこか遠くで何かと繋がったような気がします。」


「大体の方角は?」


「丁度、僕たちが泊まった宿のある西地区だと思います。」


「窓から見えるかしら?えっと、西は……何よ、あれ。」


クレアが自身が来た宿の方角を窓を通して探したところ、西地区全体に巨大な魔法陣が現れていたのだ。光沢を増していくそれは円状の範囲を確定させるように天まで届く障壁を築き始める。しかし、その驚きはすぐに恐怖の感情に包まれてしまった。


魔法陣から鎖が次々と飛び出し人を貫き出したのだ。その光景は夢でも見ていると勘違いしそうな程に心に波打つ戦慄をもたらす。レオナルドは事態の把握のために使用人の有無を部屋から顔を出して確認した。


「駄目ですね、廊下には誰一人として使用人が見当たりません。ここから動くべきか、それとも留まるべきか……どうしますかクレア様?」


突拍子もない事態に咄嗟の判断をレオナルドから迫られたクレアは苦悩する。命取りになる可能性を秘めた選択である以上は安易に行動できず、クレアは必死に考えを巡らした。


その際に衣服を握りしめていたクレアは懐の違和感を感じ、天啓の如く仕舞い込んでいた魔道具の存在を思い出した。何れの選択肢を取るにしても情報を集めない事にはどうしようもなく、その解答に適した人物を即座に頭に描いた。


「そうだ、この魔道具ならあの人が来てくれるかも!」


クレアの魔力が流し込まれた魔道具は起動した事を示すように無色から赤色に点滅し始めた。音を立てる事のない魔道具はクレアの静かな希望に焦りを与え続ける。


ひたすら例の侍女が来てくれる事を願っていると、凍てついた廊下を騒がす足音が二人の耳に届けられた。扉を軽く叩く音にクレアとレオナルドは互いに顔を見合わせ頬を緩ませる。 


「早く入って頂戴。」


「失礼します。クレア殿下、何か御用でしょうか?」


「私が呼び出した理由が分からなければ貴方の正気を疑うわ。」


窓の外に視線を向けたクレアは広がる魔法陣の引き起こしている惨劇を緊張した面持ちで見つめていた。導かれるように侍女は外の様子に息を飲み、乾いた口から切迫した掠れ声を上げながら腰を折る。


「大変失礼いたしました。……その件につきましては私どもも非常に困惑しております。突発的な事態ですので満足する答えを私が持ち合わせているかどうか。」


「それでも構わないわ。あの魔法陣は何かしら?魔法陣から出てくる鎖が人を襲っているように見えるけれど。」


「魔法陣そのものについては分かりません。ですが、起きている内容はクレア殿下のおっしゃる通りでございます。」


「発動源すらも特定できないのかしら?これだけの規模となると絞られるはずよね。」


「不確かな事を申し上げるのは心苦しいですが、恐らくは鐘塔かと存じます。」


「鐘塔?」


鐘塔という言葉に釈然としないクレアの顔を横目で確かめた侍女は、巨大な魔法陣が敷かれている西地区全土の中央に置かれた鐘塔を指し示した。その鐘は戴冠式の始まりを告げる際に使用されただけでなく、時刻を民草に伝える役割も担っていた。


魔法陣の効果を停止させるためにクレアが策を練ろうとした矢先、城外から唸るような音が窓を突き抜けてもたらされた。風圧に震えた窓の奥には宝石のような光を纏った一筋の槍が飛来し、目にもとまらぬ速さで鐘塔の支柱に大きな穴を穿ったのだ。


そのまま地面に刺さった槍は陥没を作りながらも形を残さず破砕する。すると西地区全体を覆っていたはずの魔法陣は見る影もなく消し去っていた。しかし、その槍の被害は周囲の空間を巻き込む災害に近いものでもあったのだ。


「鐘塔が……崩れるわ。」


青ざめた声でクレアは呟くと、一同は全身を棒のように硬く強張らせた。支柱を失った鐘塔は徐々に傾き始め、やがては身体の芯を震わせる轟音と共に地面に横たわった。そして、土煙が一斉に辺り一面を覆い隠していったのだ。



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