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1/3の答えを

作者: 紅の小鹿


「それでは今から、この公式について…」


校舎の窓から差す日の光、

数学の担当教師の甘だるい公式の授業、

クラス内のノートに書き込むシャープペンシルの音。

この空間にある全てが俺の脳に誘惑を仕掛け、睡眠という甘美な堕落へと誘い込もうと、睡魔の悪魔は満腹感の名の下に俺へと襲いかかって来る5時限目。


僕は抵抗しようと

指の周りでクルクルとお気に入りのシャーペンを回転させてみるが

その旋回運動すらグルグルと螺旋階段の如く僕を夢の入り口に転がり落としてくる。


今朝の天気予報で言っていた【気温20度、湿度46】とは、

常人には、これ程までに抗い難い気候という事であったのだと

僕の16年3カ月の人生に体感と共に教わるハメになってしまった。


最後に覚えているのは窓際のクラスメートが窓を開けた際に入り込んで来た

秋の少し冷たく、そして優しい、そんな風が頬を撫ぜて過ぎ去る…切ない感覚だった。


だからだろう…夢に出てきてしまったのは

優しく、切ない遠い思い出。

彼女達は僕なんかに何を求めていたのだろう…

もしも、次があるのなら…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ーーー。それでは1/2掛ける1/2は、なんでしょう?」


クラスの皆は沈黙を貫き、絶対に先生と視線を合わせないよう机を凝視し始めていた。

もちろん授業内容を聞いていれば答えられる問題で、そこまで難しい問題でもない筈なのだ。

だがクラス内の多くは『皆の前で答える』。という羞恥心を拭いきれず、

回答が分かって居ても自らが答え様とはしない、そんな空気が出来上がっていた。


「はぁ…。では先生が指しますので、指された人は席を立って答えて下さい。」


先生の一言で教室の中は、どよめきが奔った。

これで担任の先生の選択次第で否応なしに回答権が回ってきて、

衆目の中、立ち上がり答えを言わなければならなくなってしまった。


僕も誰かが答えてくれるという希望に縋っていたが

もちろんそんな希望を僕のクラスメート達が与える訳も無い事など

クラス替えの際、自己紹介の順番で揉めた初日に重々に承知した筈なのに


(夏も終わってもう涼しくなってきている今日に至るまで

僕はその希望を捨て切れずにいたとは…)


「それじゃ…」


先生の言葉で心臓がいつに無く早く脈打ち

手の平から汗が滲んでくるのが分かった。


何故僕が簡単な答えにこんなにも焦っているのか?

それは明白…


(…答えが分からない。)


先生の特徴、授業が終わる5分前、クラスの皆の反応をみれば

簡単な問題なのはすぐに分かるのだが…


そう、、、だが!僕はつい先程まで、

睡眠という人類がこの世の中を生きる為に編み出した

究極にして最強の現実逃避手段から帰還したばかりで、

先生が言う「ぶん」というのが何を指し示しているのか分からない!


寝る前は確かに算数の権化とも言える小数点の掛け算という

鬼畜にも似た所業をしていた筈なのだが…


(何故僕の逃避中に算数というのはまた新たな刺客を送り込んでくるんだ!

だから算数は嫌なんだ!

まず、何よりも重要なのがこの算数で使われる文字…アラビア数字だぞ?

なぜ、日本人である僕等が日本の漢数字をさて置き

アラビアンな数字を使わなければいけないのだ!

十進法だか三振法だか知らないが、まだ幼い僕達に多文化交流を求められても困る!)


とまぁ…色々と逃避もしてみたが

それは一旦ここまでにして

僕は唯一残された手がかりとなるであろう物に目を向けてみた。


(黒板に書かれた1と2の間に立つあの棒→『/』が

もしや先生が言う『ぶん』という呼び方の記号では!?)


僕の謎の閃きが冴え渡るが、


(それなら『1ぶんの2』が正しい言い方なのでは?

何故先生の言い方は『2ぶんの1』と逆転して話しているんだ?)


だが謎が謎を呼ぶだけでどうする事もできない。


分からないモノを考えても埒が明かないので他にも手がかりになりそうなものが無いかと

黒板を再度見直すと

林檎の様なモノ、ゴリラの様なモノ、ラッパの様なモノが

黒板に真っ二つにされて描かれていた…が何か意味があるのだろうか?

林檎、ゴリラ、ラッパ…!!?!!?


(これは『しりとり』に用いられる黄金の回避手段!)


ラッパの次はパンツと下品に続けるか、

もしくはパリピィーと今風にアレンジしていくかの2択になる『しりとり』の奥義!

なぜここで算数の授業に『しりとり』が出てくるんだ?


僕が何かを掴みそうになりながらも

だが刻一刻と近づく先生からの死刑宣告。


(しりとり、Siriとり、しりtori、Siritori、Siamshi…)


答えには未だに辿りつかないが

僕は一縷の望みを託して…もといい諦め、黒板からを先生へと向かわせてみた…

先生の指先次第では僕にはまだ寿命がある…が

だが無慈悲。

先生は完全に僕の座る真ん中の列に狙いを定めたのか

腕が下がって来るのが目に映るだけだった。


「…………神ょ。」


《サンタクロースと神様は信じない。》と先日言った覚えがあるが…

人間、信じる力が偉大だと思う!という事で

不遜ではあれど神様へと願いを捧げてはみるものの…


先生の指はこちらへと舞い降りた。



……


………


「はい。中島君答えて下さい。」


(いいいいぃぃっよっしゃーーー!!!)


最後の最後

こんなにもバチ当たりな僕が捧げた神への願いは聞き届けられたのか

死刑宣告を貰ったのは僕の後ろの席に座る中島だった。


(神様あざっス!今後もヨロっス!)


僕は晴れやかな気持ちで後方へと体を捻って中島を見ると

中島は勢い良く立ち上がり、清々しいく、そしてハリのある声で…


「はい!分かりません!」


「では、前の席の糸井川君お願いします。」


(あのクソヤロ誘爆させやがった!?)


「……。 3ぶんの1は純情な感情って聞いた事があります…。」


僕がなんとか記憶を辿って出した答えはもちろん不正解だった。


その日の算数の授業は

重傷者バカ2名で幕を閉じた。




「糸ッチ!」


放課後になりクラスの皆がワイワイと帰り支度をする中

後ろから呼ばれ慣れない変なあだ名が聞こえた


「糸ッチふれこーで野球やるんだけどメンツ足んなくて…来れる?」


いつもは『糸井川』と普通に言ってくるのに…

誰からも呼ばれた事の無いあだ名だし、

『ふれこー』は触れ合い公園の略で分かるが…

あそこゲートボール場と遊具と噴水の公園だし、

メンツ足らないとか…足りた試しないし、

なんで前の席の僕が放課後のもう帰る一歩手前で誘われるのか…

色々言いたくなる誘い方だが


「僕を誘った事を後悔するぜ!ホームランを打ってやんよ!島ッチ」


「お!糸ッチ言ったな!んじゃ打てなかったら帰りウマ棒な!」


「打ったら島ッチの方が奢りだからな!」


「良いぜ!んじゃ帰ったらソッコーでふれこー集合な!

ヨッシーとタケオは誘っといたから!あとお願ーい!」


ランドセルを背負って駆け出す中島に手を振って別れ…

…。

……。

………。はぁ?!?!?!


「ちょ!中島!ヨッシーとタケオだけかよ!」


(4人で野球とかアイツどんだけバカなんだよ!)


「俺の家遠いから早く帰んなくちゃ!糸ッチあとよろしく!」


中島は教室のドアから顔だけ出してそれだけ言ってドタドタと行ってしまった。


「「「「「「「…。」」」」」」」


クラス中が中島のあまりの対応に唖然であったのは言うまでもなく

僕すらビックリで固まった。

それでも放課後のまだ皆が居るこの時間にどうにか誘わないといけないので

固まってもいられない。


「サトー!!」


「俺達はサッカーやるから…」


(サッカーって…お前等3人だぞ…

フットサルすら出来ない人数でサトーも冗談がキツいぜ!)


「おっけ!おっけ!サッカーもやろう!どうせ野球だけじゃ飽きると思うし!」


「う〜ん…俺は良いけど…」


「俺も別に〜」


「えぇ…グローブ持ってないよ…」


「あ!グローブは僕の貸すし、中島も何個か持って来ると思うか大丈夫!」


なんとかサトー達3人を引き込む事に成功。

だがその後、教室に居る他の男子達も誘ってみたが皆ダメ…


「糸井川!」


他のクラスに当たろうとランドセルに腕を通したところで声がかかった。

1チームにも足りない野球に参加者が!と思って

僕は嬉々として振り向いたが…


「え?三島?」


そこに居るのは三島 里恵と

その裏に隠れる様に見てくる鈴木 智子だった。


2人はクラス内でも良く、一緒にくっ付いてるペアなんだが

三島の方はクラス委員長で物怖じしない性格の子だから何度か話した事はあるが

鈴木の方は女の子的な女の子で…直接でなくても会話なんてした事ない。


「糸井川…今日触れ合い公園行くの?」


同じクラスだが…

ハッキリ言って三島達とそんなに接点は無いし、なんで聞かれるのか分からないが

まぁ中島との話やクラスの男子達を誘ってたから聞こえたのかも…


「そうだけど…?もしかして一緒に野球したい?なら…」


「は?ありえないんだけど。」


(うん…やっぱり女子は苦手だ…。)


人の良心を平然とへし折ってくるのは勿論の事、

三島の後ろに居る鈴木すらクスクスと笑って追撃を仕掛けてくる。


そりゃ僕だって女子が本気で男子の野球に参加するなんて思わないけど

現状7人の極少人数の編成だが

それでもたぶん野球は楽しいし、サッカーだって楽しいんだ。

女子がやろうとしない理由が僕には分からない。


「2人とも可愛いし応援とかしに来てくれたら

ホームランとか余裕で打てると思ったんだけど、残念だわ〜中島の頭ぐらい残念だわ〜」


僕の適当な返答に


「意味わかんない。」


クスっと笑ってからバッサリ切り捨てる三島と


「………。」


顔すら見せようとしない鈴木


(本当に女子って分からないな〜…

遊びたいなら遊びたい!って…

玉と棒で遊びたい!ってハッキリ言ってくれたら楽なのに!)


だけど女子相手にそんな事言えないし、

断られた以上、遊びのメンツが足らない事態は改善される事は無い。

いや、たぶんどう足掻いても今日のメンツは足らないだろうけど…サッカーもある訳だし、


「そっか…でも来たくなったらいつでも来てよ!

公園で遊んでるから!

じゃあ僕は他にも誘わなくちゃいけないから!」


僕は2人にそれだけ言い残して、

他の友達も誘う為に大急ぎで隣のクラスにも声を掛けに行った。


教室を出る際に

三島と鈴木が「またね。」と言っているのが聞こえた事で

少なくとも嫌われてはないんだな〜っと思えたが

本当に何で引き止められたのか訳が分からなかった。





「Hey、hey、ヘーイ!ピッチャービビってるよ〜♪」


「リーリー!リーリーリー!あと一歩で2塁着いちゃうぜ〜♪」


僕とサッカー部チームvs野球部中島と楽しい仲間達で

野球と名前を変えたイジメの真っ最中である。

まだ3回表なのにも関わらず15対2の大差をつける大番狂わせを起こしている。(中島の中で)


もちろんコレにはハッキリした理由がある。

中島は自分が野球部という事で僕にチーム分けを任せてしまったのだ。

僕が中島相手に手加減をするわけも無く、

運動神経の良いサッカー部連中を手中に収めて、

ピッチャー(中島)の球に当たれば足の速いサッカー部連中は難無く塁に出る事の出来る

最強打者チームを構成するのは当たり前の事である。

盗塁は人数的に暗黙のルールで無しだけど、

2塁ギリギリまでリードして次のヒットで帰還する最強の脚力の者達だ。

中島達が勝てる訳が無い。


(ククク…算数の時の怨み忘れはせんぞ!)


僕は打席に立ち今日何度目か分からないホームラン予告した。


ヒットにさえなれば勝てるのだが個人的な賭けがあるので

毎回ホームランを狙う姿勢は欠かさない。

もう1つ理由を付けるなら中島を煽る事は欠かせないのだ!


「糸井川〜…なんか向こうで三島達が呼んでるぞ〜?」


「…へ?」


ベンチで出番を待つサトーが公園の遊具がある丘の方を指差し教えてくれた。

そこには確かに学校で見た2人の姿があるのだが…


(なんでコッチ来ないの?)


2人は丘の上で僕に来るよう手招きをしている。

一応確認の意味も込めて自分に指を向けてみるとより一層手招きが激しくなった…


今度は中島を指差してみたが2人は勢いよく顔を横に振って腕を交差させてバツを作る…


また自分に指を向けると激しく手招き…


続いてサトーに指を…


「早く行ってやれよ…。」


「ごめん、面白くなっちゃって…んじゃサトー代わっといて!すぐ戻るよ!」


僕はサトーにバットを渡して丘の上に走って行った。



僕が2人の下に着くと三島は開口一番に、


「あたしと智子、糸井川の事が好きなの」と


いきなり告白された…


(…僕!? …てか、2人??)


すぐに頭に思い浮かべられるのは男子達がカラかって来る未来図と、

一体なぜ僕なのか?何か好かれる事をしたのか?そもそも2人共?

いや、2人はペアだから…ん??疑問ばかりだった。


「え〜と、…。どこが…?」


僕の口を突いて出たのは最大の疑問である

僕のどこが好きなのか?という事だった。

運動やスポーツはそこそこ出来る方だけど僕より出来る奴は多いし、

勉強は出来ない方で宿題なんてやらないし

顔だってカッコいい奴はサトーとかヨッシーとか…いっぱい居るし、

明るいなら中島なんて頭の中まで晴天だ。

皆には言ってないけど女子と話すの苦手だし、話す事もテキトーで…


(もしかして…イタズラか何かかな?)


どんなに2人で一緒に居るからって

好きな人も同じにするなんて…?

でもイタズラと考えれば…僕自身で言うのもなんだけど確かに的確な人選だと思う。

三島は冗談を言う感じのタイプじゃないし、

鈴木なんて男子のほとんどが初開口だと思うから冗談に聞こえないだろう。

この2人が男子で冗談を言える人材としては僕になるの案外必然なのかも…


「て、手紙に書いたから!」


(あ、手紙に書いてあるのか…それってラブレター?!)


たかが冗談にそこまでする?

いや、女子は細かいし…手紙読んだら『ばーか』とか書かれてるパターンとか

読んだ後に『騙されたー』とクスクス笑われるヤツなのか…?


「あ、う、うん。」


「それでどっちが良いか決めて!」


(うわー…これ冗談だとしても僕の答え方で2人の仲…。

少しキツいけど三島なら、

バッサリいくあの鋭い太刀筋で僕の精神を潰して笑って終わる冗談になるかな?

鈴木を選んでしまったら…

緊張でもされて気まずい空気になったらちょっと困るな…でも

冗談でも絶対にどちらかが振られる役目になるし、それが大人しそうな鈴木だと変に気にしちゃって…)


ーーーーーーーー下手な考えをしていた僕はーーーーーーーーー

彼女の次の言葉に考える事もせずに頷いてしまったんだ。

ーーーーー この後、一生の後悔をするとも知らずにーーーーーーー


「この公園の何処かに手紙を隠したから見つけてね!」


「うん、分かっ…」


(え…三島なんて?)


「それじゃ。あたし達行くから…智子行こ!」


僕は後ろを振り返り丘の上から公園を見渡す…

そこには拓けた場所で野球をする中島達、

野球をする中島達の奥でフリスビーを楽しむ親子、

公衆トイレの近くのバスケットゴールでバスケをする中学生ぐらいの3人組、

そしてこの丘を挟んで反対側には、

公園のアスレチックと呼ばれる大型遊具に、噴水がある広場がある。

木が植えられてる公園の外周に、所狭しと設置されたベンチの数々…


(ただ歩いて見て回るだけでも30分はかかるぞこれ…。)


しかも隠させていると考えると…

尚且つ見つけ出すのが手紙2つ…


「な、なぁ…三島…。」


もう彼女達は公園から居なくなっていた。


今から見つけようとすると完全に中島達をスッポかす事になる…

事情を話せばサトー達なら分かってくれそうだけど…

僕が誘って遊ぶ事になったサトー達、谷山、日野は言うなれば、ほぼ強引に引き込んでる…


(流石にそれは出来ない…。)


なら…





僕が中島達の下に戻ってすぐに野球をやめてサッカーにシフトチェンジした。

『点数差がつき過ぎてつまんね〜』っと言えば

負けチームに居たヨッシー、タケオ、谷山、日野は賛同するし、

勝ちチームのこっちは元がサッカーをするつもりだったのだ乗らない筈はない。

中島だけ何か言ったが多勢に無勢…サッカーをやる事に、

そしてサッカーになればこの人数…誰1人として休めない。

キーパーなんて洒落たポジションなど無く、皆で攻めて皆で守る。

手さえ使わなければなんでもあり、場外無しの2つのゴールがあるだけのサッカーだ。


皆がサッカーで疲れた時に駄菓子屋の提案をし、

駄菓子を食べながら話をして頃合いを見計らって…


「もうこんな時間か…どうする?もう一回サッカーする?」


「ファミチキ食いたいからコンビニ!」


「俺もコンビニ!」


「あ!!塾で帰んなくちゃ!」


「あ〜…俺ん家、遠いから帰るわ〜。」


「んじゃ中島帰んなら俺も〜。」


「翔はどうする?」


「俺も帰ろうかな〜…。」


「まだ時間あるし俺の家でスマブラやろうぜ!」


皆が個々に意見をしてくる。

この時間だとまとまりが無くなるのはいつもの事で


「じゃあここで解散する?」と切り出すのは今回だけは僕の役目だった。





人の声が溢れていた公園は

冷たい風で木の葉同士が差擦れ合う音に代わり、

紅色だった空が薄暗く闇に染まって

点々と設置された街灯は、まるで『帰りなさい』と優しく諭す様に灯り出す。


(帰れる訳ないだろ…)


何度も見回った場所を…もう一度探す。

見てない場所がないか…さっき通った道をまた歩き、

こんな所にはないだろうと…目を凝らして、

見えない隙間に…手を伸ばす。



(元からそんなもの無くて僕をからかっただけかもしれない…

少しでも遊んでた僕に2人は呆れてしまったのかもしれない…)


だとしても…

そうだとしても…


(もしも、もしも彼女達が本心で手紙を書いてくれていたのだとしたら…)



どれだけ探そうとも…


彼女達の手紙は…


…見つからなかった。







そして次の日…教室で出会った彼女達は何も言わなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お〜い!糸ッチ起きてっかー?」


「んあ?もう数学終わったのか?中島…?」


頭上から降ってくる聞き慣れた声に覚醒すると

教室内の賑やかな音が耳に入ってくきた。


「とっくに終わってるっつーの!

放課後だよ!放課後!」


(なるほど、寝る子は育つと言うけれど…

帰りのホームルームすら起こさないとは…先生も粋な事をしてくれる。

…呆れられてない事を祈るしかないな。)


「そっか…んじゃもう少し寝るかな…」


「寝るな!寝るな!今日野球やるんだから!」


(昨日は部活の野球で、一昨日はクラブの野球って言ってなかったか?

そして今日も野球なのか?どんだけこいつ野球好きなんだよ…)


「ほいほい…頑張って青春を謳歌しなされ野球少年。

今日は部活か?それともクラブの方か?」


「遊びだよ!みんな誘ったから糸ッチもやろーぜ!」


「おま…遊びでも野球とか依存度半端ないだろそれ、

何か薬でもやってるのか?違法物使っちゃった?」


「んな事したらプロいけねーから!」


(プロの前に逮捕だよ…

でも昔から変わんないな中島は…

高校生になってもプロとか普通に言えるのはスゲーよ…仕方ない)


「現実ってものを教えてやるぜ!島ッチ!」


「ぷっ、そ、そー来なくっちゃ!ふれこー集合だからな!」


それだけ伝えると中島は教室から出て他の所に行ってしまった。


(ふれこー…)


あれから何度も遊びに行った公園。

行く度に探してしまうあの手紙。

もう何年も経っていて、

あったのだとしても紙だってボロボロで

原形すらとどめてない事なんて分かり切っているのに


(また探してみるか…)


僕は机に掛かった鞄を手に取って

少しでも早く公園に着ける様に小走りで教室を出た。





「ノーコンピッチャービビってる!2打席連続ファーボール!」


「空前絶後の〜超絶怒涛のファーボール!

野球を愛し、、、野球に愛されなかった男ーー!

そう!彼の名は〜〜♪♪」


「う、うるせー!まだエンジンが掛かってねーんだよ!」


同じ仲間にすら煽られ始める中島。

僕が現実を教える前に自ら現実を知ってしまったらしい。


(悲しい事かな…これが現実なのだよ中島君。)


だけど約束した手前、僕自身も手加減するつもりは毛頭無いので

わざとストライクゾーンに入れずらい様にバントの構えをした。


「ひ、卑怯だぞ糸ッチ!それはズルい!」


(野球ガチ勢に対してバント程度で卑怯になるかって…)


バットを縦横無尽にストライクゾーン内で動かしていると

後ろのベンチでヨッシーが何か話てる。


「あれ?三島さん達?ん?俺?中島?糸…」


「い、今だ!」


中島が何の根拠に今だと思ったのか分からないが

不意を突いたにしては自分で言ってしまうお粗末さ

僕はバントの構えを戻し、その甘い球にぶち当てた。


「な!素人がバスターだと?!」


打球は外野に着いていた谷山の頭上を大きく越えて公園の外周に植わる木に当たった。


「…ぷっは!ホームランだ中島!うま棒はお前の奢りだな!」


「へ…?」


(だけどベースを踏む気は無いから

これはホームランにならないんだろうな…)


僕はボールが飛んでいった方とは逆の公園中央の丘の上を見上げた。

そこには取り戻したかった『あの時』があるかの様に2人が立っている。


「…みんなごめん!僕、約束があったの忘れてたわ!」


そう言って僕は丘の上に駆け出していた。


7年前のあの約束。


今度は答えを出せるだろう


もしもイタズラだったんなら…


その時は2人が声を上げて笑ってくれる…そんな答えを

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