表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

自問自答の話し合い

リベラに着くと己雪さんはもう来ていた。

「こんにちは、馨くん」


「待たせてすいません」

俺は己雪さんより後に来たのを誤りながら席に着く。

「いや、気にしなくて言いわよ。私が早く着いただけだから」

「待ちました?」

「ほんの十分程度だよ。気にする事は無い。君が来るまでに今日はどうしようか考えるのにちょうどいい時間だったよ」

「そうでしたか、それならまぁ、よかったです。」


「さて、馨くん。まずは昨日のおさらいで家の中をイメージしてみようか」

「はい、家の中を見下ろすイメージですよね?」

「そうだね。」

 俺は瞼を閉じて、家の中をイメージしてみる。昨日歩き回ったので大体の空間把握はできていた。

「イメージ出来ました。」

「なかなか凄いな馨くんは、こんなに早く出来るとは教えがいがあるね」

 己雪さんは少し嬉しそうな声を出した。


「ありがとうございます。」

「では次のステップに行こう。イメージの家から外に出てみよう。」

「それは昨日屋根を見ていたような感じでしょうか?」

「そうだね。そして屋根を見るんじゃ無くて玄関の前に立つんだ」

「玄関の前まで着ました。」

「そしたら、いいかい?自分の言えの中に入って自分と会話するんだ」


「えっ?」


「そう、不思議に思うかもしれないが、馨くんのエフには馨くんと言うEFの住人がいる。その住人と話をして君を受け入れて貰わないといけない。」

「でも、今は自分がイメージしている自分ですよ?それと話をするというのはちょっと」

「そうだね、困惑するのも無理は無い。馨くんのエフに住んでいるエフはまだ隠れているんだ。自分自身と対話できるようになった時、彼は君の前に出てきて彼の言葉で話を始めるだろう。馨くんのエフがどういう風に形作られているか」

 俺はまだ己雪さんの言っている事がよく分からなかった。


「なんの話をすればいいのでしょうか?」

「なんでもいいさ、思った事を話しかければいい」

 なんだか独り言を繰り返している気分になりそうだ。

 俺はイメージした自分の言えの中で、自分に向かって。

「よく分からないね。」

 そう話しかけていた。


 想像上の自分は何を答えるのだろうか?


 自問自答の話し合いだな

「そう、よく分からないな」

「お前は何故ここにいる?」

「自分で想像したからだろう?」

「俺は何故想像しているのだろう?」

「己雪さんに言われたからか?」


「エフをコントロールするためかな?」


「何故エフをコントロールする必要がある?」

「コントロールできないと危険だから」

「本当にそうなのか?」

「彼女を疑うのか?」

「何故信じる?」

「何故疑う?」

「お前はそんなに人を受け入れられるのか?」

「彼女が嘘をついている感じはしなかった」

「どうしてそう思う?お前は嘘をついている人を見たことがあるか?」

「友達がものを隠した時ぐらいかな?」


「ほぉ、その友達はものを隠してどんな嘘をついたのかな?」

「知らないと言っていた。」

「何故嘘だとわかった?」

「顔がにやけていたから」

「本当にそれだけで嘘だと判断したのか?」

「最終的に彼は嘘だよと自分で言っていたよ」

「それが嘘だったんじゃないのか?」

「君はほかの友達が隠したのを見たんじゃなかったのか?」

「そんな事は覚えていない」


「本当に?」


「都合のいいところだけみているじゃないのか?」

「友達は別の子をかばっていたんじゃないのか?」

「そんな事は無い、あいつはそんな嘘をつく奴じゃなかった」

 俺は何故だか自分と話をしている間に、昔の記憶を思い出していた。


 何故だろう?自分自身忘れてかけていた感情が思い出されてきた。

 俺は一度眼を開けて自分自身との対話を打ち切った。

「どうしたの?突然中断して」

 己雪さんが聞いてきた。


「いえ、ちょっと嫌な記憶を思い出して」

「そう、それもあなたなのよ。エフはあなた自身の闇も受け継いでいるわ。それもコントロールできないと、エフに引きずられるわよ。」

 俺は少し黙って、考えていた。


「そうですか、自分自身と向き合うのはなかなか難しいですね。」

「そうね。」

 己雪さんは落ち着いた表情で、何かを考えている。

「自分自身の闇は長く生きれば生きるほど広がっていくわ。一つ暗い部分ができればあっという間に心をむしばんでいく。それはきっとどれだけ私たちが大人になろうと変わる事は無いと思うの。」

「今の自分に正直でいられるように、後ろを振り向かなくて済むように出来て生きられると良いのだけど。」

「でもね、そんな完璧に出来る人なんていないのよ。」

「誰しもいつでも心に闇が生まれる隙があるわ。その闇とどれだけ向き合って生きられるかも大事なのよ。」

「逃げたい時は逃げればいい、でもいつかは必ず対峙して受け入れなければならないわ」

 己雪さんは一つ一つ言葉をかみ締めながら話していた。

 まるで何か自分に言い聞かせているような印象も受けた。


「だからね。馨くんも、自分の心に闇があるなら、それといつか向き合わないといけない事を覚えておいて。今は逃げてもいい。でも逃げているだけではその闇はいつまでもあなたの心に残り続けるわ。忘れようとしても忘れられない。そういうのが心の闇でもあるから」


 俺は考えていた。

 自分の闇など大した事は無いのかも知れない。さっき考えていた事も今となっては関係も薄い友人だ。信じるも信じないも大した影響は無い。むしろ今あって彼を信じられるかと言ったら時間が空きすぎていてかなり難しいだろう。


「もう一回やります。」


「そう、無理しなくてもいいのよ?馨くんは、自分と対峙するまで二日で来ているのですから、普通はそんなに自分自身と向き合えないものよ。」

「大丈夫です。自問自答することには慣れていますから」

 そう言って俺はもう一度自分自身と話をするため瞼を閉じた。

 どれくらいの時間が過ぎたのだろうか?


 俺は自分自身と話をしていた。まぁ、自分と話をするといっても自問自答なのだ。言う言葉も返す言葉も結局自分の頭で考えている。例え罵倒しようが、されまいが、それは自分自身なのだ。自分自身の事を「駄目だ」とか言ったとしてもそんなに傷つく事はないだろう。どれだけ持ち上げても卑下しても自分の知っている自分の姿でしか返事は出来上がらなかった。


 肩を叩かれる。

 己雪さんが呼んでいた。

「馨くん、今日はもう終わりにしましょう。もう陽も落ちてしまったわ」

「こんな時間まで、ありがとうございます。」

「いいのよ。悪いけどあなたの自問自答を聞かせて貰っていたわ」


「えっ?」


「あなたのエフに少しお邪魔していたの」

「そうでしたか・・・・・・、自問自答を聞かれるは恥ずかしいですね。」

「悪いとは思ったのだけれども、ごめんなさいね。馨くんがどれだけ自分と対峙しているのか確認しておきたかったのよ。」

「わかりました。」

「特に何か言うつもりは無かったけれど、一つだけ言わせて」

「はい」


「あんまり自分を責めない方がいいわよ。自分自身を貶めて自分を傷つけるのは感心できないわね。自分自身を傷つける事で闇を埋めようとしないでね。」

 俺はあまり言っている事が咀嚼しきれずにいたが、己雪さんは俺の事を気遣って言ってくれているのだろう、感謝の気持ちを伝えて中身については後で考える事にした。


「わかりました。ありがとうございます。」

「分かってくれたなら良かったわ」

「ところで、馨くん。自分自身との会話は一人でいる時にはしないでね。自分の部屋をイメージして自分と眼を合わせるの事もしないで。」

「わかりました。何故でしょう?」

「あなたはもう、エフに大分近づいているわ。いつ自分のエフと対峙が始まってもおかしくないと思うの。対峙を乗り越えられればエフをコントロールする一歩になるわ。」


「でもねエフの中の住人とても良く君の事を理解しているの。君がエフの住人と対峙して彼に飲み込まれた時、君は君で無くなってしまう可能性が高いの。だから対峙している時に飲み込まれそうになったら、あなたを呼び戻す人が必要なのよ。」

「そうですか、分かりました。気をつけます。」

「それじゃあ、明日もいいかな?」

 己雪さんが予定を確認してきた。


 俺は「大丈夫です」と言いそうになったが、桃香の事が頭に浮かんだ。

「明日はちょっと考えさせてもらってもいいですか?」

「そう、まぁ無理にとは言わないけど対峙を始めるまで時間は空けたくないわね。」

「ちょっと試験とかあって、また連絡します。」

「分かったわ。返事待ってる。」

「ありがとうございます。」

「それじゃあ、連絡下さいね。くれぐれも一人で対峙しないようにね」

 そう言って、今日は己雪さんと別れた。


 一人で対峙といっても、今はただの自問自答だ。それがエフの住人とだと何かが変わるのだろうか?いまいちピンとは来なかった。ただ話をする己雪さんの顔がいつになく神妙な顔つきだったのを思い出して考えるのは止めておこうと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ