幼馴染の理不尽な怒り
家のベッドで仰向けになってくつろいでいた。
巳雪さんは本当にただの優しい人なのだろうか?
今日の心理当ても何かトリックが無いのか?
どこかに罠が潜んでいるのではないか?
色々な考えが堂々巡りに頭の中でぐるぐると渦を巻いて全く気持ちが纏まらなかった。明日会っても何の話をすればいいのだろうか?
携帯が鳴った。
誰だろうと思って名前を見ると桃香だった。
「もしもし?どうした?」
「メールの話」
「夏休みのことか?」
「そうよ」
「何かあるのか?」
「何もないわよ」
「何か言いたそうだったじゃないかよ」
「忙しいんでしょ」
「お前のために時間を割いてやらない事もないぞ」
「なにそれ」
「なんだよ、言えよ、付き合ってやるから」
「むかつく、なにその上目目線。」
「悪かったよ」
「思ってない、悪いと思ってない」
「悪かった。ごめん。」
俺は祈るように誤った。
「悪かったと思うなら何が悪かったと思ってるの?」
そう言われて俺はちょっとイラっとした。けど、ここは我慢しないと。ここでまたいつものやり取りをすると二次災害が発生する。
「お前の話をちゃんと聞かなかった。」
「えっ?ちゃんと聞いてなかったの?じゃあ何?朝の会話は適当に返事していたんだ。ふ~ん、分かったわよ。私も今度から馨には て・き・と・う に返事する事にするわね、いいわね?」
うぉぉぉぉ、殴りてぇぇ、電話越しでも殴りてぇ、女子に手を上げるのは最低だとわかっていても手が出そうだ。どうしたんだ、今日の桃香は、いつもよりも随分と強気じゃないか
「悪かったって。今度からちゃんと話し聞くよ。どうしたんだよ。いつもの桃香らしくないぞ」
俺は思わず思った事を口にしてしまった。
「何?私らしいって何?私だっていつまでも同じじゃないのよ。」
「そうか、そうだよな。いつまでも一緒じゃないもんな。悪かったよ」
そういうと「ドンッ!」と鈍い音が電話の向こう側から聞こえた。
「どうした?なんか大きい音がしたけど」
「何にも無い。関係ないでしょ」
「そうか、何も無いならいいんだけど・・・・・・、ほんと大丈夫なのか?」
「何も無いって言ってるでしょ?私が信じられないの?」
「そんな事ないよ。桃香のことは信頼してるって。心配だから聞いたんだよ」
「そう、ふーん。」
「そうです。桃香さんの事は信頼申し上げております。」
「なにそれ。それで?そういえば、今度からちゃんとするって言ってたわよね?馨のちゃんとするってどうするのよ?」
また攻め込んできた。今日はほんとどうしたのだろう?とりあえずとてつもない地雷を踏んだようだ。こんなに怒っているのはいつぶりだろうか。もうこうなったらひたすら言う事を聞くしかないと、そう覚悟を決めて会話をしていくのだ。
うん、頑張れ、俺。
「はい、桃香さんの話はちゃんと聞きます。挨拶もします。」
「なにそれ?そんなの小学生でも、幼稚園児でもできるわよ。むしろ小学生の方がちゃんとできてるんじゃないの?今更何を当たりまえの事を言っているのよ。」
「すいません、その当たり前ができておりませんでした。」
「それで?それだけ?」
「会話している時はイヤホンしません、適当な返事を返しません。」
「そうよねぇ、人が話しかけているのにイヤホンまた着けようなんて、普通の人はしないわよねぇ?ねぇ、馨は普通の人なの?何?猿?」
「すいませんでした。普通の人がする事ができていませんでした。」
「ふーん、普通の人ねぇ。普通の事ができないんじゃ普通の人じゃないわよねぇ?ねぇ、馨は何?普通の人じゃなくてなんだったの?私には分からないわ」
「すいませんでした。」
「普通の人じゃなくて、すいませんでした。なの?質問の答えになってないんだけど」
「すいませんでした。私はバカでした。バカな人でした。」
「バカ、バカなの?そう。バカじゃしょうがないわねぇ・・・・・・」
少し沈黙が流れる。自分で自分のバカというほど惨めなものは無い。でも桃香の怒りはそんなものじゃなかった。
「バカってねぇ、バカだからって何でも許されると思ってるんじゃないわよ。」
「申し訳ございません。」
「バカって、何?何それ?」
「あのねぇ、私は怒っているの。怒っている人に私はバカでした。とか何言ってるの?」
「ほんと、バカじゃないの?一体何を言ってるのかしら?」
「おっしゃるとおりです。私はバカでした。」
もう言っている事が無茶苦茶だ。バカといっても何それと言われた挙句、結局バカと言われる。俺はもうどうしたらいいのだろう?
「あぁ、もうほんとイライラする。全部、馨のせいだからね。」
「ごめんなさい。」
「明日同じ事したら、もう許さないから。」
「ごめんなさい。」
「返事がごめんなさい、なの?」
「申し訳ございませんでした。桃香さんの話はちゃんと聞いて、適当な返事はしません」
「言ったからね」
「悪かったよ」
一瞬気が抜けて普通の返しを入れてしまう。
「えっ?私がこれで許したと思ってるの?何?悪かったって、悪いから怒ってるんでしょ?」
「申し訳ございませんでした。」
桃香の怒りは再燃し、ひたすら謝り続けるしかなかった。いったいどうしたというのだろう?いつもなら、こんなに怒る事もなく機嫌をなおしてくれていたと思う。
結局、桃香の怒りは欠伸をしながらも怒り続けようとするくらい、最後の一滴まで振り絞っていた。
そして疲れ果てて、電話を切るまで似たような押し問答を繰り返すのだった。
望の話をする余裕なんて無かったな。
その日は電話が終わると疲れて、そのまま寝てしまった。




